ハローキティやマイメロディ、シナモロールなどのキャラクターでおなじみのサンリオ。ハローキティを通じて海外に「Kawaii」を広めた同社が、2015年3月期以降は業績低下に苦しんでいたことをご存知だろうか。そんな中、60年間にわたってトップを務めた創業者から2020年にバトンタッチし、31歳で社長になった孫の辻朋邦社長の手腕が注目を集めている。経営を刷新し、辻社長が取り組むサンリオの改革について伺った。
企業理念は大事だ。それを体現できているかはもっと大事だ【前編】を読む
改革時には「一気に」人を変える
社長になってあらためて自分を奮い立たせるような覚悟をした記憶はないですね。子どもの頃からサンリオを身近な存在だと思って育ち、サンリオが褒められれば嬉しかった。社会人になる前からどこか運命共同体のような感覚があり、会社が良くなるために力を尽くすのは当然のことだと思っています。そういう意味で、特別な覚悟は必要ありませんでした。

むしろ、「どうせやるなら楽しい方がいい」というのが私の姿勢です。停滞が続く背景に、明確なビジョンや戦略の欠如、頑張っても報われない人事制度があると気づき、社長就任後は思い切った組織風土改革を進めてきました。社員のみなさんにはいろいろと苦労をかけているかもしれませんが、本当に頑張っていただいております。
経営陣については、私が社長になるときに大きく変えなければいけないと考えていました。もちろん、生え抜きで長い間会社を支えてこられたベテランの前経営陣の方々には、深く感謝しています。みなさんには直接、私が「第二の創業」を目指すにあたって、新たなチームに刷新したいとお話ししました。
人に関する改革には、その前の人事での反省も影響しています。私が専務になったとき、戦略が足りない企業体質をどうにかしたいと思い、マーケティングの部署を新設しました(前編参照)。感覚的なことではなくマーケティングによりお客様の声を聞ける組織をつくりたく、CMO(最高マーケティング責任者)を外部から招き入れたのです。反省しているのは、当時、変革するのに人材を一人しか雇わなかったことです。その人にとってもやりづらかったろうと思います。

ですから社長になるときには、一気に改革のためのチームをつくったのです。
人選ではまず、既存の会社にはない能力や知見を補っていただける方かどうかを考えました。もちろん、サンリオの企業理念「みんななかよく」に共感し、やる気をもって改革に参加してくださることはマストです。決め手は、イメージです。このオフィスでその方と一緒に働いている様子が思い浮かぶか、どうか……。これ、私にとって結構大きなポイントなんですよ。
「みんななかよく」と業績アップの関係
実際、それはありました。ただ私は、企業理念の「みんななかよく」を変える気は絶対にありません。むしろ具体的に実践していこうとしています。「みんななかよく」することは、いいことですが、その反面、言い訳にもなります。「利益は出ていないけれど、みんななかよくしているからいいよね」ではダメで、そこはしっかりやっていきたい。自分がブレてはいけないと考えています。
もちろん、機械のように人が働いて利益を出すとか、競争原理が働きすぎてギスギスしてしまうとか、そんな職場は面白くもなんともありません。まず社内で「みんななかよく」を実践しながら、世界中で1人でも多くの人を笑顔にする。それは企業の成長とつながることであって、「みんななかよく」の体現と業績アップは、両立できると思っています。

こういう考えを正しく伝えたくて、社長になってから、子会社を含む国内の全社員と面談しました。「何のための改革なのか」を直に説明したことで、多少なりとも安心していただけたのではないでしょうか。サンリオはキャラクターへの思い入れや世界観に対する想いが強い社員が多いので、「会社を良くするため」とわかっていただけたことで、みなさんがついてきてくれたと思っています。
「年功序列から実力主義へ」というところでは、実績があるプロパーの社員の登用も進めています。これまで活躍していた若手の中から、40代でデザイン部門の執行役員、30代で海外事業のSM(シニアマネージャー。従来の課長職)になった人もいます。
本人たちはもちろん、それを見たさらに下の世代の人たちが刺激を受け、育っていくことを期待しています。同時に、ベテランの方々にしかできないこともあるので、そのための役割もつくっていく。それぞれの経験・能力を活かして全員がハッピーになるための制度づくりを工夫しているところです。

海外でも人気沸騰
「クロミ」の成功体験
経営改革がスタートして2年経ち、3年目の今期第2四半期は過去最高益となりました。新型コロナウイルス感染症の5類移行による人流の戻りや、ビジネスの再活性化の流れに乗れているのは、現体制になったから。新しい体制、新しい制度のもとで、しっかりと足場が固まってきたと感じています。
現場が目標と戦略をもって挑戦する事例も増えてきました。最近だと、「クロミ」というキャラクター。以前からファンが一定数いらして、ポテンシャルが高いことはわかっていました。

2023年サンリオキャラクター大賞で350万票以上集め、第3位になった「クロミ」
そこで商品の幅を一気に増やし、単独のショップをつくる、SNSをはじめプロモーションに力を入れるなど、投資を集中させた結果、人気に火がつきました。海外でも同様の取り組みをし、中国、韓国、北米での売れ行きが非常にいい。戦略を立てて実行し、成果が出たという、成功体験の1つになっています。
これから社会がどう変わるかはわかりませんが、間違いなく、次の世代として引っ張っていくのは私たちです。難しいこともたくさんありますが、目の前の仕事で1つでもいいから楽しめること、笑顔になれることを見つけてみてはどうでしょうか。

私自身がエンターテイメントに触れるのが大好きなので、世界的なエンターテイメント企業を目指してサンリオの次の事業にチャレンジできるのはとても嬉しいし、面白い。業績を伸ばすにしても、利益だけが目的でなく、当社の企業理念「みんななかよく」の世界に向かっていけるのは幸せなことだと思います。
社員にもふだんから、「自分がいちばん楽しくやり続けられることを見つけましょう」と言っています。もし今いる場所にそれがなければ、他の場所に移ったっていい。まずは自分の心が動くこと。そして続けることで熱量をどんどん高めていけば、いずれその分野の第一人者になれるかもしれません。悲壮感を漂わせるよりも、やっぱり笑顔でいることですよね。
サンリオ