投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。今回は、投資で重要な「先の先」を読む思考法について、ファンドマネージャーとして30年を超える投資歴を重ねてきた著者の藤野英人さんと見ていきましょう。[PR]
簡単ではないが、「未来を予測すること」はできる
私は子どもの頃、「10年後の新聞がほしい」と思っていました。
10年後の新聞が1日分でもあれば、未来にどんな日常が待っているのかがわかります。10年後に起きていることのごく一部でも正確に知ることができれば、超お金持ちになれるでしょう。かなりの成功が約束され、しなくてもよい失敗を避けることもできるはずです。
子ども時代に自分が夢想していたことを思い出すと、今を生きる人たちが、未来の世界について少しでも知りたいと思うことは、ごく自然なことだと感じます。
いったいどうすれば、未来を予測できるのでしょうか?
もちろん、私たちは10年後の新聞を手に入れることはできず、未来を見通せる魔法の水晶玉を持っているわけでもありません。しかし私は、簡単ではないとはいえ、未来を予測することはできると考えています。
先読みとは「小さな変化」を捉えること
ここでいう「先の先」とは、「10年後、20年後の未来」です。
「投資家の先読み法」と聞くと、目先の株価の予測の仕方や、特殊な情報収集法などをイメージする人が多いかもしれません。しかし、そもそも株価というのは、短期的には企業の人気や市場全体の動向などに左右されやすいものです。実績とかけ離れて株価が動くこともめずらしくなく、目先の株価を読み切って勝とうとするのはかなり難しいのが現実です。
大切なのは、そういった「見えない未来」を見ようとするのではなく、「目の前で少しずつ起きている小さな変化」を捉えること。そして、「この小さな変化の結果、10年後、20年後の未来はどうなるのか?」を考えることです。
10年後、20年後の未来を予測することができれば、投資で大きく成功する可能性が格段に高まるでしょう。企業の株価というのは、長期的にはその企業の利益に連動します。つまり、未来がどのような社会であり、そこに向かって成長するのがどのような企業なのかを読むことができれば、長期投資で資産を大きく増やせるわけです。
また、「先の先を読む」ことには、投資で勝つことだけでなく、重要な意味があると思っています。それは、「先の先を読む」ことができる人であれば、自分の居場所を間違えずにすむ、ということです。
日本は「課題先進国」と呼ばれています。少子高齢化はすでに確定した未来であり、地方が空き家だらけになることも、認知症の高齢者が増えることも間違いありません。そのような情報があふれかえる中で暮らしているのですから、読者の皆さんの中には、「日本の未来は真っ暗だ」と考えている人も多いのではないかと思います。
ただ私は、課題だらけの日本だからこそ、それらの課題を解決する商品・サービスを提供して大きく成長する企業が次々に現れると確信しています。その意味で、「日本の未来は明るい」というのが私の見立てです。
今、起きている変化を「生活者」として捉える
投資で勝つためには、いかに他の人よりも素早く情報を得るかが重要だと考える人は少なくありません。しかし投資の世界では、必ずしも情報のスピードが重要なわけではありません。これが、投資が面白く、素晴らしいところです。
例えば、スティーブ・ジョブズが「今日、Appleが電話を新たに発明します」と言って、初代iPhoneを発表したのは2007年1月のことでした。
このときに「iPhoneはきっと世界を変える」と信じてApple株を買っていたとすると、2023年6月時点でおよそ63倍になった計算です。為替レートを考慮せずにざっくり言えば、「100万円投資していたら6300万円になった」わけです。
ちなみに、2011年8月にジョブズがCEO辞任を発表したとき、Appleの株価は急落しました。しかしそのときに「後任のティム・クックの頑張りに賭けよう」と思って同社の株を買っていた場合、2023年6月時点でおよそ14倍になった計算です。つまり「100万円投資していたら1400万円になった」のです。
初代iPhoneの発表やティム・クックのCEO就任は、誰もが知ることのできた事実です。そこからもたらされた世の中の変化は、決して「早耳情報」ではありません。もしも皆さんが、「iPhoneという商品を多くの人が肌身はなさず身につけて使うようになる」ことや、「iPhoneが多くの人に支持され続ける」ということを、一人の生活者として確信し、Appleに投資していれば、何十倍にも資産を増やせたわけです。(※)
「プロの投資家は、きっと特別な情報を得て株式投資をしているのだろう」と邪推する人もいますが、情報開示の透明性が強く求められる昨今、「一部の人だけが知るおいしい情報」「投資の成功に直結するような早耳情報」などというものは存在しないのです。
それでは「先の先を読む思考力」を身につけるにはどうすればいいのか。それは、Appleの例からもわかるように、「今、起きている変化」を知ることです。そして、そこから「5年後、10年後の世界がどうなっているのか」を自分の頭で考える習慣を身につけることこそ、重要なのだと思います。
「おじさん」には見えていない変化
私は1966年生まれで、50代も半ばを過ぎた「おじさん」です。放っておけば頭の中はどんどん古臭くなっていってしまうでしょう。今は令和5年ですが、同世代の「おじさん」や私より上の「おじいさん」たちの中には、古い価値観を引きずったまま「昭和98年」の世界を生きている人も少なくありません。
その世界に引き戻されることなく、令和時代にとどまるために、私が意識的に数を増やしているのが、20代前半の若い経営者たちとの面談です。感性や価値観が古いままでは、今起きている変化に気づけず、先を見通すこともできないでしょう。この点、若い人たちには、おじさんやおじいさんには見えていない変化が見えているはずだからです。
例えば、私が個人で投資もしているタイミーという会社があります。「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングするアプリ「Timee」を展開する会社で、「テレビCMなどで見たことがある」という人も多いでしょう。
Timeeが紹介するのは、応募も面接も履歴書も必要なく働ける「スキマバイト」です。「今すぐ人手が必要」というときに、「今すぐ働きたい人が働ける」「今すぐ働いてほしいときに働いてもらえる」仕組みをつくったのです。ワーカー(働き手)としてTimeeを利用する人は、200万人を超えるまでに成長しています。
このタイミーを創業した小川嶺(おがわ・りょう)さんは、現役の大学生。起業したのは2017年、彼が20歳のときです。同社は2021年には伊藤忠、KDDI、香港を拠点とするヘッジファンドなどから53億円もの資金を調達するなど、多くの投資家がそのポテンシャルの高さを評価しています。
最初に小川さんに会って話を聞いたとき、正直に言えば、私は彼に嫉妬しました。どうして自分がこのビジネスを思いつかなかったのだろうと悔しく思っただけでなく、ビジネスを数字で分析できること、ビジネスモデルやマーケティングに関してもいっぱしの社会人よりずっとよく勉強していること、謙遜と自信のバランスが絶妙なこと、希望に満ち溢れていて人から愛される力があることなど、「すごい」としか言いようがなかったからです。
小川さんは、私にとっては令和時代を象徴する人で、将棋の世界で言えば藤井聡太さん、野球の世界で言えば大谷翔平さんのような「新時代人」の経営者版だと思っています。小川さんをはじめ、できるだけ多く「令和型」の若い経営者と会い続けることは、私が「今、起きている変化」を知るための土台になっているのです。