「賢いタイヤ」時代へ データ活用で足元支える

フォーカス!押さえておきたいテーマと企業/ QUICK

電動化や自動運転など自動車を取り巻く環境の変化が加速しています。今回は変化する自動車をまさに足元で支えるタイヤの新しい動きについて、ブリヂストンを中心に関連企業をご紹介します。

自動車の「足」を担うタイヤ、「CASE」時代の重要な黒子に

1月はじめ、ソニーグループとホンダが、米国・ラスベガスで開催された世界最大規模のテクノロジー国際見本市「CES2024」で、両社が開発を進めるEV(電気自動車)の新たな戦略を発表した、というニュースが流れました。

自動車を巡っては、2016年に独ダイムラー(現メルセデス・ベンツグループ)が、「CASE」ということばを打ち出しています。「Connected(つながる)」「Autonomous(自動運転)」「Shared&Service(共有とサービス)」「Electric(電動化)」の4つのキーワードの頭文字をとり、自動車の変化の方向を表わした造語です。

今回の「CES」は、自動車の脱炭素とITで機能を高める知能化が大きなテーマとなり、「CASE」に象徴される自動車の変化の加速を印象づけるものとなりました。

自動車の変化と言うと「電動化」や「自動運転」に話題が集まりますが、自動車の安全運行を支えるうえで変わらないのはタイヤの重要性です。むしろ、黒子としての存在感はますます高まっていきそうです。

具体的には、自動運転を制御するAI(人工知能)が考えるタイヤの動きと、実際のタイヤの動きのズレを修正する役割が挙げられます。道路に実際に直接触れるタイヤだからこそ得られるデータの収集や活用が本格化しており、タイヤは「賢いタイヤ」に変化しようとしています。

タイヤ業界はデータ収集・活用が主戦場に

自動車が変化する流れを受け、自動車タイヤの世界シェア上位のブリヂストンは、「第3の創業 」を掲げ事業モデルの転換を目指しています。2030年までの長期戦略では小売タイヤ事業を含むソリューション事業の売上高を約1兆円上積みし2兆円規模に拡大する計画を掲げています。なかでも注目されるのが、22年で2000億円規模にとどまる規模を6500億円に育てようとしているタイヤのデータ活用サービスです(2022年8月時点)。

データ活用では様々なサービスを展開しています。現在、各国ではタイヤのホイールに付けたセンサーでタイヤの空気圧などを測定するタイヤ空気圧監視システム(TPMS)の搭載義務化が進んでいます。ブリヂストンはTPMS機能に加えて路面状態を検知できる「カイズ(CAIS)」を開発。これは、タイヤにとりつけたセンサーにより、リアルタイムで凍結、シャーベットなどの路面状態を判別し、視界が悪い夜間などでも安全に車を運転することを可能にする技術です。

このCAISは、車両からのデータと結びつき、より進化しようとしています。ブリヂストンは、19年に約1100億円を投じて車両の運行データ管理を手掛けるトムトムテレマティクス(現ウェブフリート・ソリューションズ)を買収。蓄積されたトムトムの車両運行データをCAISと組み合わせて地図データに落とし込むことなどにより、さらに精緻な運行データとなることが期待されます。データの量が精度を高めるため、タイヤの供給量が世界トップクラスのブリヂストンが強みを発揮しそうです。

車両のデータ活用、建機のコマツは「Komtrax」で2000年代から先行

その他、横浜ゴムTOYO TIREも路面検知システムの実用化で技術開発を進めています。住友ゴム工業は回転数や振動周波数の計測でタイヤの空気圧の低下などを検知する独自システムを開発し、価格競争力を高めています。24年には自動車メーカーへの導入が決まり、将来は路面情報を車両制御にフィードバックする仕組みを目指しています。

車両のデータ管理で一日の長があるのが建機分野。小松製作所は遠隔で建設機械の情報を確認するシステム「Komtrax」を01年から標準搭載し、機器の稼働やメンテナンス管理をサポートしてきました。現在では鉱山用ダンプトラックの無人運転にも技術活用しています。

自動車を巡っては、車体そのものの脱炭素、自動化や電動化などのIT機能の向上に向け変化が加速しています。そのなか、安全な走行を足元から支えるタイヤはデータを収集・活用した「賢いタイヤ」として重要度が増していきそうです。