株式市場への上場も目立ち始めた、宇宙開発スタートアップ。なかでも、福岡に拠点を置くQPS研究所は、高精細小型レーダー衛星による準リアルタイム地球観測技術で世界をリードする。同社の技術の強み、そしてその発展によって、世界はどう変わるのか。なぜ九州にこだわるのか。大西俊輔社長に聞いた。
365日24時間、地表を観測できる小型衛星を作っています
宇宙ビジネスと一口に言っても、私たちの事業がどういうもので、何が強みなのか、一般の方々には分かりづらいと思います。
「丁寧に伝える」という姿勢は創業当初から大事にしてきたことですので、まずは私たちが開発している「小型SAR衛星」についてあらためて話をしたいと思います。
もし、その小型SAR衛星を宇宙に大量に打上げることができれば、世界の見え方すら、変えることができるかもしれません。
そもそも、地球を観測する人工衛星には「カメラ撮影型」と「レーダー照射型」の2種類があるのですが、カメラ撮影型はその名の通り、デジカメで写真を撮るように宇宙から地球表面を直接撮影するもの。
きれいで鮮明な画像で観測できる半面、観測できる時間帯は太陽光が地表に当たっている昼間に限られ、雲や煙があると地表が隠れてうまく写せません。
それに対して私たちが作っている「SAR(Synthetic Aperture Radar)衛星」は、特殊な電波を使って地球を観測するレーダー照射型です。
衛星から地球表面に向かって電波を打ち、地表から跳ね返ってきた電波を受信して画像化する技術なので、太陽光に頼らず、雲や煙も通過するのが強み。つまり、昼夜・天候問わず、いつでも地球を観測できるのです。
ただ、このSAR衛星は自ら電波をつくる仕組みなので大量に電力を使います。カメラ型がスマートフォンくらいの電力量なのに対して、レーダー型は電子レンジほど。家のブレーカーを落とすくらいの電気を常に使うので、バッテリーの維持が重要になるんです。
発電には太陽光を利用するわけですが、蓄電のためのパネルやバッテリーを搭載する必要があり、その分、衛星のサイズは大きくなってしまう。「電力を食うSAR衛星は小型化するのが難しい」というのが、宇宙開発の世界でのこれまでの“常識”でした。
難度が非常に高い、小型化・高解像度化を実現
2~3トン級の大型SAR衛星は、JAXAさんをはじめとしてすでに製造・打上げの実績もありますが、なにせ大きいので打上げの費用も莫大にかかるんです。
1回の打上げで数十億~100億円かかると言われています。
SAR衛星をいかに小型化するか? という課題に対する答えとして、私たちが開発したのが「折り畳み式のパラボラアンテナ」です。傘状の太陽電池パネルを、打上げ時には小さく畳んでおき、宇宙の目標地点に到着したらパッと拡げる。これならコンパクトな状態で打上げができるので、打上げ費用は数億円で済みます。コストが圧縮されることで、より多くの衛星を打上げられるようになります。

QPS研究所の小型SAR衛星「QPS-SAR」の6分の1サイズの模型
こうして私たち独自の技術でSAR衛星の小型化を実現したわけですが、もう一つ、大事にしてきたのが「高分解能」へのこだわりです。
画像を拡大した際に1画素(1ピクセル)あたり46cm程度まで細かく見ることができ、これは世界で2番目のレベルです。2019年初めに打上げた1号機では1画素あたり72cm程度でしたので、どんどん進化しています。
「36機」飛ばせば、世界が変わる!
この小型SAR衛星を使って、何がしたいのか。私たちが目指しているのは「準リアルタイム地球観測」です。
世界中のほぼどこの地点でも、10分間隔で「今、何が起きているか」の観測ができる。Googleマップが実現したのは位置情報ですが、「あそこの3丁目の角の空き地で1時間前に火災が起きた。その後、無事に鎮火したか」といった“変化”の観測まではできません。それが、私たちの衛星によって実現可能になるんです。
近所の情報だけではなく、たとえば日本で台風が発生した瞬間に、地球の裏側ではどんな気象変化が起きているか。それぞれの現象がどんな変化をたどり、どう影響し合っているのか。
まだ誰も想像していない「何か」が見えるかもしれません。
そもそも「地球のリアルタイムが丸ごと見えるようになる」という体験が、人類にとって初めてのこと。一体、何が見えるのか、それによってどんなインパクトが生まれるのか……。私自身にも分からない、というのが正直なところです。もしかしたら、これまでの通説を覆すような展開もあり得るのかもしれません。
この未知の体験にたどり着くのに必要な数は、「36」です。私たちの小型衛星を少なくとも36機、宇宙に飛ばすことができれば、人工衛星網が宇宙に張られ、私たちが目指す準リアルタイム地球観測が実現します。
現在、4年後の2028年5月までに24機を打上げることを目標に準備しており、36機の実現も見えてきました。
もちろん、36機というのもあくまで通過点であり、将来的にはもっともっと多くの衛星を飛ばして、10分間隔ではなく5分間、1分間……数秒間隔というように、より正確なリアルタイム観測へと近づけていきたいと思っています。
小型SAR衛星は開発の難易度が非常に高く、プレイヤーは世界で5社しかありません。うち、上場を果たせたのは今のところ弊社だけです。市場から資金調達できる強みを最大限に活かして一つでも多くの衛星を打上げていこうと、全力疾走しているところです。
これが「地球のレントゲン写真」です
(部屋に飾っているモノクロ写真を指して)これですか? はい、実際に私たちの衛星がとらえたデータをもとにした写真です。横浜や東京、パリの地表の様子を画像化したものです。太陽光が地表に当たらない深夜でも、鮮明に画像化できることがお分かりいただけると思います。

「QPS-SAR」がとらえた横浜の街並み
電波を通じて見える地表は、レーダー反応によって建物や道路、海、人の群衆などの輪郭を浮かび上がらせるので、カメラでの撮影画像とは印象がだいぶ違います。「地球のレントゲン写真みたいですね」と感想を言った人もいました。
同じ地点を10分おきにとらえた画像を比較すると、そこにあるものの“動き”が見えてくる。これがリアルタイム情報になります。
おそらく私は地球上で一番多くこの画像を見比べている人間だと思いますが、結構いろんな“動き”が見えて面白いんですよ。「これ、なんだろう?」と思うものも写っていたりして。
もっと多くの衛星を打上げて準リアルタイム地球観測を実現することができれば、交通や物流の正確な動きを計測して効率化できたり、自然災害が発生した後の現地の状況確認をスピーディーに実施できたりと、社会のさまざまなシーンで役立てられるはずです。
過疎化が進んでいる地域の人手不足をカバーする役割も、果たせるでしょう。
人類未知のインフラを作る。使い方は誰かが考える
くり返しになりますが、なんといっても、昼夜問わず地球全体の時系列データが揃い始めてきたことは非常に画期的です。
私たちが提供する衛星画像が、気候変動問題をはじめとする地球規模の議論の材料となって、貢献できるものと確信しています。
反響は上々で、予想よりはるかに幅広い業種からお問い合わせをいただいています。防衛や観光に関わる省庁のほか、東京海上日動さんが「災害状況を把握するのに使いたい」とおっしゃったり、九州電力さんが大規模インフラの管理のために活用されています。
きっと私が想像もしていないような使われ方のアイディアも、これからどんどん出てくるのだと思います。理想は、「気づかれないくらい自然に、人々の生活の中に浸透した存在」になれること。
もちろん、簡単な挑戦ではありません。ここまで7機打上げてきましたが(取材時点)、打上げに失敗したり、打上がっても不具合が生じて画像取得に至らなかったり、はたまたロケットを打上げる予定だった会社が突然倒産して計画変更を余儀なくされたりと、さまざまな困難を経験しました。
ただ、宇宙という「まだよく分かっていないもの」に挑むとは、そういうことなのだろうと思っていますし、「何かが起きたときには、すぐに頭を切り替えて目の前のことに対処する」という姿勢がすっかり身につきました。
初めて宇宙からの画像が取得できたときに喜びをかみしめたのも一瞬で、わりと淡々と、次にやるべきことを考えていました。「まだ見ぬ世界」を見るために、立ち止まっている暇はありません。
QPS研究所