「ファッションセンターしまむら」などを全国展開するアパレル大手、しまむらが好調だ。2023年2月期は、2期連続で過去最高益を更新。しかしそれ以前の同社は、日本の消費傾向の変化に対応できず、業績の停滞に苦しんでいた。停滞期にトップを引き継ぎ、再成長への道筋をつけた鈴木誠社長に、しまむら変革のポイントを聞いた。
しまむらは「わかりやすい会社」
当社は2017年2月期に売上高と営業利益が過去最高となりましたが、その後、業績が停滞。2018年2月期から2020年2月期まで3期連続で減収減益という、不本意な業績が続きました。ですから私に社長が交代したときは、業績を立て直すことが急務だったわけですね。

埼玉県さいたま市にある本社で、インタビューに応える鈴木社長
じゃあ、そのために何をするのか。中期経営計画では、しまむらにとって「変えてはいけないところ」と「変えるべきところ」を強く意識しました。しまむらは、日常着を仕入れて売る商売を続けて、今年で70年。ここまで長続きしているのはなぜかというと、ブレずに「商売の原理原則」を貫いてきたからだと思います。
例えば、アパレルの商慣習というのは非常に古い。以前は、シーズン前に商品をメーカーから仕入れて売り、シーズンが終わったら余った分を返品するというやり方が業界の常識でした。
しかし本来、メーカーには「作る責任」、われわれには「売る責任」があって、ここを明確にしてそれぞれの職務を全うすることで、良い仕事ができる。信頼関係が生まれ、誠実なお取引にもつながるはずです。

そこでしまむらでは、商品は完全買取のみ。売れなかった商品の返品は一切していません。だからこそ、サプライヤーであるメーカーには売れるものを作っていただかなくてはいけない。われわれは一生懸命、お客様に足を運んでいただける店舗をつくる。そのなかで、売れる商品がつくれないメーカーとのお取引は、残念ながら少なくなっていきます。
経営理念にも、「高い生産性と適正な企業業績」「信用、信頼性をもつ誠実な企業運営」など、商売の原理原則ともいえる言葉が並んでいます。この理念をかけ声に終わらせず、みんなが仕事のなかで実行しているのが、当社の特徴なんですね。
奇をてらうようなことではなく、当たり前のこと、ステークホルダーの皆さんにとっていいことを一貫してやってきた。そういう意味では、シンプルで「わかりやすい会社」なんだと思います。
低迷時に気づいた「ニーズとのズレ」
しまむらのDNAを再認識し、「変えてはいけないところ」がズレていれば元に戻す。その取り組みの1つが、アイテム数の変更でした。
当社はもともと埼玉県小川町から始まり、地方の小商圏で近隣の主婦層をターゲットとし、チェーン化を進めました。その際、「隣の奥さんと同じ服を着ているのは恥ずかしい」とならないよう、多様な商品を少しずつ置きました。「売り切れ御免」でどんどん仕入れ、毎日、違う商品があるようなバラエティー感ある店舗をつくってきたのです。現在、登録されているサプライヤーは約600社あり、そのうち約400社と常時お取引があるなど、仕入れ先も非常に多い。

ファッションセンターしまむらの売り場。多品種小ロットの仕入れが特徴
2000年代以降はお客様の層が若い世代に広がり、しまむらグループの服で全身をコーディネートする「しまラー」が注目を集めました。その方々が日々、新しい発見を求めて店舗を見て回る(パトロールする)「しまパト」が定着したのも、店舗のバラエティー感ゆえだと思います。
しかし業績低迷期に、利益率を上げるためにアイテム数を絞りました。1年に2割ずつ、2年連続で商品の点数を削減し、結果として店舗の面白さが失われてしまいました。うちは大手SPA企業のように、自社で製造したベーシックな洋服を大量に売る商売とは違います。あくまで小売が主体であり、お店の楽しさが命。そう考え、アイテム数を元に戻しました。
そうは言っても、世の中は変わっていきます。基本に沿ってきっちりやっていると思っていたことが、時代と共に、お客様のニーズに合わなくなっていたというケースも散見されました。ですから、新しく「変えること」もまた必要だったんですね。

とりわけ過去最高益となった2017年ごろは、「こうすれば売上が伸びる」という成功パターンが根強くありました。例えば、集客のための特価。期間限定の値引きをしたり、創業65周年に合わせて650円の商品をたくさん店頭に並べたり……。それまでのセオリーに沿っていろんな特価を打ち出しましたが、効果が出ない。
なぜなら、世の中のニーズが「価格訴求」だけではなくなっていたからです。昔でいう「モノ消費」から「コト消費」、さらに最近は「トキ消費」「エモ消費」へと変化するニーズに、われわれはついていけていませんでした。3年間の業績低迷でそのことに気がつけたので、私の代では、とりわけ商品政策を軌道修正していきました。
社員食堂がにぎやかになった
この3年半の立て直しで、最も力を入れたのが商品政策です。しまむらグループは「高感度・高品質・低価格」を掲げ、同じ商品なら他社より安く、同じ価格なら他社より良いものを売ることにこだわっています。
ところが残念ながら、徐々にお客様のニーズより、われわれ「作り手側の理屈」が強くなっていた。先ほど申し上げた値下げに頼る売り方もそうですし、商品企画も行き当たりばったりになることが多く、どこに何があるかがわかりにくい店舗になっていました。

もう一度、ターゲットにしている「20代〜60代の女性とその家族」のニーズに沿った商品をきちんと売る必要がある。そこで、年齢と服のテイストを縦軸・横軸にとって、マップを作りました。そうすると、まだ空白がある。マップを見ながらブランドを整理し、「自社開発ブランド(Private Brand、以下PB)」「JB(サプライヤーとの共同開発商品)」「コラボ企画商品」の3つをてこ入れしました。
「PB」ではもともと「CLOSSHI(クロッシー)」を中心に、全年齢に向けてベーシックな商品を提供しています。そのコンセプトは変えず、着心地や素材の良さと低価格をあらためて追求し、「CLOSSHI PREMIUM(クロッシープレミアム)」という高級ラインも始めました。効果はわかりやすく、直近の2023年度上期(3~8月度)にはCLOSSHI PREMIUMの売上高が前期比37%伸びています。

品質をさらに追求し、売上が伸びているCLOSSHI PREMIUM
「JB」では、商談スタイルを変えました。従来は、サプライヤーからの提案に沿ってバイヤーが個別に商品を仕入れていましたが、サプライヤーの皆さんとチームで開発にあたるようにしました。具体的な流れはこうです。
シーズンが始まる半年ほど前に、サプライヤー十数社の皆さんに集まっていただき、当社からは商品部、販売企画部、広告宣伝部が参加し、新しいコンセプトを発表する。サプライヤーの方々に「このテーマに合う商品を提案してください」とお願いし、数ヵ月後に合同商談会を開く。その場でサプライヤーが持参したサンプルを見ながら、当社のバイヤーが商品をセレクトしていく――。
しまむらグループの店舗にはブランドネームのPOPが立てられた売り場があり、それがJBです。商談スタイルを変えてからはコンセプトが統一され、洋服のコーディネートがばっちり決まるようになりました。売り場だけを見ると、十数社が参加しているブランドに見えないと思います。サプライヤーとの協力が密になり、全体の企画提案力が大幅に上がったことが、売上増に反映されています。

人気の女性誌2誌がプロデュースする「SEASON REASON」は、好調なJBの1つ
「コラボ商品」は、キャラクターやファンション系インフルエンサーの方々と企画するもの。天候や季節に関係なく、安定して売れる良さがあります。JBと同じく、こちらも企画段階から関係者みんなが集まるチームプレーで進めるようになり、非常に好調です。
こうした企画には若い社員が多く関わっていて、私が全然知らないようなYouTuberを発掘してきてコラボするなど、大いに活躍しています。私にはそういうトレンドはわかりませんから、口を出さずにお任せするだけ。
そのほかの商品会議にも、基本的には出ていません。顧客ターゲットではない私の意見はいらないですよね。商品会議はあくまで、お客様のため。「社長のための会議」になっては困ります。

まあ、余計なことを言わない方が、みんな自分で考えてやりますから。しまむらの体質はこれまでトップダウンでしたが、事業が増えて世の中のニーズが複雑になった今、ボトムアップの組織に変えました。数字が悪ければ私が責任を取るので、「どうぞ好きにやって」と社員には伝えています。おかげさまで結果が出ていますから、方向性は間違っていないんでしょう。
業績が回復し、社内の雰囲気が変わったか、ですか? 一番わかりやすいのが、社員食堂。食べに行くと、みんなが元気で騒がしいこと、この上ない(笑)。その声を聞くと、うれしいですよ。やっぱり数字が残るというのはいいですね。やりがいにつながりますから。
しまむら