1997年に創業以来、インターネットを活用した有期雇用者向けジョブマッチングサービスの先駆けとして、「バイトル」「はたらこねっと」などの事業を展開。近年はDX支援の新規事業にも積極的な動きを見せるのがディップだ。30歳で同社を創業し、四半世紀にわたって労働市場の最先端を切り拓いてきた冨田英揮社長に、事業を成長させていくための秘訣を聞いた。
事業で一番大切なのは「変化を受け入れる」こと【前編】を読む
アイデアは実現しないと意味がない
「dip」という社名は、創業の頃から大事にし続けてきた3つの言葉の頭文字をとったものです。
Dream・Idea・Passion ――夢・アイデア・情熱。30歳で起業したとき、ゼロから事業を立ち上げ、継続させていくために欠かせない3つの要素を、毎日忘れることがないようにと社名にしたのです。
夢を描き、夢を形にするためのアイデアを練って、行動を続けるだけの情熱を持つ。
どれも欠かせない要素ですが、タフなビジネスの源となるのは、やはり「アイデア」の力と思います。

ここで強調してお伝えしたいことがあります。
斬新なアイデアを生み出す発想力も重要ですが、同じくらい重要なのが「アイデアを実現する力」です。
当社のブランドアンバサダーに就任したメジャーリーガー、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手と対談する機会をいただいた際に、大谷選手からも「アイデアは実現しないと意味がない」という言葉をいただきました。
おっしゃるとおりで、組織の中にアイデアマンがたくさんいて、100のアイデアが出たとしても、1つも実行できなければなんの意味もありません。

大谷翔平選手の広告ビジュアルや冨田社長との対談動画も話題に
優れたアイデアをいかに実現するか。ここで欠かせないエンジンとなるのが「チーム」であり「組織」の力です。
発想が得意なメンバーもいれば、アイデアの実現に向けて着実な計画を練るのが得意なメンバー、計画をスピーディーに実行するのが得意なメンバーと、力の発揮しどころはいろいろあるはずです。
多様な「得意」を持ち寄って、パワフルにアイデアを実現する。これが組織が成せる技だと私は思います。
「良いアイデア」の条件
前期に社内に向けて出したスローガン、「Think big, Act small(大胆に考え、着実に動こう)」は、まさにアイデアを実現するために大事にしたい姿勢を示したつもりです。
27年前にたった1人で始めた会社ですが、今は3,000人もの頼れる仲間がいます。夢と情熱を持って、ユーザーと社会のためになるアイデアを実現する組織でありたいと思います。
同時に気をつけなければならないと自分に言い聞かせているのは、3,000人の仲間を結束するコミュニケーションの重要性です。
フィロソフィーをしっかりと伝えて浸透させていくことが、創業経営者である私の務めであると考え、以前に増して丁寧に言語化しようと意識しています。

前編でもお話ししたとおり、会社の事業自体は「変化対応」を強みにしているので、その分、「変わらない軸」はどっしりと根付かせておく必要がある。私自身の意思決定についても、常にフィロソフィーにコミットしたものであることを確かめて実行しています。
あれもこれも手当たり次第に始めるのでは、社員も納得して動けないでしょう。目線を合わせながら、アイデアを実行することが大切ですね。
アイデアもたくさん出せばいいというものではありません。私も発想型の人間なのですが、常に良いアイデアが浮かぶわけではなく、取捨選択をしています。
では、「良いアイデア」とはどういうものなのか。私は「汎用性」がその条件だと考えます。
一つの問題を解決するために考えたアイデアであっても、「あれにもいい」「これにも効く」といくつにも応用できるアイデアがそうです。我々が力を入れているAIエージェントも、大きな可能性を秘めているので楽しみです。

一番考え抜いたのは、自分
ただし、良いアイデアが最初から評価されるとは限らない、というのもまた事実です。
むしろ斬新でユニークなアイデアほど、人々の理解を得られず、批判の対象にもなります。
私がまったく未経験の分野から転じて、「人材とインターネットを掛け合わせたビジネスで起業をしよう!」と発案したときにも、周囲の賛同はほとんど得られませんでした。「そんなこと、できるわけがない。こうするべきだ」と助言をくださる方もいましたが、自分のアイデアに関して一番考え抜いたのは自分だという自信があったので、そう簡単には揺るぎませんでした。
逆風の中、唯一応援してくれたのは父親でしたが、その父も私の事業が軌道に乗らないまま半年、やがて一年過ぎる頃になると、「お前は嘘つきだ!」と態度が一変。だいぶキツく言われましたが、もともと厳しく育てられたこともあって耐性はついていたようです(笑)。「絶対に成功させてみせるぞ!」と一層情熱に火がついたのですから、父には感謝したいくらいです。
毎晩寝る前に、「絶対にできる……絶対にできる……!」と強く念じて目を瞑っていたあの頃の思いが、今につながっています。

アイデアは不思議なくらい枯れることなく、今もどんどん湧いてきます。
労働力としての価値は、年齢を重ねるほど減退すると考えられがちですが、私自身の実感としてはアイデアを生み出す力は経験や知識を積んでからのほうが、質・量ともに伸びると感じています。
もちろん人にはそれぞれに得意不得意があって、発想力の強みは私の個性なのでしょう。アイデアが湧かなくなったら、自分の役割を考え直さなければならないとも思っています。しかし、当面はその心配もなさそうです。
ディップ