全世代が注目すべき! 遺族年金の見直しで 一部廃止に?

フロッギー版 お金で得するオタク会計士チャンネル/ 山田真哉

みなさんこんにちは! 公認会計士兼税理士の山田真哉です。

現在、2025年の年金制度改正に向けて議論が行われています。その中でも、遺族年金は見直される可能性がかなり高いです。遺族年金の改正は、年金をもらう世代だけでなく、現役世代がかける生命保険の計算にも影響を及ぼします。そのため、全世代が注目すべき制度改正です。今回はどの辺りが変わりそうなのか、お伝えしたいと思います。

お送りする内容は、以下の通りです。

・老後、障がい、死亡時の各年金
・生命保険代わりの年金
・遺族厚生年金の様々なルール
・子どもなしの40歳以上の女性だけがもらえる年金
・もらえる年金、男女の差
・どこが見直されるのか?

公的年金のなかの遺族年金

この連載でも何度か取り上げていますが、社会保険を大きく分けると、公的保険公的年金があります。今回は公的年金の話です。
個人事業主とその配偶者は国民年金、会社員は厚生年金に加入しています。そして、会社員の配偶者で年収130万円未満の場合は国民年金は無料です。これについては第3号被保険者(主婦年金)と呼ばれていて、廃止縮小の議論が出ています。過去の記事で解説しているので、ご参照ください。

公的年金でもらえるものとは?

まず、国民全員が加入することになっている国民年金について解説します。高齢になると老齢基礎年金、障がいを持つと障害基礎年金、死亡すると遺族基礎年金をもらうことになります。

会社員・公務員は厚生年金に加入することになっていて、国民年金より高い保険料を納めています。ただし、その一部は国民年金の分となっています。ですので、高齢の場合は老齢基礎年金+老齢厚生年金、障がいを負った場合は障害基礎年金+障害厚生年金、そして自分が死亡した場合は、遺族に遺族基礎年金+遺族厚生年金が支払われます。この遺族年金が今回のテーマです。

遺族基礎年金は、婚姻していない18歳以下の子どもがいる場合、配偶者もしくは子が受け取ることができます※。子どもがいない場合や子どもが18歳を超えている場合には、遺族基礎年金は支払われません。

※20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある子どもがいる場合も対象です。

かたや遺族厚生年金は、子どもの有無は関係ありません。主な収入が亡くなった人によるものだった、という生計維持要件を満たす場合にもらえます。遺族厚生年金は、まず亡くなった方の妻や夫と、18歳以下の子どもにもらう権利があります。次に父母、孫、祖父母と続きます。

働き手を失った時や年金受給者が亡くなった時、残された配偶者に遺族年金が渡されます。そのため、現役世代にとっては生命保険の代わりになり、ご年配の方にとっては老後の生活を安定させるというメリットがあります。

この遺族厚生年金のルールはかなり複雑で、もらえなかったり、逆に多くもらえたりする場合があります。今回、ここにメスが入ろうとしています。ちなみに老齢年金は課税されますが、障害年金と遺族年金は非課税です

女性のみが加算してもらえる⁈ 遺族厚生年金の複雑なルール

遺族である配偶者は、遺族厚生年金を生涯もらうことができます。この「遺族」というのがポイントで、再婚すると遺族年金の支払いはストップします。これが基本ルールなのですが、実は例外規定がたくさんあるんです。

例えば、配偶者が30歳未満で子どもがいないと、5年間の期間限定の給付になります。また、配偶者の年収が850万円(所得ベースで655万5000円)以上の場合は、十分な収入があるとみなされて、遺族年金がもらえません。さらにややこしいのが、40歳から64歳で子どもがいない配偶者の場合は、中高齢寡婦加算が追加でもらえます。これについては寡婦とある通り、女性のみです。

中高年寡婦加算について、少し具体的に説明します。例えば、妻が25歳、子どもが3歳の時に夫が亡くなったとします。その場合、遺族基礎年金として年間105万800円。そして、仮に、亡くなった方の平均月給が40万円だったとすると、生きていれば夫がもらうはずだった厚生年金の4分の3にあたる年間約50万円をもらうことができます(これはあくまでも概算額です)。

就職してすぐ亡くなった場合、あまりもらえないのではと思うかもしれませんが、安心してください。厚生年金は加入した期間が短かったとしても300月、つまり25年間働いたとして年金額を算出してくれます。これを「300月ルール」と言います。

しかし、子どもが18歳を超えてしまうと、遺族基礎年金の100万円部分がなくなってしまいます。そして妻自身が65歳になると、自分の基礎年金(現在だと満額で年間81万6000円)として再びもらうことができます。

これでは子どもが18歳を超えてから自分が65歳になるまでの間、収入は減ってしまいます。それをカバーするのが中高齢寡婦加算です。今だと年間61万2000円ほどもらえます。なお、中高齢寡婦加算の対象が40歳からとなっているのは、40歳を超えると女性は高収入の仕事に就いたり、正社員になるのは難しいということが理由のようです。

主夫は遺族厚生年金がもらえない!

遺族厚生年金では、一定の条件をクリアすると、妻には中高齢寡婦加算があると話しました。では逆に妻が稼いでいて、夫が主夫だった場合はどうでしょう。

父子家庭の遺族基礎年金については、2014年からもらえるようになりました。ただ、残念ながら遺族厚生年金には、中高年寡婦加算のような制度はありません。それどころか、そもそも夫は遺族厚生年金がなかなかもらえません

妻が亡くなったときに夫が55歳以上であれば、遺族厚生年金をもらう権利があり、60歳から遺族厚生年金をもらうことができます。ただ夫もそれなりに働いてると、65歳から自身の老齢厚生年金をもらえるようになります。すると、遺族年金と老齢厚生年金の多いほうにしなければならない、といった併給調整が入るんです。夫自身の老齢厚生年金のほうが多ければ、遺族年金はなくなってしまいます。

つまり、共稼ぎの場合には、なかなか遺族厚生年金をもらえません

共働きだと遺族厚生年金をもらえない、男女でもらい方に差があるという問題については、政府でも議論しています。実際どんな見直しが行われているのか、見ていきましょう。

遺族厚生年金 見直しのポイント

遺族厚生年金の見直しポイントは、男女差の解消です。子どもがいない女性は、30歳以上であれば、遺族厚生年金を生涯もらえます。一方男性の場合は、55歳以上でないともらえる権利がない。この差はなくしたほうがいいだろうということで、男性の年齢制限を撤廃する、もしくは女性も年齢制限を入れる、という議論がされています。

そして、収入要件についても議論されています。そもそも遺族年金というのは、夫や妻が亡くなって生活が一変し、大きな出費も出るのをカバーするための年金です。だとすると、年収は関係ない話です。

また、遺族年金を配偶者や子どもがもらうのはわかります。ですが、父母や祖父母はそもそもそれなりに年齢が高くなっているケースが多く、自分たちの老齢年金をもらってる可能性が高いです。そこにあえて遺族年金を足す必要があるのだろうか、ということです。

諸外国のケースを見ても、配偶者や子ども以外に遺族年金を渡す国は、あまりないようです。おそらく、遺族年金の制度ができた当時は老齢年金の制度が整っていなかったので、このようなルールができたのでしょう。しかし、もはや時代が違っているということですね。

そして、中高齢寡婦加算についても、女性にしかないのはおかしいのではないか、という議論もあります。この男女差の解消については、どちらかというと縮小してなくなる方向だと思います。

なお、この男女格差と同様に、議論の中心となっているのが無期給付の廃止、つまり給付の有期化です。子どものために遺族年金を給付するのはわかるが、配偶者が30歳や40歳であれば、まだ働けるのではないか、という議論が起きています。遺族年金が永久にもらえるから、シングルマザーが再婚しない、といった話になるわけです。再婚しようがしまいが10年間もらえるようにすれば、問題は起きません。

遺族厚生年金がこのような制度になっている理由は、もちろん生活の安定もありますが、掛け捨ての防止という面もあります。つまり、亡くなった人が払い続けた保険料がまったく返ってこないと、保険料を払う気持ちを削いでしまうだろうということです。

ちなみに遺族基礎年金では、死亡一時金があり、遺族に一時金として渡す制度があります。これを遺族厚生年金にも入れたらいいのではないか、という案もあります。

また、遺族基礎年金には寡婦年金という、60歳から64歳までの間の女性への遺族年金があるのですが、これも廃止の議論が出ています。

さらに言うと同性パートナー問題ですね。現在、男性同士、女性同士カップルの場合には、遺族年金は一切ありません。それもこのご時世ではどうなのだろう、という議論があります。

このように様々な見直しが行われそうなのですが、可能性が高いのは、男女差の廃止と給付期間を定める有期化です。この2つは2025年改正で見直される可能性が高いと思います。

この議論は、2024年の年末には具体的な姿が見える予定です。また新しい情報が分かりましたら解説したいと思っております。というわけで2024年4月21日時点の情報でした。

それでは今後ともごひいきに。ば~い、ば~い!