一方、青木優社長は学生時代に世界中を旅した際に、まだまだ日本の情報や魅力が海外に届いていないという事実を目の当たりにされました。この経験から訪日外国人が増えている中、もっと日本の良さを世界に発信したいという思いで株式会社MATCHAを起業されます。訪日外国人向けウェブマガジン『MATCHA』を運営されています。現在は地方自治体との共同プロジェクトなど多岐にわたる活動をされています。
本日はそんなお二人に「僕たちふたりは”好きなこと”で会社を立ち上げた」をテーマに、好きなことを仕事にするまでの経験や、好きなことだからこそのご苦労、そして会社経営にかける思いや今後のビジョンなどを語っていただきます。後半では藤野英人氏にも入っていただきまして、お三方でクロストークを展開していただきます。さあ、それでは山井さん、青木さん、よろしくお願いいたします。
山井:はい。
青木:はい。お願いします。
山井:そうですね。
山井:ありがとうございます。
山井:今、ビジネスシーンでもキャンプ用品を使って、日本の企業をもっと元気にしようということをやっているんですね。
山井:皆さん、改めましてこんばんは。スノーピークの山井でございます。「人生に、野遊びを。」というのがスノーピークのコーポレートメッセージ。スノーピークは僕の父が創業して、父はロッククライミングが大好きだったんですが、今、第2世代の僕らはオートキャンプというSUVやミニバンに乗せるキャンプをメインの事業にしています。
こちらの、キャンプ場に見えると思いますが、実はこれスノーピークのヘッドクォーターズ本社でございます。新潟燕三条の小高い丘にあって、世界中のアウトドアブランドでキャンプ場の中に会社がある唯一のブランドがスノーピーク。どんだけキャンプが好きなんだよという話なんですけどね。建物も非常にモダンなデザインがされていまして、自然に対しても配慮されている非常に美しい本社を持っています。
オフィスはフリーアドレスで、非常に働きやすい快適な環境で仕事をさせていただいています。本社のストアでは、夕方に仕事が終わると、誰ともなくたき火をしたりですね。このあと最初はノンアルコールビールとかを飲んでいるんですけれども、だんだんビールになりウィスキーになりワインになり。それで帰れなくなって、ここでキャンプをしてしまうという、そういう社風でございます(笑)。
本社のキャンプ場には、たくさんの”スノーピーカー”と呼ばれているスノーピークの熱狂的なファンの方々が年間たくさんいらっしゃってくださっていまして。ポイントカードを発行しているのですが、ここにいらっしゃっているユーザーさんはここに来たことがないユーザーさんの2倍買っているという。宗教法人ではないんですけれども(笑)、総本山、聖地参りみたいなかたちの効果も高い施設になっております。
僕もキャンプが大好きで、たぶんいままでの人生で1500泊ぐらいキャンプをやっているので、地球上で一番キャンプをたくさんやっている人間だというふうに自負をしております。
1冊だけ本を書いていまして、『スノーピーク「好きなことだけ!」を仕事にする経営』。まさに今日のセッションのテーマとダブるような本を出しています。自己紹介は以上でございます。
青木:MATCHAという訪日外国人向けのメディアの会社をやっています、株式会社MATCHAの青木と申します。一つ聞きたいんですけど、MATCHAという会社を知っているという方はどれくらいいますか……ああ、1割ぐらい知ってくださっていたんですね。ありがとうございます。会社自体は2013年の12月3日に作りまして。ちょうど3日前に会社ができて4期が終わり5期目になったという、まだまだベンチャーの会社です。
青木:ありがとうございます。何をやっているかというと、日本に来る外国人に対して日本の情報を届けていく。それを通じて「日本に来てよかった」「また日本に行きたい」「日本が好きになった」、そう言ってもらえるようにメディア運営をしております。
青木:今、オフィスが浅草にありまして。社員はだいたい25、6人いるんですけれども、4割ほどが外国籍のメンバーとなっていて、台湾人が4人いたり、タイ人が2人いたり。ルーマニアとバングラデシュと、あとドイツ人が最近入りましたね。外国籍が多いメンバーで海外に情報を出している媒体です。
あとで触れるかと思いますが、今年すごくいいニュースがありました。星野リゾートさんから出資をいただいたり、スノーピーク、そして藤野さんからも出資をいただいています。これから、より日本の良さを世界に発信すべく力を蓄えているメディアです。本日はよろしくお願いいたします。
青木:北海道の帯広で、野村総研さんのイベントでお会いしたのが出会いですね。300人ぐらいのでかい会場でしたが、大学の先輩ということをきっかけに名刺交換をさせてもらいました。そのあとですね、山井さんと藤野さんがタクシーに2人で乗っていたのを目にして。「ここに乗れたら絶対に面白いだろう!」と思って飛び込んでみたんです。そうしたら”タクシーピッチ”じゃないですけど、仲良くなりまして。仲良くというか、そこから新潟の本社に行かせてもらったり、定期的にお会いしています。この間も会社の合宿でスノーピークへ行きました。
山井:僕ら3人とも同じホテルに泊まっていたんです。それで、ホテルから藤野さんと2人で懇親会の会場に行こうとしていました。すると、藤野さんと僕がタクシーに乗り込むタイミングで青木さんが来られました。僕はその前の会場でたくさん話をしていたので、青木さんが誰でなにをやっている人なのかを藤野さんに説明したんです。「上場も考えていらっしゃる」という話も聞いていたので、「今の段階で、藤野さんに決算書や事業内容を見てもらったらいいんじゃないの? せっかく同じタクシーに乗っているから」みたいな感じになって。どれだけ引きが強いんだよという話です。
青木:その翌週には藤野さんに事業計画書を見てもらいました。さらにその1ヵ月後にはスノーピークの新潟のオフィスにお邪魔しています。
青木:運はすごくいいと思います。
山井:僕も運はすごくいいです。逆に言うと運だけでいままで生きてきたような人間なので。
青木:僕は明治大学の国際日本学部という学部に入学しました。そこは「日本の漫画やアニメ、ファッションや日本の伝統工芸など日本の文化を学問として学んで、世界に発信できる人を増やそう」というコンセプトの学部だったんですね。そこで日本に対して関心が高まりました。
そのときの講師が、「日本の文化は世界で流行っているけれど、日本人がそこでビジネスできない」という話をしていました。自分はそのときに世界一周に行くと決めていて、将来独立すると決めていたので、「だったらこれから海外を回っていくにあたって、日本のものがどう受け入れられているかを見ながら旅をしよう」と思って実際に回りました。
10日間インドで瞑想をしたり、様々な経験をしました。これ、イギリスのロンドンでお寿司がおにぎりみたいにパッケージングされていたWasabiというお店の写真です。ほかにも、イタリアのルッカというコミック&ゲームフェスティバルというイベントで、日本の漫画がすごく扱われていたのも見ました。日本のものというのは確かに海外でウケているなと。でも全然そこに日本人がいないんですよね。日本食を含めてそうです。なので、「日本のものを世界に発信する仕事をしたいな、それをビジネスにしたいな」と思って、帰国後日本を回りました。
日本各地を巡ったんですけど、そのときに思ったのが、日本人自身が地域の良さを知らないので、当然外国の人も知りえないのだと。さらにショックだったのが、僕が巡ってみて「いいな」と思ったものがどんどんなくなっているという事実に遭いました。それで、それらを伝える仕事をしたいと。その後、映像の会社に半年間ほど所属して、自分で事業をやるために退職後2ヵ月で会社を立ち上げ、今に至ります。
青木:たとえば、日本の酒蔵は30年前だと3200ヵ所あったと言われていますが、今は1500ヵ所以下、1000ヵ所以下にもなっていると言われています。ほかにも、僕は銭湯が好きで、週に2、3回行くんですが、東京の銭湯もここ10年ぐらいで半分以下になっていると。こうしたものは時代の流れや、商習慣が変わったり様々な要因があると思いますが、良さが知られないと人は行かないですよね。人が行かないとお金も動かないし、人が触れないとどんどん時代とズレてなくなってしまう。そういったものがすごくもったいないなと思います。
山井:僕は82年に大学を卒業して、4年半ぐらいラグジュアリーブランド、カルティエとかシャネルとかロレックスとか、そういうものを輸入している会社でサラリーマンをやっていました。大学4年間とサラリーマン4年半で、8年半東京にいたときに、自分自身が人間性を回復しなきゃいけない欲求、自然に対する枯渇がありました。ビジネスパーソンとして見ると、日本が経済的にすごく成功していて、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本も出ていた時期です。だけど、国民の実感としてはあまり豊かではない。経済はいいけど、じゃあ生活レベルで豊かか? といったらまだまだ欧米には遠く及ばない……みたいな。「何か足りないな」と思っていて、自分自身も人間性を回復させる必要がありました。そこで、手っ取り早いのは父親の会社に入って、今、うちの本業になっているオートキャンプみたいな、”キャンプをおしゃれで豊かなものに変える”ビジネスを自分でやりたいと。先ほども申し上げたように1500泊ぐらいキャンプをやっているぐらい好きなことなので。
山井:僕のようなキャンプの大好きな人間から見ると、そういう商品を作ってプロデュースしてくれる会社もなかったので、だったら自分でやろうというのがそもそものきっかけだったんです。
青木:うちの会社のビジョン・ミッションはですね……実はここ半年間はめちゃくちゃ悩んだんですよね。というのは、5月に山井さんの新潟のオフィスにお邪魔した際に、ミッションを話したら、「言葉が弱い」と山井さんに言われて。
山井:それはひどいですね。
青木:ほんと(笑)。そこから半年間、めちゃくちゃ悩んで、それでいろいろ考えました。ただ結果、ミッションはあまり変わっていないんですよね。なので、覚悟の問題だったなと。
今、会社のミッションは何かと言うと、「日本の価値ある文化を時代とともに作っていく」。自分たちは情報発信の仕事をやっていますが、その先には人の体験だったり、お金の流れだったり、人と文化の触れ合いだったり、そういったものがある。それを見据えて、人それぞれ感じ方は違いますが、日本のいいというものが残っていくことを、いい意味でアップデートしていくことをやりたい。という思いが明文化されました。
ビジョンは、わかりやすいもので「世界最大の訪日観光プラットフォームになる」。以上を会社のビジョンに据えました。それを目指して、今、頑張っています。
青木:今、毎月だいたい180万~200万人ぐらいの人が見てくれているメディアで、まだまだこれからというところです。ただ、国内で旅行者がMATCHAを見ている数で言うと毎月だいたい20万~30万人ぐらい見てくれているんです。訪日客は今、年間3000万人ぐらい来ているので、1年間に均すと10%ぐらいの人が知ってくれています。そこをなんとか100%まで高めていきたい。まずはいい情報を届けて、読者へうちのメディアがあることを知ってもらう――そういったことを今やっています。
青木:うれしいです。ありがとうございます。
山井:私たちスノーピークは一人ひとりもキャンパーなので、やっている事業は全部キャンパーとしての目線でいろいろ考えています。僕が思うキャンプのよさといえば、個人がキャンプをやると人間性が回復されます(笑)。
山井:ユーザーさんの90%ぐらいがファミリーです。そうすると、たとえばお父さん、お母さん、お子さんが2人いるとしたら、4人家族。4人とも自然の中で生活するので、人間性が回復されるんですね。
山井:たぶん家にいるときはそんなことないと思うんですが、お子さんが走り回りますね、まず。
山井:野原を駆け巡る。非常に子どもらしい子どもになる。なので、キャンプで何がいいんですかと言われた場合に、僕は「簡単に言うと、お子さんが普通の子どもになります」と言っています。たとえば4人家族を例にしましょう。キャンプではまず、おうちを一緒に作るところからやるんですね。あとはごはんを一緒に作るとか。時間も、2泊3日で行ったとするとほぼフルに一緒にいられる。今、家庭生活でそれは起こらないんですね。ウィークデイはお子さんたち学校に行ったり、お父さんも会社に行くし。そうすると、2泊3日家庭生活を行っていて、一体どれだけの時間を家族で共有できるんだろうと考えると、実際あまりできないんですね。なので、キャンプに行くと家族は非常に幸せになります。さっき見ていただいたように、われわれのキャンプ場とか、全国各地のキャンプ場でキャンプをすると、必ずお隣さんがいらっしゃるんですね。自分の家族も幸せですし、お隣も幸せ。なので、お隣同士がつながるんですよ。コミュニティができます。
山井:人間の本能としては、「隣とつながりたい」欲求は普通にあるもので、キャンプのシーンでそれが復活するということはよくあるんですね。スノーピークはそういう意味では、”日本中をつないでいるコミュニティーブランド”というふうにも言われています。僕はその先に「地方創生」みたいなものがあると思っていて。個人も家族も地域も国も地球も、人間性を回復されたいいものに、よりしたいなというのが僕のビジョンです。
山井:僕にその質問をするとですね、答えはスノーピークヘッドクォーターズキャンプフィールド。ここに勝るものはないです、本当に。すばらしいキャンプ場です。
青木:先々週、30人ぐらい会社のメンバーを連れて行ったんですけど、めちゃくちゃ良かったですよ。ありがたいことに会議室も使わせてもらえました。キャンプをすると、普段コミュニケーションしないメンバー同士が話したり、一緒に料理を作ったりするんですね。星空もすごくきれいで、12時ぐらいまでたき火をしながら時間を過ごすことができました。朝は、「寒い!」とか言いながら起きるんですが、でも風景がとてもきれいで、もう1回行きたいと思わされる場所でした。僕、これまで2回キャンプしたことがありますが、2回ともスノーピークのキャンプ場でして。きっと3回目もそうなるんじゃないかなと思っています。
山井:ぜひいらしてください。
青木:そうですね。たき火がすごくいいですね。囲みながら「こういうことがやりたいんだよね」みたいなことを話していって。そこで「実は私もそう思っていた」みたいな意見だったり、本音が出やすいなという実感があります。
山井:藤野さんもうちの株主でいらっしゃいます。藤野さんがいるのにこういうことを言うと非常に不遜な人間になるかもしれないですが、僕は「ユーザーのことを幸せにすれば、結果的には株主は幸せになる」と思っています。なので、そこにフォーカスしていれば、結果的に藤野さんも幸せにできると思っています(笑)。
山井:僕と藤野さんは前からの知り合いだったところ、青木さんが急に一緒のタクシーに乗ってきたんですよね。
藤野:そう、そう。いきなりでびっくりしたんですよね。2人でタクシーに乗っていたら、青木さんが前の座席にグワッと座ってきて。会場に行くまで、逃げられないじゃないですか。それからずっと青木さんがご自分の会社の話をしましてね……すばらしかったね。皆さん、多少強引ぐらいの人のほうが、起業家からすると面白がるところがありますよ。まあ、時と場合によるけどね(笑)。
山井:青木さんは、そう見えないからいいんだよね。
藤野:そう。それはある。
山井:強引に見えないけれど、たぶんかなり強引な人だと思いますけど(笑)。
青木:どうなんですかね(笑)。このタイミングだ! という瞬間ってありますよね。そのときは、自分はたぶんそうなる気がします。
藤野:僕らにとって大事な人って誰だろう。投資家にとって大事な人って誰だろうということですよね。スノーピークさんに僕らは投資をしています。じゃあ僕らにとって大事なのは誰だろう――これはもう考えるまでもないですね。スノーピークのお客様ですね。「株主が偉いのか」というと、所有をしているという面で見れば、確かに所有者、オーナーです。では、企業価値の源泉はどこから出ているのかを考えましょう。山井さんであることはもちろんですが、では誰がお金を払ってくれるんですか、という面で見ると「お客様」であることは明らかです。
たとえば私と山井さんで話をするときに、山井さんに対して「配当をたくさん寄こしなさい」という話をしたら、それは違うだろうという話になるかもしれない。でも「山井さん、お客様に対して真剣さが足りないんじゃないんですか」というところで私が仮に怒ったとします。その場合、山井さんが怒り返すことはないと思うんですよね。つまりなにが大切なのかというと、お互いの価値の源泉である「山井さんのお客様であるスノーピークのお客様に、どれだけ喜んでもらえるのか」というところで議論するのが、一番目線が合うんですね。
だから「私たちは投資家であり株主なんだけれど、偉くないよ」ということを言っています。僕らの投資先のお客様が大事だから。ですから、「お客様のためにどれだけ真剣なんですか?」と厳しい質問をしたときに怒るような会社だったら、それは売ってもいいと判断します。
藤野:成功しそうだと思いません?
山井:おいしいラーメン作りますよ、僕は。
藤野:実際、キャンプでラーメンとか作ったりするでしょ?
山井:お料理大好きなので。
藤野:そうですよね。
藤野:私の会社に、上場企業が上場する前に必ず社長に会っている渡邉という「上場の職人」がいます。「ひふみ」は新規上場株へ積極的に投資をすることで知られていますが、これは私ではなく、職人である渡邉が主導しています。ということで私は彼の判断をとても大切にしています。通常ですと「この会社は儲かります。いきましょう。これこれ、理由はこうです」と話してくるんですが、スノーピークだけ違った。
藤野:渡邉が何と言ったのかと言うと、「スノーピークは日本の宝です。損をしてもいいから投資をしてください」と言うんですよね(笑)。「ええっ!? それ、どういうこと?」と話をしたら、実は彼自身がキャンパーなんですよ。冬山にも行くようなディープなキャンパーで。それで、彼が大学時代から冬山登山をしたときにスノーピークの商品を使ったことで何度も命が助かった経験があると。他社の商品とは違いますと。ペグひとつとっても違うんです、というふうに言われたんです。だから、スノーピークという会社は絶対に日本で残すべき会社だから、投資をしてください、と。趣味と言われても、そういう日本を絶対的に良くするような会社に投資をしなくて投資家と言えようか! みたいな話をするわけですね。「言えようか」みたいな……まあ確かに「言えませんね」という話をして(笑)。
それで「投資はするけれども、実際どうなの」という話をすると、渡邉が「もし失敗したらほかの会社の投資でいくらでも挽回しますから、それでもいいからこの会社へ投資をしてください」となって。「もしダメだったらタダでもいいからスノーピークの社員になって盛り返します」みたいなことを言うので(笑)。いや、おまえが入っても迷惑だろうみたいな話になりまして。そんな経緯でスノーピークへ投資をしたんですが、実はそこから倍近くなっていてとても儲かっています。
でも、儲かったことが大事じゃなくて、「この世の中に残すべき価値のある会社がある」という、渡邉の心意気、そしてそれだけの気持ちを持った会社だというところが大きいですね。山井さんのことは以前からずっと聞いてましたが、お会いするのは少し時間がかかりました。実は私は明治大学で教えているんですが、授業に来ていただいてお会いできたときに、「渡邉がいいというだけの人であるな」というふうに感じまして。それから仲良くさせていただいています。
山井:藤野さんって、さっきのお話でも皆さん、お感じになったと思いますが、ある意味天才ですし、セオリーもちゃんとある。でも最後はたぶん、藤野さんが好きな株を買うと上がるんだと思いますね。なので、そういう人なんじゃないかなと思っています。もちろん、経験もたくさんあるし、ロジックもおありになると思いますけれども、それ以上に「自分が好きかどうか」をすごく大事になさっている。たぶん渡邉さんのことを大好きなので、渡邉さんが「買ってください」と言ったから、たぶん買われたんだと思います。そういう意味で言うと、僕がIPOをやって、上場した以降に藤野さんと初めて会っているんですけど。青木くんもね、タクシーで(笑)。
藤野:上場する前です。
青木:そうですね。
藤野:僕は投資を専門でしていますが、いろいろな側面がありますよね。でもやっぱり、いい意味で「夢を見ることができる」のが投資の良さです。それが定期預金とかと違うところですね。なぜ投資が儲かるのか、儲かるかもしれないのかというのは、未来が確定していないから。確定しているものに投資をするのがいわゆる金利系の商品や債券です。「株式」は確定していない未来に賭けることなんですよ。リスクがあるから、下がるかもしれないけれども、儲かるかもしれない。未来に賭けるということは確定していないことなのだから、どんなに調査をしようともわかるわけがないんです。
だからスノーピークという会社がいい会社だと思っても、新しい挑戦に失敗することだってあると理解しています。過去にも何度か失敗はあったでしょう。だから、将来に向けて新しい挑戦をする山井社長に対して、「じゃあ今度出す商品は100%当たりますよね?」みたいなことを詰めるのは、商売を知らないとしか言いようがない。「絶対にお客様のためになるからいけるだろう」と思ってやっても、それでも何割かはダメかもしれない……と思って挑戦しているわけで。そういうことをちゃんと腹に飲み込めるかどうか、というところが投資の魅力なのかなと。
要するに、最終的には「夢に賭ける」ということなんですが、不確実な未来に対して夢を見ることができるのが、投資の面白いところじゃないかなと思うんですね。
藤野:「好き嫌い」って大事です。自分の好き嫌いという感覚を研ぎ澄ますことが大切。好きなものがどういう過程をたどるのか、嫌いなものがどういう過程をたどるのかを知るとですね、意思決定をそんなに間違わなくなるんですよね。むしろ損得で考えるほうが意思決定を間違えやすいです。これは、「本当は自分は好きではないが、儲かりそう」という気持ちで投資するとか仕事をするとか、あるいは人と付き合うようなことをやると、うまくいかなかったときに、非常に大きな打撃を負うんです。だからまずは損得よりも、「好き嫌い」が大切だと思っていています。「好き嫌い」は損得を超えるんじゃないかなと。
好きが狭くて嫌いが多い人にとっては、「好き嫌い」で選ぶと大変でしょう。でも、好きが多くなってくると行動も増えてくるし、大切なことだと思います。
青木:自分はいままで大きな金額を、投資をしたことはないですが、会社をやること・自分の時間を使ったものが投資だと思っています。自分が使った時間や触れた人、関わった方と一緒にいることで、何かがプラスになったり、前進させたり……そういった意味合いを持つことが多いですね。なので、自分の中でメディア運営は投資だなと思っています。
自分が変わったきっかけも、とある人のTwitterを見て海外に行こうと思ったからなんです。それで世界一周し始めて。ほかにも、知り合いが会社をやっていたから影響を受けて会社を始めたり。たぶん、そういった人たちから自分は投資をしてもらっているんですよね。それで自分は前進している。だから、自分も何かすること、メディアをやることによって、いろいろなことを前進させることができたらなと思っています。
今回の場も、それこそ山井さんや藤野さんが出してくださった。そして出資してくれたことも、うちの会社に関しては前進です。そして絶対に何かで還元していきたいと考えています。
山井:そうですね。僕は青木さんと一緒で、経営者なので自分の会社のより良い未来を創るために一番たくさん投資をしています。藤野さんから僕はいろいろなことを教わっているんですよ。たとえば「スノーピークの株を売るときはどんなときですか」と聞いてみたら「それは山井さんがバットを振らなくなったときですよ」と言われて。僕が投資をしなくなったときに未来が制限されるだろう。スノーピークが活力を失うので、そのときは売るかもしれない」と。「でも山井さんはバットを振りまくっているもんね」とこの間言われましたね。
山井:ええ。あとは個人的に。個人の資産の投資で考えると、日本人って貯蓄や元本保証みたいに狭く投資を考えてきた方が多いと思います。しかしこれだけ金利が下がってくると、多少リスクがあるが考え方を変えて、株式に投資するかと。先ほど藤野さんのお話にもありましたが、たとえばMATCHAさんに投資をしていますね。そうすることでこの会社が良くなれば楽しいし、2番目か3番目にリターンもあるかもしれないなみたいな、というふうには思います。僕も基本的には好きな銘柄しか買わないですよ。「ひふみ投信」も買ったんですけども、それは藤野さんと出会って、藤野さんのことを信頼しているし好きになったから買ったんです。
藤野:すごく生々しいお話をしていいですか? 先日新潟に行く機会があったときに、山井さんは不在でしたが山井さんの許可を取って「オペレーションコアHQ2」を見せてもらったんです。
山井:知らなかったです(笑)。
藤野:社員さんや幹部である妹さん(渡辺美栄子専務)といろいろとお話をして。それで中を見せてもらったんですよ。それで私がどう思ったかというと……「山井さん、バット振ってるな!」と。中の様子を見ると、キャパシティは、今のキャパシティと比べると過剰投資になっているんじゃないかなというふうに思って。実は見た瞬間に、「短期的に数字は悪くなるな」と思ったんです。でも、僕らはそれで株を1株も売らなかった。たぶん表面的な数字は下がるだろうと思ったんだけれど、「山井さん、思いっきりバットを振っているな」と受け取ったから。
要するにこれは「未来への投資」であって、必ずそれがペイする自信もある。オペレーションコアHQ2が建って、快適なオフィスになったものの、働いている社員がちゃらんぽらんしていたらちょっとどうかな、とは思いました。でも、社員は変わらず気合が満ちているし、それで頑張ろうと士気が上がった。これは山井さんがバットを振った結果なので、短期的には数字は下がるかもしれないけれども、長期的には絶対いいことをやっているよねと思ったんですね。
大切なことなんですが、現場を見るときに、現場の変化で何が起きるのかはある程度想像できます。ただ、想像するときに短期的な儲けばかり追求すると大事なことからブレてしまう。「短期的に収益が悪化するから株を売ろう」とか動くと、バタバタしてしまうし、気持ちもゆったりできないし、根本的に「長期」という観点の中で、ちゃんとやっているんだなという視点で見れば心が乱れることもないし、ブレることもないですね。「ああ、山井さんはいい社員に恵まれて、めちゃバットを振っているな」と。
山井:どれくらいのバットかというとですね……2016年12月期で、うちの売上が92.2億円だったんですね。その物流機能とかコンピュータの能力的には売上400億円ぐらいの設備投資をしました。つまり、今の年商の4倍の設備をしました。なので、今年の決算は悪くなりましたね。当たり前の話なんですけど。
藤野:だから「ゲッ!」と思ったんですよ。「すげえ」と(笑)。ただ「これがいっぱいになったらすごいな」というのがあって……ならないかもしれないけど。でも、たぶんなるんだろうと思うんですよ。何でかというと、「なる」と思っている人がなるんですよ、必ず。変な話だけど。先ほど山井さんが語った「人生に、野遊びを。」というテーマがありましたよね。このテーマでこれだけの売上と利益を作るんだ! と思っている人って、たぶんほとんどいない。だから、その人が「なる」と言ったら、その通りになるものなんです。
たとえば僕らも「ひふみ投信」を始めたときってお客様はわずか69名で、1億5000万円からのスタートでした。でも僕は、将来的には数千億円を運用する会社でファンドになると、そのときに本当にイメージしていました。運用報告会へ毎月来てくれているお客さんも当時は3、4名しかいませんでした。でも、そのときにうちの社員に、隣にある100名単位で入れるセミナールームを指して、「2年後には必ずここのセミナールームがいっぱいになって、抽選するようになるから」という話をしていました。2年後と言ったんだけど、結局6年後になったんですけど(笑)。
藤野:だからやっぱり想像して夢を見て、そのために具体的な努力をしている人が必ず……投資に必ずということはないんだけれども、勝つ。だからMATCHAも僕はそうなると。MATCHAもインバウンドでポータルになると彼自身、イメージしているから。イメージしているとだいたいなるんですよ! 三木谷さんもそうだったし、孫さんもそうだったし、柳井さんもそうだったですね。
青木:今も振っていますね、たくさん。でも本当にそうなんですよね。先ほども話しましたが、ビジョンを決めることが自分にとっては、覚悟の問題だったなと思うんです。だから、「世界最大のメディアになる」と、大々的に会社としてまた社外的にも言い始めたのって本当に10月ぐらいからなんですよ。そこからすごく面白い人が入ったり、会社が変わり始めましたね。ビジョンを繰り返し自分の中で言うと、数字も伸びていく――なので、今後もバットを振り続けていこうかなと。来年はたぶん、今までで一番大きなバットを振ろうと思って、今、仕込んでいます。
藤野:でも現実の野球と違うところがあるんです。それは、野球だとバッターボックスに立てる9回に1回しかバットを振れない。でも、現実の世界は何度でもバットを振ってもいいし、かつ三振でなくて100回振ってもいい。それに1回ホームランを打ったときに、ホームランの点数を100点と決めてもいいわけですよね。それが現実のビジネスのいいところ。なんならめちゃくちゃでかいバットにして、絶対当たるバットを作ってから振ったっていいんですよね。
これがビジネスの世界の、野球と違うところです。野球の世界だとピッチャーに「おまえ、ど真ん中投げろ」なんて八百長になるから言えない。ビジネスの世界では、球を投げる人に対して「ここに投げてくれ」と言うことだってできなくはない。だから、そこがすごく大切なんです。リスクを取ることはすごく大事だけれども、「どう取るのか」という工夫をそれぞれ自由にできるところが、会社というか仕事の面白いところですよね。
青木:最近、藤野さんがロケットのスポンサーをし始めたじゃないですか。あれはどれくらいのバットの振りようなんですか。
藤野:あれはですね、そこそこ振っていますよね。けっこう僕ら、今年大きく利益が伸びているんだけれども、去年の2016年度の利益分ぐらい出していますからね。
青木:それは相当ですね。
藤野:そうですね。
青木:帯広ですよね。
藤野:そうです。僕ら3人が出会った縁の地、帯広の大樹町というところで、ホリエモンが出資しているインターステラテクノロジズさんという会社が第1号のロケットを打ち上げて、半分成功して半分失敗したんです。つまり、途中まで上がったんだけれども、自己分解して途中で破壊したんですね。10kmぐらい上がって、あと100kmいけば宇宙だったんだけど、十数kmのところで結果的に言って自爆したというのを中継で見て。それを見ながらすごく感動したんです。2号機を打ち上げる機会があったら、絶対に自分が手を挙げたいなと決めました。1号機が爆発したその10秒後ぐらいには、堀江さんにフェイスブックのメッセージで「2号機を打ち上げる機会があったらうちにやらせてくれ」と言ったんです。
山井:投資家ですね、やっぱりね。
藤野:それからあと、けっこうオファーがあったらしいですが、最初に手を挙げてくれたということで決めてくれたそうです。宇宙に挑戦するのは夢ですよね。夢に向かって挑戦する姿を応援していくことは投資の在り方とすごく似ている。だから2号機を打ち上げるのは応援したい。3号機になるとその衛星を打ち上げる予定なので、資金が10倍ぐらいになるらしいので(笑)。だから今がチャンスだったというのもありました。
質問:僕は栃木出身で、日光の荘厳な環境の中で育った植物を実際に植えて、日光の空間を再現した住宅会社を作ろうとしています。住宅会社の社長にお話を聞きに行ったり準備をしています。それで青木さんのメディアのような海外の人にPRできる場所に、僕の住宅会社もお願いしたくて。
青木:ここで言われたら断れないですよね(笑)。はい。ぜひあとでまた話を聞きます。
質問:はい。お願いします。
青木:それは実際にやるんですかね。
質問:やることを決めていて。
青木:いつやるんですか。
質問:融資の相談へも行きました。木の住宅を造るのが得意な一級建築士さんと今お話をして、協力してもらうことは決まっています。
青木:はい。ぜひまた話を聞かせてください。
質問:はい。お願いします。あとは「カンブリア宮殿」、藤野さんと山井さん、拝見いたしました。面白かったです。ありがとうございました。
山井:ぜひね、一つやって。一つでいいから。一つできたら必ずほかでも成功するよ。必ず一つやって。