「日本をアップグレードする」――壮大なビジョンを掲げ、物流や海運、ヘルスケアなど、社会のインフラ的機能を担う業界の改革にAI・データサイエンスの力を使って挑むJDSC。2022年11月には三井物産、常石造船との合弁会社seawiseを設立し、注目を集めた。「当たればホームランの巨大市場しか狙わない」と断言する加藤エルテス聡志社長の、その真意とは。
AIは使うが、決してAIの会社ではない
私たちの社名、JDSCは「Japan Data Science Consortium」の頭文字です。
「コンソーシアム(共同事業体)」という語を社名に入れる会社は珍しいかもしれません。しかしながら、この一語に私たちのこだわりがあります。
一つの企業の課題解決にとどまらず、複数の企業が協力し合い、共通の目的を達成する挑戦の助けとなりたい。業界全体、ひいては社会の進歩に貢献したい。そんな思いを込めているのです。
今や、AIやデータサイエンスの技術を強みにした会社は珍しくなく、私たちも「AIの会社ですよね?」と聞かれることがあります。もちろん、得意だという自負はありますが、私たちの本領はそこではありません。
最大の目的は、AIやデータの高度な技術は大前提として、企業の垣根を越えてWin-Winの世界をつくること。もっと言えば、産業全体の生産性を向上させることです。そのためには、コンサルティングもやるし、システム開発、実装、営業もなんでもやるというスタンスです。
具体的に何をしているのか。典型的な事例として、海運業界のDXを説明しましょう。
海運業界と一口に言っても、業界を担うプレーヤーは幅広く存在しています。
船のオーナーである船主、船主から依頼を受けて船の図面を引く設計士、設計士から指示を受けて実際に船をつくる造船会社、船内のエンジンやセンサーなど専門機器を提供する会社、そして完成した船の運行をオペレーションする海運会社、船員を派遣するマンニング会社もあります。
加えて、造船にかかる資金を供出する金融や保険など、非常に多くの会社が関わっているわけです。
一つの船に関わる多くの企業が日々情報を連携しながら業務を進める必要があるわけですが、扱うデータの仕様や運用については各社独自のルールで行っています。企業内ではデータの活用が進んでいても、企業の垣根を越えた途端に連携が難しくなる。この「縦割り問題」が業界共通の課題となっているのです。
かといって、個別の企業が産業全体の規格統一の旗振り役を担うのは、現実的には難しいですよね。ゴールは共通課題の解決だったとしても、「ライバルと手を組む」ことになってしまうのですから。この大きな問題が、今に至るまで放置されてきた背景がここにあります。
その点、私たちの会社なら「中立の立場」として立ち回ることができます。業界全体の生産性を高めるために、どんなデータを採用し、どのような手法で企業間共有するのがベストなのかを設計して提案することができます。
また、システム会社のように「自社製品の販売や契約継続」を目的としたビジネスモデルではないので、既存の仕組みを保守しようという慣性も働きません。
企業・産業を越えたタッグを促進し、業界全体にまたがるバリューチェーン(価値連鎖)の生産性向上に集中することによって、業界のリーディングカンパニーの共感も得られ、多くのプレーヤーを巻き込んだ座組みを実現しています。
特に2022年11月に発表した、海運の雄、三井物産、常石造船とのジョイントベンチャー設立は大きな前進でした。非常に良い碁盤の上でゲームを始めることができたと思っています。
UTECから歴代最速スピードで資金調達
そもそも私の創業の動機は、技術ドリブンではなく、課題の発見から芽生えたものでした。
大学を卒業後、製薬会社に勤め、顧客である医師と接する中で発見した課題――それが「医療情報の施設間共有」という課題でした。
他の医療施設や研究機関と情報を連携しようとしても、大学によってデータの形式が違ってうまく共有できない。治療や創薬の発展にとっても解決すべき問題であると。
目の前の人の課題をなんとか解決できないかと考え、独学でデータサイエンスを勉強し、医療情報の解析に使えるソフトウェアを開発。会社勤めしながらの販売提供は難しかったため、退職して起業の道を選びました。
当初はそれほど大きな規模での事業を想定しておらず、一般社団法人としてのスタートでしたが、サーバのクラウド化によるコスト減などビジネスに有利な環境が整ったことで、2018年に株式会社へと変更。「AI」や「データサイエンス」の事業領域への注目が急速に集まった時期と重なり、東大発のベンチャーキャピタル「UTEC(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)」から歴代最速の6週間で投資が決定しました。
これは今も破られていないレコードだそうです。
「目の前で困っている医療従事者を助けたい」という気持ちから始まった行動でしたが、「業界全体の生産性を高める助けになりたい」という意識は、他の業界にも向けられるようになりました。
株式会社としての創業から今に至るまでの6年の間にさまざまな試行錯誤を経て、業界共通の課題の抽出から解決まで、一気通貫で伴走できる組織へと成長しました。
スタートアップの使命は、ホームランを打つこと
先ほど海運業界での事例を挙げましたが、他にも物流やエネルギー、介護など、社会のインフラとも言える業界に焦点を当て、事業を展開しています。
「ターゲットにする業界の共通点は?」というのもよく聞かれる質問です。明確な基準が3つあります。
まず、「産業規模が圧倒的に大きいこと」。市場規模の小さい産業にアプローチすると、打率を10割にしないとビジネスとして成り立たなくなります。たとえ打率が3割でも、成功すれば大きな利益を得られる「当たればホームラン」を狙えるかどうかは、我々にとって非常に重要な基準です。
次に、「古い仕組みが温存されていること」。いくら市場規模が大きくても、新しく洗練された仕組みが導入されている場合は、私たちが介入できる余地はありません。先述の海運業界はその歴史の分厚さゆえに、今もカタカナ表記の法律が残るほど(編集部註:戦前に制定された法律は漢文調でカタカナ・文語体でした)で、情報のデータ化も進んでいなかった点で「改革の余地」が大いにあったのです。
加えて、「AIやデータの力によって課題解決できること」。法律改正や国際化など、他の手法での解決がより効率的なのであれば、そちらに譲るべきだと考えます。私たちはあくまで自分たちの強みで勝負します。
とりわけ重要なのが、一つ目に挙げた「業界規模」です。
私たちのようなスタートアップに期待されるのは、成功確率の高い事業で小さくまとまることではなく、デカいホームランを打つことです。
大きな夢のある挑戦をして、諦めずずっとバットを振り続け、特大のホームランを打てるスラッガーを目指す。だからこそ、「当たればホームラン」を狙える市場規模の大きな業界に張っているのです。
ここで言う「ホームラン」とは、何も自社の利益や私たちの株主へのリターンだけを意味しているわけではありません。社会全体にとっての公益のインパクトを最大化したいのです。
スタートアップがホームランを打つべき価値を、実績で証明していきたいと思っています。
JDSC