僕は「儲かった」より「助かった」の声が聞きたいんです【前編】

上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ ジモティー 加藤貴博社長/ 加藤 貴博

「子どもが成長して着られなくなった服を、必要な人に譲りたい」「草野球チームのメンバーを集めたい」「実家から大量に送られてきた果物を、食べてくれる人にお裾分けしたい」――地域の中で生まれる小さな困りごとを解決する無料の広告掲示板サービスを展開するジモティー。2011年にサービスをリリースし、現在は月間100万件の投稿を集めるコミュニティへと成長し、自治体との連携も広がっている。リクルート出身の加藤貴博社長が創業からこだわり続ける価値観とは?

ビル倒し営業で気づいた「本当にやりたいこと」

ジモティーという名前の由来は「地元」です。地域密着型の「売りたい」「あげたい」「集めたい」といった情報を無料で掲載してマッチングできるサイトを運営しています。

地域ごとに情報が蓄積しスムーズにマッチングが進むようになるまでには時間がかかります。効率よく早く稼げるビジネスではありません。でも、どうしてもこの事業をやりたいという気持ちが僕にはありました。起点は、10年勤めたリクルートの新入社員時代に遡ります。

2001年4月のある日、習い事の情報誌『ケイコとマナブ』の営業部門に配属された僕は、浅草の雑居ビルの前にいました。

当時の(今もそうかもしれませんが)リクルートの営業では、「ビル倒し」と言って、企業が入居している雑居ビルの1階から最上階まで全てのテナントに訪問して売り込みをかけるのが“営業の基本”として教えられていたからです。

その日もひたすらビル倒し営業をし、何気なく入ったのが小さな裁縫教室。おばあちゃんが3人、仲良く楽しそうに縫い物をしていました。汗だくの僕を見て「あら、お疲れさま。お茶でもどうぞ」と勧めてくれました。

僕が冷たい麦茶をいただいている間、お裁縫の魅力について楽しそうに語るおばあちゃんたちの様子を見て、「ああ、いい教室だな。通っている人も楽しそうだな。こういう教室こそ、地域の人に知ってほしいな」と感じました。と同時に、自分が売っている媒体に広告を載せる提案はとてもできないなという絶望に近いジレンマを抱いたんです。

僕が売っていた広告枠の単価は、小規模な教室にとっては高額でした。仮に単価を下げて小さな枠が売れたとしても、会社として売上が立ちづらいので奨励はされない。ほかにも、街中で愛されるラーメン屋さんが店のドアに貼る求人情報など、地域で暮らす人々にとってはめちゃめちゃ価値が高いのに、リクルートの情報誌には載せられない無念さを感じることが度々ありました。

カスタマーが支持するコンテンツを優先するメディアと、売上につながるコンテンツを優先するメディアのどちらを自分は本当に作りたいと思っているのか? 自問を重ねる日々が続き、10年勤めた結論として、前者へのチャレンジを決意したというわけです。

辞めることだけ決めてチャンスを探していたときに、たまたまジモティーの立ち上げに誘っていただき、今に至ります。

互助のシステムを作る

「リクルートではできなかった事業をつくるぞ!」と意気込んで始めたものの、投稿型のサイトをゼロから立ち上げるのは簡単ではありませんでした。

手始めにやったのは、知り合いに声をかけて家の中に眠っている不用品をサイトに載せてもらうこと。自分の服や家具、CDも載せられる限り載せました。

当初から「大学生や主婦に使ってもらえるサービスにしたい」と思っていたので、大学の学食や公園に行ってビラを配ったのですが、「ジモティー? 何それ?」とだいぶ不審がられましたね(笑)。それでもお客さんになってもらいたい人に直接会いに行くことの重要性は、リクルートの営業で叩き込まれていたので、ずっと続けてきました。

ジモティーのサービスサイトのトップ画面。最寄りの地域のさまざまな情報を検索できる

ビジネスモデルとしては、全然「スマート」ではないという自覚もあります。

いわゆる流行りのフリマアプリのような「流通総額を上げて手数料収入を増やす」という構想を僕はまったく持っておらず、ただただ「これまで埋もれてきた“行き場がない情報”をどうやって可視化するか」を目的にしてきました。

でも、“行き場がない情報”って、単独ではお金にならない情報が多いわけですよ(笑)。開始当初は、キャッシュフローが危うくなったことも一度や二度ではありません。

わざわざ苦労して儲かりづらい情報を、なんで取り扱っているの? と不思議に思われても仕方がありません。でも、僕の中に答えは明確にあります。

目の前にいるカスタマーの人が本当に「助かった」と思える体験やそこから生まれる地域のつながりを増やしていきたい。そして、その先に「互助のシステム」をつくっていきたいんです。行き場のない情報でも集約されれば価値が発揮されます。

ジモティーという名の「助け合い」

例えば、「100cmサイズの子ども服をもらって、(別の人に)80cmサイズの子ども服をあげました」といった使われ方。「3人目の子どもが産まれて、ベビーカーを何度も買うのはもったいないなと思っていたら、ジモティーで無料でもらえました」という人もいました。いずれも、カスタマーインタビューで聞いて理想的だと感じた活用例です。

一般的なフリマアプリやオークションサイトでは、高額な配送料がネックになって掲載されにくい大型の家具や家電も、ジモティーでは「近所の人に取りに来てもらう」という前提で取引が成立しやすくなる点も喜ばれています。

やればやるほど、地域の中で誰かが誰かを助けている姿が見えてくる。「ジモティーで助けてもらったから、私も誰かを助けたいんです」と言ってくださる方が本当に多くて、そんな声を聞くたびに感動するんです。

ジモティーがあることで、地域の人に対する優しさや「お互いさま」の気持ちを表現しやすくなっていたとしたら、すごくうれしいですね。「儲かった!」より「助かった!」を聞けたときのほうが、僕はダンゼン燃えます。

インフラと呼ばれるには、まだ全然ダメ

最近は、自治体と連携してリユースを促進する取り組みにも力を入れています。

地域の住民が不要になった再利用可能なモノを気軽に持ち込める場所を設置して、ジモティーに出品して告知もできる「ジモティースポット」の取り組みも5ヵ所に増えました。世田谷区では好評の声を受けて駅前のより広い場所に移転するなど、可能性を感じています。

世田谷区内の「ジモティースポット」。不要品を持ち込める場所を提供することで、地域内のリユースを活性化

一方で、本当に地域に役立つ存在になるには、もっともっと成長しないといけないという焦りはめちゃくちゃあります。

「ジモティーがあれば生活に困らない」と言われるくらいの状態まで到達するには、やるべきことは満載です。社内の合言葉になっているのが、「『電気、水道、ガス、ジモティー』と並んで挙げられるセーフティネットのような存在になろう」。「インフラ」と呼べる存在になるには、人口の7割、8割が使うサービスまで伸ばさないといけませんし、そのためには、たくさんの人が使いたくなるような機能を開発することが必須です。

正直、全然足りていないです。ものすごく頑張らないといけないです。「俺はまったく何やってるんだよ」と身悶えするような気持ちですが、やるべきことは一つ。ただ、カスタマーの声を聞いて、真剣に観察すること。これだけはこれからもきちんと続けていきたいと思っています。

ジモティー
次回は9/19(火)配信予定です。