小松製作所【6301】市場環境が悪化していても、好業績が期待できる理由

日興フロッギー版 妄想する決算/ 妄想する決算

カエル先生の一言

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コマツレポート(統合報告書)2023
2023年度第3四半期決算説明会資料
2023年3月期決算短信[米国基準]連結
2022年度決算説明会資料
2024年3月期 第3四半期決算短信[米国基準]連結

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、株式会社小松製作所の「コマツレポート2023」「2023年度第3四半期決算説明会資料」「2023年3月期決算短信[米国基準]連結」「2022年度決算説明会資料」「2024年3月期 第3四半期決算短信[米国基準]連結」より引用しています。

今回取り上げるのは建設機械メーカーの株式会社小松製作所(以降コマツ)です。

事業内容と業績のポイント

それではまずは事業内容から見ていきましょう。コマツの事業セグメントは以下の3つです。

①建設機械・車両事業
②リテールファイナンス事業
③産業機械他

①建設機械・車両事業は、建設・鉱山機械、フォークリフト、林業機械などの製造販売から、メンテナンスや修理まで行っています(コマツレポート2023 P26参照)。

主力商品の一般建機では、油圧ショベル、ホイールローダー、ブルドーザー、モーターグレーダーなどがあります。鉱山機械にも強みがあり、主力商品はダンプトラックやロープショベル、超大型油圧ショベル、ロードホールダンプなどがあります。

そしてこの市場では、大型が中心で一般建機と比べて競合が少ないため(コマツレポート2023 P28参照)、近年はコスト増加が進んでいますが、価格転嫁がしやすいと考えられます。鉱山機械関連の売上高は、近年、増加を続けていて、2022年度では1兆4215億円で建設機械・車両事業の43%ほどを占める規模になっています。競合の少なさや売上規模を考えても、鉱山機械の重要性が高いことが分かります(2023年度第3四半期決算説明会資料 P23参照)。

②リテールファイナンス事業は、自社で建設機械などを販売する際のローンなどファイナンスを行っている事業です(コマツレポート2023 P26参照)。

③産業機械他では、半導体製造の分野で露光装置など、自動車産業向けには大型プレス機、板金機械などの製造販売を行っています(コマツレポート2023 P26参照)。

2023年3月期の事業セグメント別の売上高と(セグメント利益)の構成比率を見ていくと以下の通りです(2023年3月期決算短信 P15参照)。

①建設機械・車両事業:92.8%(89.9%)
②リテールファイナンス事業:1.9%(5.5%)
③産業機械他:5.3%(4.6%)
※売上高と営業利益の構成比率は執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ
※内部取引を除いて算出

リテールファイナンスは利益率が高く、利益面では一定の規模はありますが、主力事業は売上高・セグメント利益ともに約9割を占める建設機械・車両事業です。この建設機械・車両事業の業績は設備投資の需要に左右されます。今回はこの建設機械・車両事業を中心に見ていきます。

建設機械・車両事業の2010年からの売上構成比率の推移を見ていくと、「部品その他」の構成比率が増加しています。2010年度では33%ほどでしたが、2019年度には53%、2022年度は48%と、近年は約半分を占めています(2022年度決算説明会資料 P39参照)。

「部品その他」とは機械本体の納入後の部品販売や、定期メンテナンス、オーバーホールなどの修理を行う事業です。このため機械本体の納入台数の増加に伴って、その後は需要が増加し、収益が拡大していく事業です。コマツはこれまで長期的に販売を行ってきましたから、累計の納入台数が増えて、業績も伸びてきたということです。そして、この事業は需要の増減にあまり左右されることなく、今後も安定した収益が期待できます(コマツレポート2023 P29参照)。

売上高の半分を占めている事業が比較的安定した収益であり、これは企業として大きな強みです。

続いて主力の建設機械・車両事業の市場別の売上高構成比率を見ていきます(コマツレポート2023 P26、30参照)。

①日本:10%
②北米:26%
③欧州:10%
④中南米:17%
⑤CIS(編集部註:ロシアなど):4%
⑥中国:2%
⑦アジア:14%
⑧オセアニア:10%
⑨中近東:3%
⑩アフリカ:5%

北米は比較的規模が大きいですが、売上高の構成は世界中に分散しています。国内売上は10%ほどですから、海外市場がメインの企業で世界の市場の動向が業績的に重要となります。

ここ10年の主要製品の需要の動向を見ると、2012年度~2016年度あたりは需要の減少が続いています。それ以降は、増減は多少ありつつも比較的堅調な推移です。2020年度はコロナ禍の影響もあり需要は減少していますが、2021年度、2022年度も2018年度とほぼ同程度の水準となっています(2022年度決算説明会資料 P20参照)。

需要の動向を元に業績の推移を見てみましょう。2010年度~2016年度までは、市況が良好ではなかった事もあり売上高は比較的横ばい傾向で停滞が続いていましたが、市況が改善を始めた2017年度からは成長しています。市況が業績に大きく影響を与えることが分かります。

そして、2020年度はコロナ禍の影響で市況も悪化し業績は悪化していますが、2021年度、2022年度にはコロナ禍前を上回る業績となっていて2022年度には売上高、営業利益ともに過去最高を達成しています近年は良好な市場環境もあり好調です(コマツレポート2023 P32参照)。

改めて市場環境を見てみると、業績が好調だった2022年度の市場環境は、比較的良好だったとはいえ、前年比で悪化していますし、2018年度と比べても悪化しています。それでも過去最高の業績でした。その理由は、2つあります。

1つ目は市況悪化の要因が中国ということです。2017年度からの堅調な市況を支えていた中国は、コロナ禍後に需要が悪化しています。一方で北米やその他の市場は比較的堅調です。先ほど見たようにコマツの売上に占める中国の割合は2%ほどしかなく、北米は26%です。中国市場を除けば、需要は1%増とのことで、中国比率の低いコマツにとっては、シェアの高い北米などの需要が増加しているため、市場環境は良好だったということです(2022年度決算説明会資料 P20参照)。

コマツの地域別の売上高の推移を見ても、売上高が伸びた要因は北米、中南米、アジア、欧州などです。2024年3月期ではインフレが進む中で一定の経済の停滞がみられる地域はありますが、それが顕著なのはやはり中国市場です。その影響が小さく済むことを考えると、ある程度安定した需要が期待されます。そしてもう1つの要因は、為替です。2022年度は特に大きく円安が進みました(2022年度決算説明会資料 P36参照)。

コマツの製品は、国内生産の比率が比較的高く4割となっています。国内の売上規模は1割程度なので、3割が「国内生産・海外売上」となり、輸出企業としての側面が強いです。また、「海外生産・海外売上」が6割ほどあり、こちらも円安になれば当然好影響があります。ドル円では1円の円安で40億円ほどセグメント利益が変動するとしています。2024年3月期も円安傾向が続いていますから、その好影響が期待できます(コマツレポート2023 P33参照)。

その一方で、企業としては為替の変動リスクが高い状況からの脱却を進めています。為替は自社でコントロールできないため、企業としては為替リスクを抑えて安定した経営をしたいということです。

続いて2022年度の売上とセグメント利益の具体的な変動要因を見ましょう。売上に関しては、7322億円の増収のうち為替の影響が+4210億円、販売量の増加の影響が+1807億円、価格改定の効果が+1212億円となっています。為替の影響に加えて、販売面の好調と価格改定の効果もありました。

セグメント利益面の変動要因を見ると、原価高騰の影響で▲1182億円ほど影響がありましたが、数量増加の影響が+634億円、価格改定の増加の影響が+1212億円でした。価格改定で原価高騰の影響を打ち返せており、価格転嫁も順調です。

近年伸びていた鉱山関連の製品では、競合が少ない企業がコスト増に対して強いことが分かると思います。さらに為替の影響が+1330億円となり、大幅増益を達成しています(2022年度決算説明会資料 P7参照)。

ここまでのまとめ

・主力は建設機械・車両事業で、特に競合が少ない鉱山系の大型製品に強み
・建設機械・車両事業は、売上の約半分が部品や修理などのサービス売上。設備投資需要の影響を受け難く、業績は安定的
・売上の大半は海外だが、日本の生産比率が比較的高く、為替が業績に与える影響は大きい。円安が続けばその好影響が期待される
・2023年3月期は、コスト増の影響は受けつつも販売数量の増加、プライシング、円安の好影響があり、好調
・2024年3月期は、景気低迷による需要減少が懸念されるも、最もその影響が大きいと考えられる中国比率が低いため、一定の需要が期待できる。プライシング面の強さや円安の好影響で引き続き好調か

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。今回見ていくのは2024年3月期の第3四半期までの業績です。

売上高:2兆7949.9億円(10.1%増)
営業利益:4534.2億円(30.8%増)
純利益:3042.7億円(31.2%増)

増収増益で好調が継続しています(決算短信を参照)。

コマツの2023年3Q決算説明資料より

セグメント利益の前期比は以下の通りです。

①建設機械・車両事業:+38.9%
②リテールファイナンス事業:▲12.0%
③産業機械他:▲63.7%

リテールファイナンスでは、前期に引当金の戻り入れがあった反動や、産業機械他では半導体市場の低迷による悪影響を受けたことで減益となったとしています。売上高、セグメント利益ともに大半を占めている建設機械・車両事業が好調だったことで、全体として好調だったことが分かります。

それでは続いて主力の建設機械・車両事業の状況についてもう少し詳しく見ていきましょう。

コマツの2023年3Q決算説明資料より

セグメント利益面の変動要因は、原価高騰の影響で▲167億円、固定費の増加で▲301億円と、インフレが続く中でコスト増加の影響があったものの、数量増加の影響が+97億円、価格改定の影響が+1015億円となっており好調です。

マイナスの影響は価格改定の効果だけで打ち返せていて、やはりプライシングの面で強さがある企業だと分かります。さらに円安が続いていますから、為替の影響も+598億円です。価格改定と円安で好調だった側面が大きいということです。

コマツの2023年3Q決算説明資料より

市場別の売上を見ていくと、中国とCIS(ロシアなど)、アジアは売上高が減少していますがそれ以外の地域では増加しています。

コマツの2023年3Q決算説明資料より

また、欧州経済はインフレの悪影響を強く受けている事もあり、需要は第3四半期で▲15%です。通期でも▲10~▲15%を見込んでいて、苦しい状況で、為替の影響を除くと減収となっています。それ以外の地域では為替の影響を除いても増収となっており、販売面も堅調な地域が多いです。

コマツの2023年3Q決算説明資料より

特に市況が悪化しているのは中国です。中国を含む全体の需要は第3四半期では▲6%ですが、中国を除くと▲3%です。

コマツの2023年3Q決算説明資料より

中国エリアの需要減は経済停滞の悪影響が大きく、第3四半期が▲51%で、通期でも▲40~▲50%を見込んでいます。ただ、コマツは中国の事業規模が小さいため、中国市場環境悪化の影響をあまり受けませんでした。さらに、全体の需要も悪化している中で、コマツは売上高を伸ばしていて、企業としての競争力の高さが分かります

2023年度の需要見通しでは、中国を除いても前期比▲10%~▲15%を見込んでおり、良好な市場環境とは言えない中で、高い競争力で販売数量を確保できるどうかに注目です。

コマツの2023年3Q決算説明資料より

最も売上高の大きい北米は通期での需要は0~▲5%を見込んでいます。しかし住宅建設が底打ちした事や、インフラ・エネルギー向けが堅調な事もあり、第3四半期では前期比+4%となっていて回復が見られます。

北米では市況の回復が見られ始めていますし、一定の需要は期待されますので通期でも好調が続くと考えられます。

コマツの2023年3Q決算説明資料より

通期の業績の見通しは、売上高+3.3%、営業利益は+11.7%、純利益は+4.2%となっています。通期会社計画に対する第3四半期までの営業利益の進捗率は82.7%となっていますし、北米市場に一定の改善がみられる状況という事を考えると、通期予想以上の好業績となる可能性がありそうです。販売面が堅調に推移するかどうかに注目です。

まとめ

・円安とプライシングによって増収増益で好調
・市況悪化の影響は、最も悪化が大きい中国での事業規模が小さいため限定的
・市場全体で需要減少となっている中、多くの市場で売上を伸ばしており、競争力が高い
・円安の継続や、主力の北米市場に市況改善が見られ、今後も一定の販売数量の確保が可能と考えられ、好調継続が期待される

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
コマツ