変えたければ社長に直訴してでも変えよ【後編】

上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ マツダ 毛籠勝弘社長/ 毛籠 勝弘

自動車メーカーのマツダは、2024年3月期に過去最高益を記録した。成長を牽引するのは、毛籠勝弘(もろ まさひろ)社長が役員時代に指揮をとって業績を立て直した、北米市場だ。値引きとリベートに頼る慣習から抜け出せず、ブランド価値を発揮できなかった現地統括会社や販売店に、毛籠社長はどう向き合ったのだろうか。
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現地に出向き、覚悟を示す

――毛籠社長は米国市場を立て直し、現在のマツダの好業績に結びつけた立役者と伺っています。当時のことをお話しいただけますか。

私の2016年の米国赴任は、当時の社長に直訴して実現したものでした。マツダが2000年代から進めてきた「Zoom-Zoom(ズームズーム)」というブランド戦略を、どうしても米国で成功させたかったので。ちなみに「Zoom-Zoom」は、日本の「ブーブー」にあたる幼児英語です。われわれのクルマの特徴である「走る歓び」(前編)を、端的に表現するコピーですよね。

インタビューに応じる毛籠社長。淡々としているが言葉は力強い

このブランド戦略を打ち出したのは、米フォード出身でのちにマツダの社長を務めた、マーク・フィールズ氏。私の元上司で、急に万年筆を出して「毛籠さん、これは何?」と聞かれたことがあります。「万年筆」と答えると、「違う。これはモンブランだ」。そんなふうに一からブランド戦略を学び、彼の指揮下で「Zoom-Zoom」を浸透させるべく尽力しました。

現場のオペレーションを価格競争からブランド重視に変えるのは、容易ではありませんでした。それでも日本をはじめ、各国の現場が一生懸命取り組んでくれて、停滞していた事業も黒字化し2015年にはブランドランキングも大きく向上しました。

毛籠社長はかつてマーク・フィールズ氏の元下でブランド戦略をリード、現在のブランド価値経営に活かされている

それなのに米国だけが、相変わらずだったのです。販売店が値引きとリベートに頼って、「いかに台数を多く売るか」という発想から抜け出せない。「ここを立て直さないと、マツダは良くならない」と、段々じれったくなってきまして……。当時の社長に、「私が行って立て直します」と訴えたわけです。

米国の統括会社トップに着任してからは、われわれのブランド戦略を明確に示し、合意できる方だけに残ってほしいと伝えました。結果として3ヵ月で従業員の3分の1がマツダを去り、この方針に理解ある方の採用を急ぐことになりました。おそらく従業員は、「この社長はむちゃくちゃだ」と思ったか、「本気で変えようとしている」と思ったか、どちらかでしょうね。とにかく、こちらの覚悟は伝わったはずです。

コロナ禍で実感した
改革の成果

販売店の改革にも着手しました。赴任前に米国に住む友人に連絡を取ったら、「大変だけど、がんばってね。マツダはいいクルマを作っているけど、販売店の対応が悪すぎて友達を紹介できないほどだから」と言われたのです。これは非常にショックでした。販売店における顧客体験を変えない限り、米国での成功はないと確信しました。

まずはブランド戦略に共感してくれる販売店を絞り込み、リベートの評価基準も変えました。従来の販売台数から、顧客満足度とブランド適合度を加味した評価にしたのです。インセンティブ(販売奨励金)も抑制したので、一時期、販売店はパニックに陥りました。「新しいトップは何を考えているのかわからない」とも言われましたが、とにかくブレずに方針を貫きました。

並行して、マツダブランドを支持してくれる新しい販売店を探し、黒と木目調の店舗デザインで上質感を打ち出す「新世代店舗」の導入を進めました。2016年に約630店あった販売店のうち、約200店がマツダから離れていきましたが、一方で新規販売店が増え、多くのオーナーが新世代店舗への投資を決断してくれました。今年度中には約540店舗中、約380店舗が新世代店舗になる予定です。ここはショールームの要素を担い、マツダのブランド価値向上に大きな役割を果たしてくれています。

マツダのデザイン本部が監修する、新世代店舗。毛籠社長の改革により、米国でも一気に増えた

今、米国でのマツダの見え方は、私が赴任した当初と全然違うはずです。様々なデータで変化が見てとれますが、個人的にいちばんうれしかったのは、米国の著名な消費者組織による2021年ブランドランキングの自動車部門で、マツダが1位になったことですね。

また、コロナ禍で社会が混乱する中、「マツダにできる支援ってなんだろう」と考え、販売店にエッセンシャルワーカーの洗車サービスやオイル交換、除菌などを無料で行う「エッセンシャル・カー・ケア・プログラム」を提案しました。そのとき、95%ぐらいの販売店が「やりましょう」と言ってくれた。現場がずいぶん変わったなあと、非常に感慨深かったです。

こういうことができるようになると、1台当たりの売上高が伸びてきます。2016年と今年を比べると、お客様が購入する単価は8000ドルほど上がりました。米国を含む北米の販売台数も伸びており、2022年度の約40万台から2023年度は約50万台になり、今年度は60万台を目指す予定です。

もちろん、大変でしたよ。自分が出せる力を全部使って、立て直しに奔走しましたから。結果を出したら帰国して、ちょっとのんびりしようと思っていたんですが……。何の因果か、次は全社のトップという、さらなる重責が待ち受けていたわけです。

中国で目にした
電動化の最新事情

――帰国して社長に就任した後、まず中国を訪問したそうですね。

コロナ禍になってから4年間、中国を訪問できていなかったんです。「劇的なスピードで技術開発が進んでいる」とか、「電気自動車(EV)がすごく売れている」とか、いろいろ噂が聞こえていたので、まずは自分の目で確かめたいな、と。中国で起きていることが、やがてわれわれの世界戦略に大きく関わってくるだろうという直感もありました。

社長就任が決まった株主総会の翌日に重慶に行き、4日間じっくりと現地を回りました。印象に残ったのは、開発の速さ。日本の4倍速ぐらいのスピードで進んでいて、このままいけば中国の電動化の技術は、2030年ごろには日本が追いつけないほどになると思いました。やがて中国は、海外の市場にさらに手を伸ばすでしょう。そうなると、世界の電動化競争のスタンダードが変わる。私はそう見ています。

中国でのビジネスに遅れをとってきたマツダですが、これからは反転攻勢に出ます。ポイントは、現地ブランドと組むこと。「電動化技術」は長安汽車、「デザインと走り」はマツダというタッグを組み、今年春の「2024北京国際モーターショー」で新型電動車とコンセプトモデルを発表しました。次の新型モデルもどんどん作っていきますよ。

パートナーの長安汽車と協業で開発した、新型電動車「MAZDA EZ-6」

今、中国でクルマを作ろうとすると、クラウドや自動運転のプラットフォームの提供という形でIT企業がたくさん入ってきます。長安汽車は国営企業ですから、そういうIT関連の中国企業とも付き合いやすい。

さらに、中国政府が自動車関係で最も投資しているのはAI、その次が内燃機関(エンジン)なんです。政府が普及を促す「新エネルギー車」は、EVだけでなくハイブリッド車や燃料電池車など、内燃機関を搭載するクルマが多く入っています。それを見ないで、欧米のようにEV一本に絞ってしまうのは、リスクではないでしょうか。

われわれは内燃機関の技術を捨てずに開発を続けてきました(前編参照)。その高い技術を、中国で大いに活用できるはずです。

大手じゃないからこそ
「人」で勝負する

――社長に就任なさって2年目ですが、これからもマツダを引っ張っていく上で、「変えてはいけない無形資産」は何だと思われますか。

それは2つあります。1つは、これまでお話ししてきたようなマツダの「ブランド価値」を守ること。そしてもう1つは、「人」の力を最大限活かすこと。よく会社経営に必要なのは「ヒト・モノ・カネ」と言いますが、残念ながら当社は規模が小さく、お金はあまりない。設備や物も有限です。そんな会社が大きな挑戦をしようとすると、頼るべき資本はやっぱり人なんですね。

社長に就任していろんな現場を回る中で、若い社員が自らプログラミングを学び、使いこなしているのを知りました。一例として、うちの会社には「匠」と呼ばれる技能者がいます。マツダの美しいデザインをミクロン単位で再現できる、金型の削りや溶接の職人たち。その技能伝承には20年かかるといわれていて、当社の大きな課題でした。

ところが若い社員が、デジタル技術を使って匠の動きをモーションキャプチャで記録・解析し、参照しながらトレーニングできるシステムを作っていた。これを使い、なんと5年で14人もの匠が生まれたと言うんです。これには驚き、感動しました。

米国でも実感しましたが、最終的に業績を左右するのは、現場にいる一人一人の働きです。ですからエンジニアも管理部門も、能力を100%、200%発揮して働けるような環境を整えること。「飽くなき挑戦」をとことん真面目に続けるDNAをきちんと育てていくこと。それが私に課せられた、最大のミッションだと思っています。

マツダ