杉原杏璃の「わたしの投資家人生」

FROGGY LIVE #2 – あなたのお金をカエル授業 –/ 大江 英樹杉原 杏璃

大江:投資家タレントとしてご活躍の杉原さんに「杉原杏璃の『わたしの投資家人生』」というタイトルで、45分ほどお話を伺います。藤野さんのようなファンドマネージャーの話、そしてプロの投資家の皆さんのお話も、皆さんにとって非常に参考になると思います。しかし投資のプロではない素人で、なおかつ成功している方のお話を聞くのも勉強になるのではないかと、楽しみにして来ました。

杉原:ほんとですか。完全な独学なので、ちょっとお恥ずかしいです。

大江:いやいや。株式は誰かに習ったからうまくいくというものでもありません。早速ですが、杉原さんが投資を始められたのが12年前ですか。

杉原:そうですね。23歳のときです。

大江:どういうきっかけで投資を始めてみようと思われたんですか。

杉原:私は地元が広島で、19歳のときに上京しました。アイドルとして大人の方々と仕事をしていましたが、食事の席にいるときに経済や政治の話になったときに「アイドルにはこの話、わからないよね」みたいな感じで、蚊帳の外にされたことがあって……。

大江:それ、悔しいですよね。

杉原:すごく悔しくて。23歳の小娘だから知識がないという風に見られるのだな、と。それで何か大人の方々と共通点を持ってお話ができるものができればというので始めました。

大江:12年前、つまり2005年といえば、ちょうど小泉郵政解散のあった頃で、株価が非常に好調なときでしたよね。

杉原:そうなんですよ。始めたのがとてもいい時期で、株の中でいい経験をしたのが、今続けられているポイントでもあります。

大江:なるほどね。その後、いろいろ厳しいことがありましたよね。

杉原:そうですね。リーマン・ショックも経験しましたが、長く続けていたので回避する術も身についていました。ですから、ダメな時期があっても諦めなくて良かったなと、今になって思います。

大江:始めてから今日に至るまでいろいろなことを経験されてきたと思いますが、記憶に残っていることや、印象に残っていることはありますか。

杉原:基本的にはネットで一般の方がコメントしていることを拾って「あっ、いついつに何か発表があるんだ」とか、「ニュースが来るんだ」という、”なんとなく”の気配を感じて買うことが多いんです。でも知識がないときって飛びつきやすくて……気配だけで買っちゃって、紙切れになってしまった、上場廃止になってしまった企業がありましたね。

大江:そういうのもあったんですか。

杉原:はい。大きい企業だからまさか上場廃止にはならないだろう、なんて信用しちゃって。

大江:なんとなく、どこかわかりますけどね(笑)。情報源としては、ネットをよくご覧になるんですか。

杉原:多いですね。私は本当に知識がないので、基本的には自分の好きなジャンルのものしか買わないです。たとえばゲームが大好きなので、ゲーム関連の企業など、新興系の銘柄にチャレンジすることが多いです。

大江:先ほどの藤野さんのお話にもありましたが、自分の好きな分野に投資をするのはいいことですよね。

杉原:関心が持てない銘柄だと、よく調べないで乗っかってしまうこともありますよね。

大江:自分の好きな銘柄や関心のある分野に投資してみて、うまくいくことが多いですか。

杉原:そうですね。ゲーム関連だと、隅々までわりとわかるので、ライバルの企業もちゃんとチェックします。でも、それゆえに銘柄に「恋」をしてしまうことが多くて。

大江:「銘柄に恋」をする? おおっ。

杉原:ファンになってしまって、手放す時期なのに手放せなくなってしまうことも多くて。そのへんの見切りがすごく不得意なんです。

大江:好きな分野に投資をすれば、ライバル会社の内容もチェックもするというお話でしたが、逆に「これは失敗したな」というエピソードはありますか。

杉原:同じくゲーム銘柄ですが、「大きなゲームがスタートしますよ」となると、注目が集まり、スタートしてからも株価が伸びるんですね。ゲームの人気ランキングがどんどん上がっていくものだから、「もうちょっと、もうちょっと……」と思っているうちに急降下してしまい、塩漬けということがよくあって。

大江:なるほど。そういうの、けっこう多かったですか。

杉原:多いですね。「株価はいつか自分の買った位置には戻るだろう」と思って待つタイプなので、基本的にデイトレの銘柄以外は損切りをしないスタンスなんです。ところがそうすると5年とか待つものも出てきて、効率がすごく悪いように感じていて。

大江:「塩漬けはすべてを奪う」という言い方もありますが、ついつい売り時を逃してしまって、長期に持つことになってしまうということですね。

杉原:損切りのノウハウやテクニックがあればできるかもしれませんが、下手に損切りしてもうまくいかない気がして。また、私は投資が本業ではないのでそこまで時間を割くことができなくて。

大江:今、悩んでいることや困っていることはありますか。

杉原:私はテクニカル分析を細かくしない方なんですが、プロから見ると、ちゃんと分析した方がいいのでしょうか。

大江:テクニカル分析ね。しなくていいでしょ。

杉原:あっ、いいんですか。

大江:はい(笑)。

杉原:何というか、銘柄選びをやるからには「理由」が要るなと探してはいますが、「なんとなく」ということも多くて。

大江:なるほど。なんとなくね。テクニカル分析って、いわゆるチャートですよね。投資の世界というのは、実を言うといろいろな流派があるんですね。たとえば「テクニカル分析派対ファンダメンタル分析派」とか。投資信託だったら「パッシブ派対アクティブ派」みたいなのがあったり、あるいは「バリュー派」と「グロース派」とか。

投資にはいろいろな流儀があって、流派がいて、それぞれの流派が自分のところをある種の”宗教”みたいな信仰を持って、他の流派のことをボロクソに言うようなことがありがちです。私はそうした「思い込み」を持ってしまうことが投資をする上で良くないと考えています。頭を柔軟にしなければいけない。というわけで、私はテクニカル分析を基本的にはそれほど重視はしていません。

杉原:あっ、そうなんですね。

大江:基本は、先ほどの藤野さんの話にもあったように「長期的に利益と株価というのは一致」します。将来にわたって得られる利益のすべてを合計したものを今の価値に引き直したものが、今の株価だというのが絶対の真実です。ですから、私は企業のファンダメンタル分析が大事だと思います。その一方で、株には人間の心理がものすごく影響するんですね。

杉原:そうですよね。

大江:今年(2017年)ノーベル経済学賞を受けたシカゴ大学のリチャード・セイラー教授も行動経済学を研究されていたこともあって、最近行動経済学が話題となっていますよね。人間って、どうしても心理的なことに揺さぶられてしまうので、理屈は正しくても、そうじゃないことをやってしまうということがありがちなんです。

大江:「チャート」が示しているのは「過去の株価」ですよね。過去の株価の動きというのは、その時々の人間の心理の動きを表しているわけです。人間が500年、1000年先も大して変わらないとすれば、「過去の人間がどのような行動をとったか」という軌跡を分析することに一定の値打ちがあると私は思っています。

しかし、ファンダメンタルズ重視の人の中には「チャート? あんなもの迷信だ」と言う人もいます。ただ、私はそうは思わないですね。チャート分析にも意味はあるとは思います。ただ、杉原さんがおっしゃるように、「ちゃんとチャートを分析しなければならないか」と聞かれたならば、必ずしもそうでもないと。というのも、真面目に研究すればするほど、それにハマってしまうんです。

杉原:ああ、なるほど。

大江:で、だんだんその信仰に入り込んでいってしまうのですね。それよりは、やはり多面的に物事は考えたほうがいいですから。だから多少勉強するのは、私はいいと思います。ただ、ハマってしまって、「チャートがすべて」と思ってしまうのはちょっとどうかなと思います。

杉原:わかりました(笑)。

大江:杉原さんは、周りの方から「チャートって大事だよ」と、よく言われるんですか。

杉原:そうですね。チャートをじっくり見て、テクニカル分析をすることが大事だと教わってきました。私は独学でやってきて、ほぼ「なんとなく」の気配で買ってきたのですが、たまたま成功できているだけなんです。初心者であれば恐怖心を持つことなくチャレンジできると思いますが、経験を積んできて、そろそろちゃんとやらないと、いつか痛い目を見てしまうんじゃないかな……と最近不安になってきたんです。

大江:そろそろちゃんとやらなきゃいけない。

杉原:(笑)そうですよね。

大江:でもね、先ほど「将来の利益と株価は必ず一致する」とお話ししましたが、実際には将来の利益がどうなるかなんて、今の時点では誰もわからないわけですよね。

杉原:そうですね。

大江:ということを考えれば、「これさえやれば完璧」なものなんてないわけです。もちろん分析したりいろいろと考えることは大事なことではあります。でも、考えすぎなくてもいいのではないでしょうか。

杉原:はい。ほかには、投入資金の配分の割合について悩んでいます。中長期用と週トレ用にまず分けて、さらに新興系と大型の株に分けています。どちらかと言うと、新興系の割合が多いんです。でも、今、日経平均が上がっているので、大型を長期的に持ったほうがいいのかなと。とはいえ、資金がそんなにあるわけではないので、これまで新興系で短いスパンで売買しているのですが。

大江:まあ、どうでしょうね。短いスパンで売買するのがいいかどうかと言うと、それはいいとも、悪いとも言えません。杉原さんが、主力でやってこられた新興系は、玉石混淆的なところはありますが、成長性の高いものが入っていることは事実ですから。

杉原:そうですね。

大江:おっしゃるように、自分の中でポートフォリオを作って、大型株も一部持っておくというのは、それはそれで考え方としてはありかもしれません。しかし、方向としては今の新興系の企業を中心としたもので、軸にしていくというのもそんなに悪くないという気がします。

杉原:そうなんですね。私の周りの大人の方々は、「もっとしっかりした、安心な株を」と言うんですけど、”安心”と言っても。

大江:何が安心なんですかね。

杉原:そう。何が安心なのかというところがね。

大江:最近、そういう安心な株がいろいろな偽装問題とか、いっぱい出てきていますからね。

杉原:(笑)そうですよね。

大江:必ずしも何が安心かというのは難しいところですよね。先ほどゲームがすごく好きだから、ゲームの業界をよく研究していて、そういう株に投資したとおっしゃったじゃないですか。あれ、すごくいいですよね。

杉原:ほんとですか。

大江:あれはすばらしいと思います。私は藤野さんがお話しされたように「街を歩いて、現場を見ると、投資のヒントがいっぱいあるんだ」という視点をまったく同意見でおります。しかし一方では、客観性だけでなく自分の主観でものを見ても、悪くないんじゃないかなという気がしています。

たとえば自分が体験したサービスや、製品で素直に感動したもの。そうしたことには目を付けてもいいんじゃないかと。

杉原:そうなんですよ。自分がいいと思うものを、信じてもいいのかなというところで購入をしています。

大江:ですよね。冒頭でSMBC日興証券の吉岡さんが、「株式投資とは、会社を応援することだ」というお話をしていました。それが全てとは言いませんが非常に重要な要素ですよね。
一つ、これは私の失敗談をお話ししましょう。私は1998年ごろからインターネットを使って自分でいろいろなことをやり始めています。

実を言うと私は1960年代の黒人のソウルミュージックが大好きなんですが、すごく欲しかったCDがありました。若い頃はお金がなくて手に入れることができなかったんですが、多少余裕ができてから、そのCDを求めて東京中のCD屋さんへ行って探しまくったんですが、どんなに探しても見つからないんですよ。ところがアメリカでアマゾンが出てきて、検索をしたら一発で出てきたんです。それでクレジットカードを登録して、注文したら、3週間ぐらいでアメリカから送られてきたんです。

杉原:アメリカのアマゾンで。

大江:1998年当時、まだ日本のアマゾンはサービスを始めていなかったので。これを見て、私、すごいなと思ったんです。素直に感動したんです。そのときにもしアマゾンの株を買っていたら、今、500倍になっているんですよね。

杉原:そうですよね。早く気づいていたのに。

大江:そこでアマゾンの株を買うという発想が浮かばなかった。でもね、考えてみたら、そういうのってけっこうあるんですよね。

杉原:あるんですよ。そうなんですよ。

大江:でもね、1998年ということは、今から20年近く前でしょ。20年ずっと持ち続けることができたかどうかという問題はまたあるんですけどね。500倍になっていると言ったって、たぶん2倍ぐらいで売っちゃっていると思いますからね。

杉原:そう。ちょっと怖くなって。そうなんですよね。

大江:2倍で売った後に500倍になったら目も当てられませんからね。そんなことは言ってもしょうがないんですけども。だからやっぱりいいと思う会社の株を素直に買って、長期に保有するというのは一つのやり方ですよね。

杉原:やっぱり長期がいいですよね。だから私も銘柄に惚れるので、長期になると、今度は手放せなくなるという問題が出てくるので。

大江:まあ、5年とか、10年とか。さっき言った、「塩漬けになっちゃってどうしようもないから」というのではなくて、ほんとに自分がいいなと思った会社で、成長を長期的に見守ろうと思って、持ち続けていらっしゃる会社はありますか。

杉原:あります、あります。父が建築系の会社をやっているので、身近であるということで建築関係を買って、長期的に持っています。

大江:身近にあるというのも一つのキーワードですよね。

杉原:バイオなど旬な銘柄にもチャレンジしたいと思いながらも、結局あまり興味が持てないのか、チャレンジできなくて。

大江:それはそれでいいんじゃないですか。プロのファンドマネージャーならどのセクターが来るかということを予測してやらなければいけないから、そんなこと言っていられないですが、個人投資家なので興味のないものは買わなくてもいいですよね。

杉原:でもトレンドの銘柄ってあるじゃないですか。投資をしているからには、ちょっと乗って雰囲気を味わってみたいという気もあるんです。でもたとえばオリンピック関連にしても、私はまだ乗っていなくて、なんとなく盛り上がりに欠けるんです。

大江:まあ、でもね、トレンドに乗るのも善し悪しですよ。たとえば世界最高の投資家といわれている、アメリカのウォーレン・バフェットは、自分が買っているのはジョンソン・エンド・ジョンソンとか、コカ・コーラとか、そういうのばっかりで、いわゆるIT銘柄なんか全然買っていないんです。

杉原:そうなんですね。

大江:たとえば、グーグルやマイクロソフト、アマゾンとかアップルほか、IT関係でものすごく上がった株がたくさんありますよね。でも彼はそういうのにはほとんど見向きもしない。自分のよく知っているものしか買わないということですから。

杉原:実は、大江さんに2018年のトレンドを聞いて、チャレンジしてみようかなと思っていたぐらいだったんですけど(笑)。

大江:2018年のトレンドですか。個別の銘柄で何がいいですかというのは、おそらく皆さんが最も聞きたい話ですよね。私も以前証券会社にいましたので、株式セミナーで、最初に「景気がどうだ、金利がどうだ、為替がどうだ」とマクロの話をしていると、だいたい皆さん寝ているんですよね。ところが「最後に推奨銘柄を申し上げます」と言ったら、みんなガバッと起きて、急にメモを取り出してね。

杉原:やはりそこが気になる(笑)。

大江:ただ、これは正直言って、いろいろなことを言う人はいますし、たとえば週刊誌の袋とじ企画などで、「こういうトレンドがいいとか、こういう銘柄がいい」というもそんなに当たるものじゃないですからね。

杉原:そうなんですね。

大江:たまたま当たるものもあると思いますけれども、それよりは、今の市場の流れがどこまで続いていくのかを気にしたほうがいいと思います。だって、たとえば2017年の1年を振り返ってみると、すごく調子良かったわけですよね。10月には史上最高記録で16日間連続で上がるみたいなこともありました。

杉原:はい。

大江:だけど、中にはやっぱりもうそろそろバブルじゃないかというようなことを言う人もいるわけです。

杉原:いますよね。でも私、勝手な意見ですが日経平均3万、行くと思っています。

大江:評論家の中には4万円という人もいますからね。何とも言えませんが、個人的には今の状況は、まだバブルではないような気はします。

杉原:もうちょっと上がっていく?

大江:ええ。もちろん目先、紆余曲折はあって、下がる場面というのはあるかもしれませんが、トレンドとして今がバブルの頂点という印象はありません。というのは、いわゆるバブルのピークというのは渦中にいる者にはわからないんですね。終わった後で、「あれがバブルだった」ということがわかるわけで、今がバブルかどうかなんていうのは誰もわからないんですよ。

杉原:そうですよね。

大江:ただね、一つ言えることは、「今はバブルじゃないかな」という人が、まだいっぱいいるんですね。そういう内はバブルじゃないんですよね。

杉原:あっ、そうなんですね。

大江:そういう人がだんだんいなくなってきて、もうこれからは上がるしかないとか、それからこれがキーワードなんですけど、「今回だけは違う」という言葉ね。

杉原:それを言いだしたら危ないんですね。

大江:そうそう。必ず出てくるんですよ。相場が良くなっても、悪くなっても、「今回だけは違う」おじさんが、必ず登場するんです。

杉原:身近に現れますか。

大江:そうなんです。それは、たとえばアメリカでも「TTID」と言いましてね。「This time is different.」、つまり今回は違うというような話が必ず出てくるんですよ。

杉原:そうなんですね。

大江:結局誰も彼もが強気になって、まだ今はピークではないと暴落を懸念するような人がいなくなったときが、だいたいピークなんです。

杉原:ああ、そうなんだ。

大江:そういう意味で言うと、現状はそれほど心配しなくてもいいんじゃないかなという気はしますね。

杉原:なるほど。じゃあ、ちょっと安心です。

大江:業種的なことは、変化していくので一概には言えませんが、一つのトレンドとしては、ここしばらくずっと続いている「AI」。ほかにも「自動運転技術」ならば関連した銘柄として地図ソフトも……といった具合で、今のトレンドに合ったものは一応見ておく必要があるかもしれませんね。

杉原:引き続き2018年も。

大江:そうですね。ただ、やっぱり難しいのは、そういうのが話題になっているときって、すでに遅いことがわりと多いので。

杉原:そうですね。

大江:だからあんまり。オリンピックなんかでも、オリンピックって決まったのは何年前でしたっけというような話ですから。

杉原:そうですね。もうだいぶ前になりますね。

大江:だからトレンドを追いかけるのは必要ないんじゃないかなと思いますね。それよりも自分で調べて興味を持てる、あるいは素直に感動したもの、そういったものに投資をする方が、個人投資家の場合はうまくいくのではないでしょうか。

杉原:うん、うん。ちょっと勉強します。

大江:自分の資産運用や、投資をやる上で困っていることや、もっと知りたいことはありますか。

杉原:どのタイミングで売りに入るかというところを一番知りたいです。私は感覚でしかやっていないんです。自分の中では、中長期と短期とでは変えていますが、「何%利益が出たら、利益確定」みたいな感じでやっていて。売りポイントのセオリーがほしいです。

大江:非常に無責任な言い方ですが、自分なりのルールで決めたらいいと思いますよ。別にこれが絶対というのはないわけです。たとえばよく言うのは、ロスカットで、これだけ下がったら機械的に売るという人もいますが、別に論理的な根拠は何もないわけですよね。単に自分でルールとして決めたものですから。上昇のときも下落のときも、同じように自分でルール化したものを決めて、それを自分が納得していれば、いいんじゃないかなと思います。

大江:あとは、先ほども話に出ましたが、企業の株価というのは実体のあるものではありません。「長期的には利益と株価が一致する」というのは、藤野さんのおっしゃっていた通りですが、短期的には株価と企業の実体や価値は一致しないんです。

株価というのは、ある意味、影みたいなものなんですね。要は上から光を当てると実体よりもちっちゃく見えるんですね。下から光を当てるとすごく実体よりも大きく見えるんです。その大きく見えるときは割高で、小さく見えるときは割安なんですね。「割高なときは売って、割安なときに買う」ということから考えると、全体的に今からというのは、だんだん影が大きくなっていく局面に入ってくると思いますから、早目に利益を確定するというほうがいいような気はしますね。

杉原:大江さんご自身は何を一番参考にして売買されているんですか。

大江:私の場合は二つあります。一つは、その会社が「何」で儲かっているか、要するに儲けの秘訣というか、どういうことを収益の構造として考えているのかということを、四季報だけではなく、経営者の人たちのインタビューなどを様々な方面から見て、まず考えますね。
テレビの番組でも、いろいろな企業の儲けの秘密を紹介する番組がありますよね。

杉原:そういうのを参考にしながら見ているんですね。

大江:一つの参考ですよ。その会社の儲けの秘訣が他社にも真似のできるものなのか、あるいは競争環境はどうなのか。利益が持続できるかどうかにつながるので、重視していますね。
それから、実際その企業が上げている利益の水準に対して株価が割高か、割安かもチェックします。一番端的なのは「PER」ということになりますが、私の場合は、「税引き利益」よりも、「営業利益」、つまり「本業でどれぐらい稼いでいるか」を重視しますね。

杉原:細かく見られるんですね。

大江:そうですね。あとはキャッシュフローです。ちゃんと本業で稼いで、営業キャッシュフローがずっと安定的にプラスになっているかどうかは見ます。ただ何回も言いますけど、この方法が絶対ということではありませんよ。

杉原:そうですね。

大江:投資というのは先の見えないもので、リスクがあります。しかし、リスクを取らないところにリターンは得られないですから、ある程度は割りきっていかなければしょうがないとは思います。

杉原:じゃあ、チャレンジする心を持っていないと難しいですよね。

大江:そうですね。

杉原:様子見して、感覚で乗っかっちゃうことが多いので。

大江:今までお話を聞いている限りにおいては、そんなに悪い方法じゃないと思いますよ。

杉原:売買も考え方も保守的なんですよね。だからなかなか飛躍しないのかなと思って(笑)。

大江:いや、保守的、いいんじゃないですかね。

杉原:いいんですかね。

大江:個人投資家とプロのファンドマネージャーとか、プロの運用者の最大の違いは何かと言うと、プロはどんなにマーケットが良くても悪くても、運用し続けなければいけないんですよ。

杉原:ああ、そうですね。

大江:個人投資家は、別にそんなノルマはないんですね。

杉原:そうですね。

大江:要は、相場が悪いと思ったら休めばいいし、やらなければいいだけの話ですよね。どんなに悪い相場のときでも、それなりにしのいでやっていくというところにプロのすごさがあるわけですね。われわれ個人投資家が真似しようと思っても、うまくいくものではないですよね。

杉原:そうですよね。でもやっぱり資産を増やそうと思ったら、そういうときこそチャレンジしないと、やっぱり増えてはいかないのかなと思ったりもしてしまって。

大江:まあ、そうですね。だけどやっぱりマーケットの悪いときは何をやってもダメですからね。そんなときは無理して運用する必要はないなと、私は思いますね。

杉原:わかりました。

大江:杉原さんが投資を始めたきっかけや成功談に失敗談、そして悩みを伺ってきましたが、これから株式の投資を始めてみようという人に、杉原さんだからできるアドバイスはありますか。

杉原:私は資産の4割を運用しています。なくなったら困りますが、なくなってもいいという思いで、本当に好きな銘柄、自分が信じられる会社だけを買うという単純なスタイルで12年間やってきました。

大江:要は、自分の取れるリスクに見合った投資金額にしておくべきだということですね。

杉原:そうですね。あとは分散を心がけています。大型株と新興株、合わせて10社保有しています。

大江:なるほど。自分がどれぐらいリスクを取れるかというのはすごく大事だと思いますが、その水準を決めたきっかけあるいは何を基準にしているのですか。

杉原:4割と決めたのは、全部を投げ打つような勝負できないし、半分ぐらい残してないと、自分が不安というところから決めたものです。セッションの冒頭でかっこいいことを言いましたけれど、実は芸能の仕事って「次の日オーディションです」と言われたら行かなければならないので、バイトができないんです。そんななか自宅でできることを探していたら、「あっ、株が今、ネット証券で流行ってる!」って。食べていくために23歳でスタートしたというところもあるんです。

大江:投資資金は何割が適当か、というのは人によって違ってくると思うんですけど、自分なりのルールを作っておくというのは大事ですよね。他に何か決めているルールはありますか。

杉原:あとは、仕事中は一切見られないので、指値で予約を入れています。専業で、かじりついて見られるんだったらもったいないな……と思いながら売買しています。でも、お仕事しながら株式投資をやっている方って、ほとんどそうなんだなと思って、割りきっています。

大江:それはそうでしょうね。逆にベッタリ入り込んでいたら、かえってうまくいかないかもしれないですよね。

杉原:そう。そのぐらいちょっと力を抜いて売買しているぐらいのほうがいいかなと思って、やっています。

大江:そうですね。肩の力を抜いてね。私も投資家としてもいろいろな株式へ投資をしていますが、やっぱり大事なことは「休む」ということですね。

杉原:休む。1年間の内でも?

大江:そうそう。だから常にフルインベストメントの状態にしておかずに。

杉原:私、フルなんですよね。それが疲れるポイントなんですか。

大江:でも、そうは言っても、全体の中で4割ぐらいということですよね。

杉原:そうです。その中で常に1年を通して動かしています。それがたまに疲れるときがあって。

大江:まあ、疲れるのはあんまりよくないですね(笑)。

杉原:そうですよね。

大江:だから結局、「勝負するときは勝負するんだ」という考え方もありますが、ある程度余裕をもってやっていくということが大事なんじゃないかなと思います。長期のスタンスで応援したい会社の株をじっくり持つと目先の株価に疲れずにすみます。

杉原:はい、わかりました。

大江:さて、個人投資家としても大活躍中の杉原さんのお話でしたが、皆さんにとってお役に立ったのではないでしょうか。今後もぜひお仕事を頑張りながら、引き続き株式投資に興味を持ってやっていただけたらなと思います。

杉原:そうですね。もう少し勉強します。

大江:はい、今日はどうも、ほんとに大変面白いお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。

杉原:いいえ、とんでもないです。ありがとうございました。