月に水が存在する可能性が高まって以降、宇宙探査の世界で、再び各国の開発競争が本格化しています。今回は、有人の月面探査に注力する三菱重工業を中心に、月面開発に取り組む企業を紹介します。
日本企業の参画相次ぐ「アルテミス計画」
4月に行われた日米首脳会談で、日本人宇宙飛行士による月面着陸を盛り込んだ取り決めに合意したというニュースが流れました。実現すれば日本の宇宙探査は大きく前進することが期待されます。
米国は月での経済圏の構築を目指す「アルテミス計画」を進めており、2026年にも宇宙飛行士を月に送り込む予定です。この計画では、多くの日本企業が相次いで「黒子」として参画しています。
・米国の「アポロ計画」以来半世紀ぶりの有人月面着陸を目指す(2026年予定)
・宇宙ステーション「ゲートウェイ」建設(日本も生命維持システムを提供予定)
・日本製の有人月面探査車を打ち上げ
三菱重はECLSSで宇宙空間に「住める」環境を提供
アルテミス計画では、探査拠点として月周回軌道上の有人宇宙ステーション「ゲートウェイ」が重要な役割を担います。ここで重要となるのが環境制御および生命維持システム「ECLSS(Environmental Control and Life Support System)」です。
ECLSSは空気の供給や二酸化炭素(CO2)・有害ガスの除去などを行い、閉ざされた宇宙の住空間で人類が生活できる環境を作り出すシステムです。人類が地球とは異なる環境の宇宙に滞在するためには欠かせない技術と位置づけられます。
「 三菱重工業 」は、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」や、物資補給機「こうのとり」の長年の運用で得た知見を活用して、「ゲートウェイ」のECLSSの開発に携わっています。
ECLSSは、「 トヨタ自動車 」などが開発する有人月面探査車「有人与圧ローバ(愛称:ルナクルーザー)」にも活用されます。宇宙服を着用せずに搭乗できるのが特徴で、宇宙服を着たまま搭乗する米国の探査車に比べて長時間かけて広範囲の探査が可能になるとみられています。
月の気温は、110度からマイナス170度と変動差が大きく、高エネルギーの放射線「宇宙線」が降り注ぐなど地球上と比べ環境は過酷です。ルナクルーザー用のタイヤを手掛ける「 ブリヂストン 」はこうした過酷な月面で走行可能なタイヤを開発しています。
月面の水資源活用を見据えた動きも広がります。「 高砂熱学工業 」は、ロケット燃料になる水素と、人が月面で生活するための酸素を水から作る装置を世界で初めて開発。宇宙スタートアップの「 ispace 」がこの冬打ち上げる月面着陸機に搭載して月面での試験を予定しています。
「 清水建設 」は2018年に宇宙開発部を発足。次世代の収益の柱の1つとして本格的な事業化に乗り出そうとしています。
これまで幾度となく注目を集めてきた宇宙開発。いよいよ「夢」から「現実」へと移り、企業の次の時代の収益の担い手として花開くときは近そうです。