投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。今回は、配当株投資において、もしも減配になった場合に、どんな視点でその銘柄を捉えるべきなのかについて、著者の配当太郎さんと一緒に見ていきましょう。[PR]
増配の目処を立てることがモチベーションのアップにつながる
増配の恩恵を受け続けるためには、「業績が堅調」で、「1株益が上昇傾向」にある企業を選び、その株を買って持ち続けることが大切です。
「1株益」とは、1株当たりの利益がどれだけあるかを示す値で、「当期純利益」÷「発行済株式数」(自己株式を除く)の計算式で求められる、企業を評価する際の指標のひとつです。そしてこの「1株益」は、「1株配」(1株あたりの配当)の原資となるものです。
これらの状況をつかんでおくのに加えて、もう一つ大事なのは、「過去10年ほどの増配率を確認して、その傾向を把握しておく」ことです。その企業の増配力を大まかに理解しておけば、この先の配当金の目処が立てやすくなり、配当株投資のモチベーションがアップすることになります。
株式投資の世界には、投資元本が2倍になるまでの年数を簡易的に知ることができる「72の法則」と呼ばれる計算式があります。私は配当株投資によって雪ダルマ式に利益が積み上がるイメージを「配当金ダルマ」と呼んでいますが、この「72の法則」の計算式に当てはめれば、配当金ダルマがどのタイミングで2倍に成長するかを知ることができます。
「72」÷「増配率」(%)=「投資期間」(年数)
自分が買いたいと思っている企業の株が、多少の凸凹がありながらも、平均すると5%は増配していることがわかれば、この計算式に当てはめることで、「72÷5=14.4」となり、ざっくりと14年を超えて保持すれば、自分の持っている配当金が2倍に成長することがわかります。
新NISAを活用して、永続的に非課税の恩恵を受けていくならば、「現在の株価で買ったら、将来的にどのくらいの配当金を得られるのか?」という目安がわかれば、自分のライフプランやマネー計画も立てやすくなり、メンタル的にも落ち着いて配当株投資と向き合うことができます。
投資というのは、「数年後にどうなっているか?」を考えて、自分の将来を想像しながらやっていくものだと私は考えています。それを可能にしてくれるのが、配当株投資であり、増配なのだと思います。
「減配」になったときの拠り所になる「4つの視点」
「配当株投資」は、先ほども少し触れたように、業績が堅調で1株配が上昇している企業の株を買って持ち続け、その持ち株数を増やすことによって、増配の恩恵を享受することを目的とした投資法です。
基本的には、買った株は手放さず、その理由が明らかであれば、仮に「減配」しても保持することが大切ですが、「このまま株を持ち続けても、本当に増配はあるのか?」と不安になる局面もあると思います。
「企業が減配したら売る」と安易に結論を出すのではなく、次のような「4つの視点」に立って、複合的に検討してみることが大切です。
視点②……「1株配」の変化をチェックする
視点③……市場の「織り込み」具合を見る
視点④……今後の「展望」を考える
では、この4つについて、それぞれ解説していきましょう。
視点①……「1株益」の変化を確認する
「1株益」は、企業の収益性や成長の度合いなど「稼ぐチカラ」を見極める指標ですから、株主にとっては、1株益の数値がすべてです。特別損失(その期だけ発生した損失)のような一過性のものを除いて、何期も連続で1株益が落ち込んでいたり、上昇しなかったりする銘柄は、警戒する必要があります。
1株益が落ち込み始めた場合は、その原因を知ることが大切です。「為替レート」や「資源価格」「原材料価格」の変動など、さまざまな要因が考えられます。それらの要因が、当分の間は回復困難であれば、この段階で初めて売却を検討することになります。
視点②……「1株配」の変化をチェックする
「1株益に対する1株配の額」や、「配当性向」をチェックすることが大切です。配当性向とは、当期純利益に占める年間配当金の割合を示す指標です。1株益が伸びていないにもかかわらず、1株配を増加させたり、配当性向が極端に高かったりする場合は、警戒する必要があります。
減配を否定的に見るのではなく、「企業の還元方針と1株益の変化によって、どのように1株配を決定したのか」を見極めることが大事なポイントとなります。一時的に減配になる場合であっても、同様の視点で考えることによって、数期連続の減配や無配を回避することができます。
視点③……市場の「織り込み」具合を見る
減配はしていなくても、1株益や1株配の変化から、株式市場が「今後に期待できない」と判断した場合は、それが株価に織り込まれていくことになります。
「織り込む」とは、株価の変動に影響を与えるような材料が、すでに株式市場で認知され、株価に反映された状態のことを指します。その株価の織り込み具合を見て、織り込み方が甘ければ、その後も下落して行く可能性が高いため、売却を検討します。
織り込み方については、過去の株価収益率(PER)の推移も参考になります。株価収益率とは、「株価÷1株当たり純利益(EPS)」で求められ、株価が企業の利益水準に対して割安か、割高かを判断する目安のことです。
1株益が伸びていなかったり、減少傾向にあるにもかかわらず、企業が配当を維持して、株価が横ばいであったりする場合には、配当利回りの良さだけで株価が維持されている可能性があります。こうしたケースでは、減配の可能性が市場に織り込まれていないため、減配が発表されると株価が大きく下落することもありますから、それに先んじて売却を考慮することも必要です。
視点④……今後の「展望」を考える
企業ごとの事業内容を勘案して、今後の展望を考えてみる必要があります。競合他社の動向や、為替レート、資源価格、原材料価格の変動などを加味しながら、企業IRを確認して、引き続き厳しい環境が続きそうであれば、売却を検討することになります。
こうした場合でも、市場が「すでに悪材料は出尽くした」と判断すれば、買いが集まって株価が上がることもありますから、視点③の状況を冷静に観察して、慎重に考えることが大切です。
減配に動揺して、条件反射的に売り急ぐのは禁物です。あくまでも、「企業の業績」「還元の状況」「市場の織り込み方」を考慮しながら、客観的で冷静な判断をすることが重要です。配当株投資で株を手放すのは、家を買ったり、子供の教育資金など、ある程度のまとまった現金が必要になったりしたときだけ……と考えるようにしましょう。
大事なのは、「減配=売り」と決めつけないことです。仮に減配したとしても、自分の中で、その企業に対する期待感に変化がなければ、売却する必要はありません。
株価が大きく下落する局面があれば、そこで買い増すことも、有効な作戦となります。
「安心感」が継続の支えになる
配当株投資では、最初から売ることを考えたり、「買ったらどうなるか?」で頭を悩ませるような銘柄を、わざわざ選んだりする理由や必然性はまったくありません。ハラハラ、ドキドキしたり、「いま買ったら、株価的にも利回り的にも、美味しい思いができるかも」と思うような銘柄に手を出したりするのは、配当株投資の「地盤作り」ができてからでも遅くはありません。
無用な心配をすることなく、業績が安定していて、1株益が上昇している企業の株を買って持っていれば、黙っていても、向こうから「増配」がやってくることになります。
投資である以上は、不確実の積み重ねであり、正解は誰にもわかりません。だからこそ、持っていることが辛いとか、心配になるような銘柄を選ぶのではなく、「持っていることが安心・安全な企業の株」を買うことが大切です。
その安心感があれば、不安なく持ち株数を増やしていき、配当株投資を継続することができるのです。