値上げ浸透と低PBR修正思惑 「パルプ・紙」関連株が上昇

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株式市場で「パルプ・紙」関連株が買われています。QUICKが選定する関連株の平均上昇率は4.2%と、円安や金融緩和政策の継続観測などから上昇した東証株価指数(TOPIX、1.0%高)を上回りました(5月12日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!

トーモク、今期の大幅増益予想を発表

パルプ・紙関連株が買われたきっかけは、企業が発表した強気の業績見通しでした。5月9日に段ボールが主力のトーモクは、2024年3月期の営業利益が115億円と前期から54%増える見通しだという強気の業績予想を発表しました。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための行動制限が緩和され、段ボール需要は食料品や通販分野などで好調でしたが、段ボールの主材料である原紙が二度にわたって大幅に値上げされたことなどから、23年3月期の営業利益は前の期から11%減りました。コスト高を受け製品値上げを続けており、24年3月期にその効果が出るといいます。同業他社も今期の収益が回復するとの観測が広がり、関連株が物色されました。

今期の営業利益は6.2倍の見通し【三菱製紙】

上昇率首位の「 三菱製紙 」は印刷・出版・写真など情報メディア向けの写真印画紙などが主力でしたが、市場の縮小が続くとみて不織布やフィルターなど機能商品事業への転換を進めています。それでも紙素材事業は売上高の約7割を占める主力事業です。原材料価格の上昇を受けた値上げ効果の維持に加え、脱プラスチック需要が追い風となるクラフト紙の拡販などを進める方針です。5月11日に発表した業績見通しによると、2024年3月期の営業利益は60億円と前期の6.2倍に膨らむ見通しです。

米子会社の生産能力が飛躍的に改善【トーモク】

上昇率2位の「 トーモク 」は主力の段ボール事業が売上高の過半を占めますが、住宅事業や運輸倉庫事業も手掛けています。段ボール事業では米国子会社のサウスランドボックス社の敷地・建屋の拡張工事が完了し、最新鋭の設備を導入し生産能力が飛躍的に改善しました。24年3月期の会社全体の売上高は2350億円と10%増える見通しです。

紙需要に回復の鈍さも、低PBRで株価対策に期待

そのほか、「 中越パルプ工業 」は、適正価格の維持や製造効率の向上などで2024年3月期の営業利益が23%増える見通し。「 レンゴー 」は、段ボール国内シェアトップです。2022年から取り組んできた値上げや子会社の増加で2024年3月期の営業利益が8割超の大幅増の見通しです。「 日本製紙 」は、値上げの寄与などから2024年3月期の営業損益が240億円の黒字に転換する見通し。5月15日には中期経営計画として掲げていた2026年3月期の売上高を当初目標から1000億円増額し1兆2000億円に引き上げました。

紙や板紙の国内需要は2008年まで3000万トン台で推移していましたが、リーマン・ショック後の2009年に大きく減少してからは回復の鈍さが目立っています。パルプ・紙関連各社は機能性材料など需要拡大が見込まれる素材へと舵を切っていますが、製紙事業を取り巻く事業環境の厳しさは続きそうです。業種別日経平均のパルプ・紙の株価純資産倍率(PBR)は0.5倍を下回っています(5月12日現在)。東京証券取引所は3月31日、PBRが1倍を下回る上場企業などに株価水準を引き上げるための具体策を開示・実行するよう要請しました。株価対策として自社株買いや増配などに踏み切るのではといった思惑を誘いやすいことも物色の背景にあるようです。