介護付有料老人ホームを展開するチャーム・ケア・コーポレーションが、8期連続の増収・増益と好調だ。同社を率いる下村隆彦社長は、30歳で家業の建設会社の後継となり、62歳で介護業界に進出。経営者としての豊富な経験を活かし、ホームの高い入居者率を実現して躍進を続けている。同社の強みについて、下村社長に聞いた。
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「量から質」の転換が経営の原点
私は30歳で、祖父が興した下村建設(本社・大阪)を継承しました。その頃、建設会社の社長が集まる場に行くと、大阪弁で「あんたとこ、なんぼやっとんの」と聞かれたんですね。売上高はいくらなんだ、と。当時は売上が大きいほど良い会社だという風潮があり、スーパーゼネコンの売上競争で「次はあの会社が1兆円を超える」などと噂が飛び交う時代でしたから。

建設会社時代の経験について語る、下村社長
若かった私は、張り切って大きな売上目標を立てました。そうすると、営業が「今月は売上が足りない」というときに、目標を達成するために赤字工事でも取ってしまう。見かけの売上は大きくなりましたが、利益が出ない時期が続き、「このままでは祖父の代からの会社を自分が潰してしまう」と危機感を持ちました。
そこで38歳になったころ、経営方針を「量から質」に大きく転換しました。売上目標を立てない。赤字工事を取らない。大型工事の競争入札もしない。代わりに同業他社があまり好んでやらなかった雑工事、今でいうリニューアル工事に特化することにしました。それから5、6年は売上がどーんと落ちてしんどかったですが、なんとかしのいで、徐々に利益が上がるようになったんですね。
バブルの時代になったら、儲かる仕事がいくらでもあった。それでも方針を変えず、地道な経営を続けました。他の会社はどんどん売上を伸ばし、規模も組織も大きくなっていく。しかしバブルが弾けたら、いっぺんに仕事がなくなりました。知っている会社だけで30社ほど倒産しましたが、うちはほとんど影響がありませんでした。
そんなふうに30年ほど経営者として経験を積み、必死で勉強してきました。ですから60歳を過ぎて介護事業を立ち上げるときは、ニーズのあるところを選び、「利益をどう出すか」をきちんと考えれば成功できるとわかっていました(前編参照)。その点については、あまり心配していませんでしたね。
経営の基本は同じですが、ビジネスモデルで言うと、建築と介護で決定的に違うことがあります。建築会社ではいつも、「来期の仕事をいかに取るか」を考えていました。というのも、建築は1つの工事が終われば売上も途絶える、フローのビジネス。それに対して、介護はホームを作ってご入居いただければ毎月のように売上が入ってくる、ストックビジネスなんです。
私にしてみれば、ストックビジネスはめちゃくちゃやりやすい。ですから、いまは利益率を大事にしながら、ホームの数を増やして入ってくる売上も伸ばそうとしています。とはいえ、やみくもにはやらず、質を担保するために「新規は年間10ホーム程度」と決めています。
事業の根幹は「信用」にあり
スタートアップがうまくいかない理由は、2つあると思います。1つは経営能力の不足。これは、先ほど申し上げたように私の場合は30年の経験がありましたから、やり方を知っていました。もう1つは、資金不足。目標に達する前に資金がショートしてしまうケースですね。
うちの場合、介護事業に関しては、立ち上げた当初は信用がない。周囲からすると、ちゃんと続くかどうかやってみないとわからない。そんな状態で土地を借りるのはやはり難しく、自社で買って建てた物件もありました。それでもとにかく「スピードが大事だ」と思ってましたから、5ホームを一気に作って、借金は35億円になりました。
銀行は、最初のうちは乗り気ではありませんでした。付き合いのあったいくつかの銀行の支店長に「介護事業を始めようと思う」と話しても、「建設会社がうまくいっているのに」と渋られました。3回説得してようやく、「本気なら、応援しましょう」と言ってもらえた。建設会社時代に信頼関係を築いていたおかげで、新規事業でもなんとか銀行とグリップ(編集部註:関係を構築すること)できた。これは大きかったですね。
私はね、すべての事業の根幹は「信用」だと思ってます。お客様や金融機関、土地や不動産の持ち主の方、あらゆる方面で「結果が伴う、良い会社だ」と思っていただければ、会社は続いていきます。
ただ、介護ってホームに入ってみなければ、サービスの良さを実感できないでしょう。お店で試食したり、サンプルを使って試したりできない。そういう業種で世間から信用を得るにはどうしたらいいかを考えて、上場を目指したんです。
目の前の常識をいっぺん疑ってみる
上場したときのIRで、「社長、なんで上場したんや」「介護事業は福祉やのに、儲けを追求するなんてあかん」と言われました。しかしですね、入居者様に満足していただけるケアを提供し、利益を上げ、スタッフの賃金やサービスの向上に還元するのは、悪いことでしょうか。特養(特別養護老人ホーム)などの公共事業はもちろん必要ですが、それだけでカバーできない介護事業をわれわれ民間がやるからには、利益を上げなければ続けていけません。
当社は中期目標として、連結の売上高1000億円、営業利益100億円を掲げています。これを達成するには、介護付有料老人ホームの新設だけでは限界がある。そこで、ホーム運営以外に2つの収益の柱をもっています。
1つは、不動産事業。立地の良い土地を取得し、ホームの建築工事まで行って、他の事業者に売却することで利益を上げています。ただ、近年は資材の高騰や建築人材の労務費の値上がりで利益が出づらく、勢いが削がれています。そこで当面は、介護事業のM&Aに力を入れていく予定です。
もう1つは、新規事業。例えば今、AI技術を用いた「虐待防止システム」の実証実験を進めています。どういうものなのか具体的にはまだ言えませんが、スタッフとご入居者様との会話の中で不適切な発言があると、このシステムによって検知し、スタッフとご入居者様との問題をいち早く発見できる。いずれ他のホームをはじめ、訪問介護、保育園などでも使っていただけるBtoBのサービスとして売り出す予定です。
こうやって別の収益の柱も育てながら、売上高1000億円、営業利益100億円を実現したい。現状維持というのは、停滞につながります。停滞はやがて、衰退を招く。そうならないためにどうするかというと、「常不信」を心がけることです。つまり、目の前のことを常識と思わない。どんなこともいっぺん疑ってみる。
「介護で儲けを追求したらあかん」という“常識”に対して、私は「ほんまかいな」と思いました。介護事業を始めたとき、その道のベテランの方々から「社長、介護ってこうやるんですよ」とずいぶん言われましたが、それも疑いました。実際、「誰が、どんな理由で決めたんや」と聞いても、「ずっとこうやってきてます」としか返ってきませんでしたから。
外から入ってきた私から見て、介護業界には「もっといい方法があるのに」と思うことがたくさんありました。それをどんどん実行して、今に至ります。
人生を3つに分けて考える
私は今年81歳ですから、建設業だけで社長をやっていたら、とっくにリタイアしていたでしょう。単調な日々を過ごし、頭も体も衰えていたかもしれません。しかし介護事業に進出したおかげで、お会いする方のタイプも、必要な知識もガラッと変わりました。日々刺激を受け、脳が活性化し、ありがたいことに健康でいられています。
実は3年ほど前から、次の段階は「社会貢献」と決めているんです。自分の人生を3つに分けて、最初が建設、次が介護、最後は社会貢献。今も会社を通してヤングケアラーや若いアーティストの支援をしていますけど、それをさらに発展させ、個人としてもやっていきたい。
まずは貧しくて塾にもいけないような子どもが勉強できるような支援や、学生ベンチャーの資金面の援助をやろうと決めていて、計画を練っているところです。
しかし、そのための仕組みを調べると、財団法人にはいろいろな縛りがあり自由性が乏しいと感じたので、財団法人ではない個人の財団、例えば「下村基金」をつくりこの基金を社会貢献に使いたいと考えています。
残された人生そう長くはありませんが、残りの時間を個人的な社会貢献に使うつもりで、今、準備をしているところです。どこまでできるかわかりませんけど、そんなふうに決めてるんです。
チャーム・ケア・コーポレーション