株式市場で「ヒートポンプ」関連銘柄が買われています。QUICKが選定する関連銘柄の平均上昇率は3.8%と、米金融システムへの警戒感の後退などから大幅高となった東証株価指数(TOPIX、2.5%高)を上回りました(3月31日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!
ヒートポンプ、欧州委が脱炭素の重要製品のひとつに
ヒートポンプ関連株が買われたきっかけは、欧州連合(EU)の欧州委員会が3月16日に公表した「ネットゼロ産業法案」でした。EUでは、2050年までに域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を設定しています。同法案はこの目標を達成するため、脱炭素に関わる重要製品を域内で生産するのが柱です。法案では2023~30年の累積投資額が約920億ユーロ(約13兆円)にのぼるとの試算を公表し、重要製品として太陽光パネルや風力発電設備、電池などのクリーン製品と並びヒートポンプを挙げました。
ヒートポンプは大気中の熱の膨張や圧縮を利用して暖房などに活用するシステムです。気体を圧縮すると温度が上がり、膨張させると温度が下がる性質を利用しています。圧縮と膨張に使う電力に対し数倍もの熱エネルギーを得られるため、脱炭素社会実現のカギを握る製品のひとつとみられています。ヒートポンプ関連株は欧州に生産拠点を持つ企業が多く、将来の需要拡大に期待した買いを誘っています。
欧州のグループ会社が大型ヒートポンプを受注【三菱重工業】
上昇率首位の「 三菱重工業 」はグループ会社の三菱重工サーマルシステムズがヒートポンプ製品を手掛けています。また、欧州のグループ会社がヒートポンプ技術などで二酸化炭素(CO2)を排出せずに高温の熱(蒸気)を発生させる設備を、欧州の大手製紙会社から受注したと2月24日に発表しました。産業における脱炭素化技術ソリューションの世界的プレイヤーとして、製紙業界の脱炭素化対応に貢献するとしています。
欧州で「Yutaki」ブランドを展開【日立製作所】
上昇率2位の「 日立製作所 」は日本国内で「エコキュート」のブランドでヒートポンプ製品を展開しています。欧州では「Yutaki」ブランドとして家庭用のヒートポンプ製品を販売しています。英国のシリー諸島が2025年までに電力料金を40%節減するなどの目標を達成するためのパートナーシップに参加し、欧州地域開発基金(ERDF)から資金援助を得てAI(人工知能)などの技術で目標達成を目指しています。各家庭には空気源ヒートポンプなどの電力技術が試験導入されています。
欧州のヒートポンプ売上高、2022年は4割近く増加
そのほか、鉄鋼と非鉄、機械を収益の三本柱とする「 神戸製鋼所 」は三浦工業と共同出資するコベルコ・コンプレッサがヒートポンプ事業を展開。「 パナソニック 」は子会社のパナソニック株式会社 空質空調社が3月14日にスウェーデンの大手空質空調機器メーカー、システムエア社傘下の業務用空調事業の買収を完了したと発表。ポンプ大手の「 荏原製作所 」は子会社の荏原冷熱システムがヒートポンプ事業を展開。これらの銘柄も買われています。
国際エネルギー機関(IEA)は3月31日、2022年の世界のヒートポンプの販売額が前年比11%伸び、2年連続で二けた成長となったと発表しました。特にウクライナ危機で天然ガスの高騰に直面した欧州では40%近く伸び、過去最高を更新しました。世界が脱炭素に舵を切り、家庭や企業でも省エネルギー製品への需要が高まっています。ヒートポンプも欧州に限らず世界的に需要拡大が続きそうです。関連銘柄は多くの事業を抱える企業が中心のため、どれだけ収益に貢献するか見極めたいですね。