五島(ゴシマ)洋税理士を迎え、ズボラ向き確定申告のノウハウを聞く、フリーランス必見企画。前編では、手間ひまかけずにできる節税の“仕組み化”について学んだS子。そのココロは「根拠を説明できるか?」。さらに深堀りしていきます。
「節税は“仕組み化”すれば、ズボラでもOK!【前編】〜意外と手間ナシ。これだけやれば文句ナシ! プロお墨付きの確定申告術」を読む
ニンテンドースイッチは経費になりますか?
S子
ほう。説明がつくか否か? 例えば、この間、Nintendo Switchを買ったんです。「FROGGY」でゲーム業界の記事があったので研究しようと思って……と理由をつけられたら経費になるってこと?
ゴシマ
仕事以外で使っていませんか?
えっと……。いや、家族で取り合って遊んでますね……。
プライベートでも使っているなら原則的に按分が必要になります。
じゃあ、今日、「FROGGY」のテーマカラーに合わせて、撮影用のカーディガンを買ったんですが、仕事でしか着ないならば経費になる?
そうですね。例えばテレビ出演用に服を買って、テレビ出演時以外では着ないのであれば全額経費にすることも可能です。
じゃあじゃあ、土日にサラリーマンの夫と一緒に外食しながら、今度いく取材について相談をしたり、事業についてアドバイスをもらった場合、その飲食代も経費にできる?
でも、アドバイスをしてもらう、もらわないに限らず、家族で食事はするし、会話もしますよね。
同様に、仕事の途中で外で一人で食事をしても、仕事に関係なく食事はする。なので経費にはできない。あくまでもその経費を使うことが「仕事の売上に結びついているか」がポイントです。
税務署は「異常値」をチェックする
なるほど。車両費はどうですか?
たとえば週何回かは必ず仕事で使うというのであれば、車両費もガソリン代も按分できます。使う頻度だけでなく、「地方取材で遠出をするときだけ車を使う」というならば、走行距離でガソリン代を按分することも可能です。
また、海外で不動産投資をしたい。その下見も兼ねてプライベートで海外に行くとして、3日のうち1日は物件視察に使ったならば、3分の1だけ経費に入れるという考え方もできます。
おー、そんな手も……。
ただし、公私の区別がつけにくい個人事業主の場合、全額ではなく按分しておく。これがポイントです。
そして按分の比率を一度決めたら、そのルールに則ってやる。税務署は額の大きな変化、“異常値”をチェックします。その観点からも、最初に仕組み化したらその通りにやることが大事なんです。
“異常値”や“経費計上のモレ”を防ぐためには、帳簿をつけたら、経年で数字を比較するクセをつけておくようにしましょう。
迷ったら按分する! その按分比率について、説明さえつけばOKというわけですね。
ココで一つ覚えておくといいのは、刑事事件と同じで、“立証責任”は向こう(税務署)にあるんです。
な? 刑事事件!?
何やら、キナ臭い話のようですが、ようはこういう話です。
前編のリビングルーム按分の話に戻ると、「朝9時から17時までは完全に仕事部屋として使っている」と言っても、「リビングルームなんだから、そんなことはないでしょう?」と疑われたとする。
でも恐れるに足らず。否認の証拠を出さねばならないのは税務署側というわけ。
「おー、おー、そこまで言うなら監視カメラでもつけてもらおーじゃねーか!」
……とケンカを売る必要はありませんが、痛くない腹を探られて、動揺するべからず。後ろ盾がない弱小フリーランス、覚えておきましょう。
レシート整理はやらなくて良い!?
青色申告の場合、領収書って7年間保管しなきゃいけないじゃないですか。なんか、青色申告会が主催している記帳指導会に行ったときに「領収書、レシートは日付順に並べ、相番を振りなさい」と言われたんです。その整理がメンドーで……。
そんな作業は一切やらなくてOKです(キッパリ)。法律で定めているのは保管義務のみ。ならば、ガサっと封筒に1年分入れておけばいい。私もそうしてますよ。
えー、そんなザックリでOKなんですか?
今まで真に受けてきた時間を返して。
税務調査に入られたら、「ちゃんと整理してください」と言われるかもしれませんが、「すみません」と謝っておけばいいんです(笑)。
税理士の中にも、「日付順に並べて相番振ってスクラップブックに貼りましょう」などと言う方もいますが、それは自分が見やすいから(苦笑)。
なぜ、他人のために法律にも定められていない業務を、コストや手間ひまかけてやらねばならないのか。好きな人はやればいいけど、そんなことに時間を使うなら、売上をあげるために仕事の案件を1つでも増やした方がよっぽどいいですよ。
いやー、安心しました。あと、レシートも領収書もない経費は認められないのでしょうか。
ここも勘違いしがちなポイントですが、原則は「説明がつけばいい」。レシートや領収書は、その証拠固めの助けにしかすぎない。
たとえば、電車・バスなどの交通費は原則、領収書が出ないですよね。ならば行った先をメモしておけば証拠になりえます。
あるいは、領収書をなくしてしまった場合も伝票を起こす。あるいはスケジュール表や家計簿などに金額や店名を記録しておけば、それでもOK。クレジットカードの明細でも助けにはなる。
もちろん例外的な処理ではありますが、そもそも「領収書さえあればいい」なら偽造することも可能。それで認められるのであれば、ズルし放題になりますよね。
税務署が伝票、領収書類などを見る際のもう一つのポイントが、「実態があるかどうか」。怪しいと思ったら、税務署の人が飲食店などに確認しに行くこともありますので、くれぐれも文書偽造などに手を染めぬように。
節税にとらわれ過ぎるのは本末転倒!
将来的な話ですが、売上が上がってきたら法人化したほうが、税金対策の選択肢も広がると聞きます。どうなんでしょう?
法人化の一番のメリットは、社長も給与所得者になるので、給与所得控除が使えるのは大きいですね。
ただし、社会保険料負担が増えるので、そことの兼ね合いでしょうか。
節税の選択肢も増えますが、私が常々言っているのは、法人化を考える際のキモは長期プランで「どう仕事をしていきたいか」を考えること。そもそも、節税にとらわれ過ぎるのは本末転倒で、そこに労力をかけるより、売上をあげることにまずは注力しましょう!
はっ、いかにも。そもそも稼ぎが少なくちゃ、節税も意味をなさないですもんね。まずは頑張って売上を伸ばし、できる範囲で賢く節税しながら、払うべきものはきっちり納めます! ありがとうございました。
・経費で使った領収書がなくても、クレジットカードの明細書でも大丈夫だし、メモやカレンダーなどに証拠を残しておけばセーフ! 偽造は絶対ダメよ
・領収書・レシートは、袋などに1年分にまとめて入れて「保管」さえしておけばOK。いちいちスクラップブックを作る必要はナシ
・税務署は、数年間の支出割合の推移を見て、異常値をチェックする。記帳時に目立つデコボコがないか、気をつけるべし
・「経費」「控除」を増やして節税に励むのもよいが、個人事業主として何よりも大事なのは「売上」を伸ばすことである