※この連載は、ひふみ投信のファンドマネージャー藤野英人さんによる投資入門です。投資ファンドの運用担当をしている「叔父」が、姪の「ユリコ」に、投資について、物語形式で教えていきます。
新聞を読むのもいいけど、街に出よう
ユリコ 叔父さんに言われた通り「まず3銘柄」と思って、興味が持てる会社を探してるんですけど、意外と難しいですね。
叔父 どういうふうに探してるの?
ユリコ 今はFacebookやTwitterで流れてくるニュースを見てチェックしてますね。あと、毎日使っている「 LINE 」もいいかなと思って調べたんですけど、40万円くらい必要だったのでちょっと私には厳しかった。これからもっと伸びる若い企業としては、フリーマーケットアプリの「 メルカリ 」とかが身近だな~と考えたんですけど、まだ上場してなかったし……。上場してない株は買えないんですよね?
叔父 そう、この間「株式市場の魅力は、差別がないこと」という話をしたけど、逆に言えば株式市場に上場してない会社の株は、誰でも買えるわけじゃないんだよね。そういう場合は、株の持ち主から直接譲渡してもらう必要があって、ユリコちゃんみたいな個人で買うのは難しいね。
ユリコ ですよね……。GoogleのAI研究のニュースとかもよく見かけるので、投資したらいいのでは?と思ったけど、日本では上場してないし。海外の株式に投資する人もいるにはいるというのも調べたんですが、まだ日本ですら株を買っていない私にとって海外株は「近い」とは言えないから、まだ手を出さないほうがいいですよね。
叔父 うん、自分の感覚で、「近い」かどうかを確認するのは大事なことだね。
ユリコ というふうに、自分の興味の及ぶ範囲で銘柄を探そうとしたら、結構行き詰ってしまいました……。やっぱり、「四季報」※とか読んだほうがいいですか?
叔父 もちろん、いずれは「四季報」も参考にしてほしいけど、今のユリコちゃんにはまだまだやれることがあると思うよ。この間、ぼくは「株式投資をすると世界がカラフルに見えてくる」という話をしたよね?
ユリコ はい。
叔父 テレビやネットのニュースを見てるだけじゃ、まだまだ世界をカラフルに見ようとする努力が足りないよ。もちろんぼくも、「日経新聞」や「四季報」は参考にしてるけど、自分に合った投資先を探すうえで一番大切なのは「街を歩く」ことだと思っているんだ。
「いい会社」のヒントは街にあふれている
叔父 ユリコちゃんは、土日はどうやって過ごすことが多い?
ユリコ えーと、平日にたまっていた洗濯物を片付けたり、家事をひととおりやったりしたあとに、新宿や池袋に行って映画を観ることが多いかな。それで駅ビルで洋服や化粧品を見て、欲しいものがあったら買って、ちょっとお茶して帰ることもあります。
叔父 そうやって過ごしているなかでも、ユリコちゃんにとって「いい会社」のヒントはたくさんあるはずだよ。この間は、「そういえば最近@cosmeの知名度が上がっている気がする」というところから アイスタイル に目を向けていたよね。それと同じで、「この映画館は何から収益を得ているんだろう」とか「新しくできたこのお店の運営会社はどこなのか」とか、連想ゲームをしていくと、これまで知らなかったけど自分に身近なことにかかわっている会社の存在に気づけるはずだよ。
ユリコ なるほど。叔父さんも、普段からそうしてるんですか?
叔父 うん。会社に入ってくれた人たちにも、新聞やSNSをチェックするだけでなく、街を歩くことの大切さを話すようにしているよ。街を歩くときに、どの年代の人が、どんな服を着て、どんな靴を履き、どんなヘアスタイルをしてどんな表情をしているのか……なんてことにも目を向けられるようになれば、投資にまつわるヒントがどんどん手に入るんだ。
ユリコ それが「世界をカラフルに見る」ということなんですね。
叔父 そう。株は専門知識があれば勝てるという世界でもないんだよ。むしろきちんと街歩きしてアンテナを張っている素人のほうが、プロよりもはるかにマーケットを見る力がある場合がある。ユリコちゃんはドン・キホーテってお店はわかるよね。
ユリコ もちろん。同僚の家で宅飲みするときとか、ハロウィンの仮装を調達するときとか、たまに利用します。目的なしに行く時もあるかも。なんか店に行くだけでワクワクするんですよね。
叔父 ドンキホーテホールディングス は1996年に株式公開したんだけど、上場当初多くのファンドマネージャーやアナリストは、店のごちゃごちゃした雰囲気などに先入観があって「そこまで伸びないだろう」と思っていたんだよ。「業績は伸びているけどいつか成長は止まるだろう」と過小評価していた。
ユリコ へぇ! ドンキっていつも混んでるし、レジャーランドみたいな楽しみがあるのに。
叔父 そう、街歩きをしていたら、そういうことにも気づけるよね。でも、当時、流通を担当するアナリストって高級デパートで買い物するような裕福な環境で育った人が多かったから、ドン・キホーテの店づくりのおもしろさを理解できなかったのかもしれない。でも実際は、ユリコちゃんみたいな若者に支持されてドンキはどんどん売上高を上げていって、数年後には株価も大きく上がった。
新聞やニュースを必死に追うことではなく、街歩きを大切にする投資家も実は多い。年収300万円から資産2億円をもつに至った個人投資家も休日に繁華街や郊外のショッピングセンターに出かけて投資のヒントを探しているらしい。
株は会社から買うものではない
ユリコ 今度街を歩くときは、もっといろいろ考えて、買いたい銘柄につながるヒントを見つけてみます! とはいえ、3銘柄一気に買うわけではないので、ひとまずアイスタイルから買ってみようかなと思うんですけど……。
そういえば、私たちが株を買うときって、その会社から直接、株を買うわけではないんですよね?
叔父 そうだね。そういうときは、今その株を持っていて、手放そうという投資家から譲り受けることになるね。つまり、ユリコちゃんが株に払ったお金は、その前に株を持っていた投資家に入ることになる。ただし、 IPO株……新規上場株のときだけは例外で、公開価格×株数の合計金額がその会社に入るよ。
ユリコ じゃあ、私が買おうとしているアイスタイルの株は、新規上場株じゃないから、いまアイスタイルの株を買っても別にアイスタイルの経営には貢献できないってことですか?
叔父 それがそうでもないんだよね。まず、「株を持ちたいという人が増える」「株価が上がる」ということ自体が企業にとって大きなメリットなんだよ。
ユリコ でも、お金がその企業に入るわけではないでしょう?
叔父 ユリコちゃんが買ったお金自体は入らないね。ただ、株価が上がることは企業にとって、とってもうれしいことなんだ。
ユリコ それは経営者の人とかも会社の株を持ってるから、自分の財産が増えてうれしいってことですか?
叔父 それは経営者が個人としてうれしいだけだよね。でも、企業自身にとってもうれしいことなんだよ。ユリコちゃんに以前、株式を買うということは、会社の資産というリアルなもののオーナーになることだという話をしたよね。
ユリコ はい。
叔父 一方で、株価は毎日夢見がちな投資家たちの気持ちを反映して変動する。つまり、株価……時価総額(株価×発行済株式数)というのは、会社の実体をあらわすだけでなく、その会社への「期待」や「人気」もあらわしているということだね。そして、会社はその「期待」や「人気」によって安心して自分たちの事業に取り組むことができるようになる。そして、実態としても、たとえば金融機関からの信頼も高まって、お金だってより調達しやすくなるんだ。
ユリコ あーー、なるほど。そうなると、私たちのお金が直接入るよりも、大きいお金をまとめて調達できるわけなんですね。
叔父 そう。だから、株を買う人がいること、株価が上がることはちゃんと会社の利益になるんだよ。
叔父さんの話を聞いて、徐々に買う銘柄を絞り始めたユリコ。第6回では、証券口座を開設し、株を買うタイミングについて相談していきます。藤野さんの連載を読んで、株が気になってきた人は、まずは証券口座を開いて、株式投資の一歩を踏み出してみましょう。