誰だって株式投資をする時に期待するのは儲けを出すこと。しかし実際にはなかなかうまくいかないことが多いものです。それなりに勉強して投資したつもりでも、予想通りにいかないと不安な気持ちになったり、くじけそうになったりします。この理由は投資家自身の心の中にいくつもの大きな罠が潜んでいるからなのです。それは一体どんな罠なのでしょう? そんな心理の罠を研究するのが「行動経済学」です。このコラムでは行動経済学を通じてそんなココロの罠について解明していきます。これを読めばココロの罠に気付き、損を避けられるようになるかもしれません。
損したくない人はビュッフェで胸焼けする
では、具体的にどんなココロの罠が潜んでいるのか考えてみましょう。人は誰でも損をするのが嫌いです。これは当然なのですが、問題は「あまりにも嫌いなために結果としてもっと損をしてしまう」ことになりがちだということです。例えば食べ放題のランチビュッフェに行くと、「何とか元を取ろう」としてつい食べ過ぎ、後で胸焼けしたりする、ということはよくあります。これは「元を取る=損をしない」という思い込みから来る失敗です。ランチビュッフェというものはそもそも元を取るのが不可能な価格設定になっています。でなければそのレストランは潰れてしまうからです。したがって、あなたが高校のラグビー部員でもない限りは、好きなものを腹八分目で食べるのが最も合理的な行動なのです。
競馬で大負けしている人がとるべき「正しい賭け方」
行動経済学では「人は同じ金額でも儲かる喜びよりも損する痛みの方がはるかに強く感情を揺さぶられる」という心理(損失回避性)があるとされています。実際に心理実験によれば、儲かった時と損をした時を比べると、例えその金額が同じであっても損をする心の痛みの大きさは儲かった心の喜びよりも2倍以上大きいと言われています。その結果どんな行動に出るかというと、「利益が出ている時には確実性を好み、損失が出ている時には賭けに出たがる」という傾向となります。つまり人は“損をする”ことが何よりも嫌いなので、利益が出ていれば、すぐ確実に利益を確保しておこうとするのです。
逆に損が続くと、何とか一発逆転を狙おうとします。例えば、競馬に出かけて朝から負け続けた場合、最終レースでの最も正しい賭け方は本命を買って勝つ確率を高め、損を少しでも少なくすることのはずです。ところが多くの人が最終レースでは大穴を狙いに行きます。そして結果はさらに損を拡大してしまうのです。これは損を嫌うあまり、何とか取り返したいと思う心理がそうさせるのです。
なぜ「十勝一敗」でも株で損をするのか?
①下がったら怖いので利益確定のために売る
②うれしくなって、さらに買い増しをする
では、上記のケースではどんな心理が働いているのでしょうか?
冒頭の設問で①の行動を取る心理を見ていきましょう。買ったときよりも株価が上がると利益が出ていますから、「せっかく儲かっているのに、売らずに下がってしまって利益を逃してしまっては……」となるのを恐れるのです(損失回避性)。結果として利益確定の売りに走る、という行動を取る人が多くなります。この「ココロの罠」にハマって、少し上がったらすぐ売る、という行動を繰り返すのは危険です。なぜならいくら小幅の利益を積み重ねてもたった一度の大きな下落でそれまでの利益を全部失い、「十勝一敗でも損をする」ということになりかねないからです。
株価は上がるよ、どこまでも?
次に②の行動です。誰でも株価が上がると嬉しいものです。本来なら上がって十分儲かったのですから売れば良いのですが、このタイプの人は今の状態が今後も続くと思ってしまうココロの罠にハマりがちです。そこで買い増ししたくなりますが、こういう行動を取ってしまうと高値を買ってしまうことになるため、結果的に損をしがちです。①の場合も②の場合も行動経済学で言う「損失回避」や「今の状態が今後も続くと思ってしまう」といった“感情”が起きて、冷静な“勘定”の判断を邪魔してしまうということなのです。
感情ではなく、勘定が大事
多くの人は株価の変動に目を奪われ、どうしても“感情”で判断してしまいがちになります。でも株式投資で大事なことは“考える”ということです。自分なりの基準を持ち、現状がそれに合うかどうか自分の頭で“勘定”しなければなりません。次回以降もこうした感情に惑わされる例を紹介し、そうならないようにするためのポイントを考えていきましょう。