「アミノサイエンス」を無限に広げる会社、味の素【前編】

上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ 味の素 藤江太郎社長/ 藤江 太郎

うま味調味料「味の素」をはじめ、「Cook Do(クックドゥ)」「ギョーザ」などの食品メーカーとして知られる味の素。実はいま、アミノ酸の技術を電子材料や医療用分野に応用する「アミノサイエンス」で急成長している。「アミノサイエンスで人・社会・地球のWell―beingに貢献する」という志を掲げる藤江太郎社長に、同社の“ありたい姿と道筋”を伺った。

110年以上前の起業が
いまに続く「原体験」

――先日、「中期ASV(味の素グループ・シェアード・バリュー)経営2030ロードマップ」を発表されました。これまでの中期経営計画を廃止し、「ASV指標」でさらなる成長を目指すという、とてもチャレンジングな内容です。

計画はね、いくらでもキレイなものがつくれます。中期経営計画なんてその最たるものです。当社も時間をかけて精緻な3ヵ年計画をつくっていましたが、外部環境の変化が激しい現代において、3年先の計画はほとんど当てになりません。ですから、やめることにしました。

今回のロードマップでは、2030年に自分たちが“ありたい姿”をまず描き、その“道筋づくり”に取り組みました。タイトルにある「ASV(味の素グループ・シェアード・バリュー)」とは、事業を通じて「社会価値」と「経済価値」を共創しようという考え方で、気候変動や食糧不足といった地球レベルでの課題が山積するいま、非常に重要です。

東京本社でインタビューに応える藤江社長

実は、この考え方は当社が創業以来、110年以上にわたって実践してきたことでもあるんです。

今年の元旦は、私が2022年に社長になって初めての年初でした。そこで思い立って、創業家の2代・鈴木三郎助(さぶろうすけ)氏、池田菊苗(きくなえ)博士、それぞれのお墓に出かけて手を合わせてきました。「どうぞ、味の素グループの発展をお見守りください」とお願いもしてきましてね。

そのうちのお一人、池田博士は東京帝国大学(現在の東京大学)の教授で、彼が研究のためにドイツに留学したときの写真が残っています。見ると池田博士は立っていて、一緒に写っているドイツの方は座っている。でも、2人の頭の高さは大体同じなんですよ。

留学先のドイツにて。前列左から3番目が池田博士。出所:NPO法人うま味インフォメーションセンター

つまり、当時の日本人とドイツ人では、体格や栄養状態が格段に違った。池田博士は現地でそのことを痛感し、「日本人の栄養状態を改善したい」と願うようになります。そのために「安くておいしい調味料を開発し、粗食をおいしく食べられるようにしよう」と、和食の「うま味」成分を追求し、ついに昆布から「グルタミン酸(アミノ酸の一部)」を抽出しました。

この世界的発見を、同じ思いを共有する実業家の鈴木氏と組んで事業化し、販売したのが「味の素®」。産学連携で起業し、アミノ酸を用いたビジネスで当時の社会課題に挑んだ、まさに社会価値と経済価値の共創です。

私は今回のロードマップで、「アミノサイエンスで人・社会・地球のWell―beingに貢献する」という志を掲げました。ASVの遺伝子を残してくれた創業者をリスペクトしつつ、挑むべき課題を時代に合わせてバージョンアップしたんです。

――御社は食品企業のイメージが強いので、「アミノサイエンス」という言葉が出てきたのは意外です。

アミノサイエンスは、アミノ酸を使って得られる素材や機能、技術、サービス、マーケティングの総称です。当社のイメージはどうしても「味の素」など調味料をはじめとする食品、それも国内が中心と思われがちですよね。しかし現状は、アミノ酸を電子材料や医療分野に応用するアミノサイエンス事業が急速に伸びており、今年度は全体の利益の約4割がアミノサイエンス事業、約6割が食品事業になる見込みです。

この勢いでいくと、2030年には2つの事業が半々になる。海外売上比率はすでに約6割に達しており、食品事業とアミノサイエンス事業、国内と海外という異なる事業を内包するグループとして、味の素はもっともっと面白くなっていくはずです。

核酸医薬に、代替肉
アミノ酸って本当にすごい

アミノ酸って、知れば知るほど面白いんですよ。人間の体の成分は約2割がタンパク質で、そのタンパク質を構成するのがアミノ酸。生き物にとってなくてはならない栄養素で、「食べ物をおいしくする」「成長、発達を促す」「体調を整える」「新たな機能を生み出す」という4つのはたらきがあります。

当社には、アミノ酸を世の中のために使うにはどうすれば良いかを四六時中考えている“アミノ酸マニア”が、私も含めたくさんいます。あらゆるジャンルで研究を重ね、アミノ酸の分野ではおかげさまで世界シェアNo.1。新しい技術のリーディングカンパニーでもあります。

たとえば最近、「アミノインデックス®」という健診サービスを提供しました。血液中のアミノ酸の濃度バランスを測り、1回の採血で「ガン」「糖尿病・脳卒中・心筋梗塞の3大病成人病」「認知機能低下」などのリスクが評価できる。これってすごいことですよね。

医療分野ではほかにも、アミノ酸製造のノウハウ・技術を活かした「オリゴ核酸」の製造・供給に力を入れています。これは、従来は治療が難しかった遺伝性疾患や、難治性疾患を根治できる可能性がある「核酸医薬」の1つとして注目されています。

また、最近は世界的な食糧不足への懸念や、健康意識の高まりから、プラントベースミート(植物性の原料から作る代替肉)が注目されていますよね。ここにも、アミノ酸の「食べ物をおいしくする」はたらきを使って貢献しています。

ブラジルで発売されている、プラントベースミートのハンバーガーミックス

当社のアミノ酸活用は、まだまだあって紹介しきれません。本当にアミノ酸って、社会課題を解決する無限の可能性があるんですよ。

急成長する事業で得た
「1→10」の型を活かす

――急成長しているアミノサイエンス事業と、長く続けてきた食品事業。2つの事業の相乗効果をどうお考えですか。

ビジネスには、アイディアを形にする「0→1」、そこから事業モデルをつくり出す「1→10」、それを拡大する「10→100」という3段階があります。今も昔も、当社は「0→1」がすごく得意。研究所にたくさんのシーズがあり、それらを世の中のニーズやウォンツと組み合わせて商品化する点で強みを持っています。

特にここ10年ほどは、アミノサイエンス事業で「0→1」の面白いシーズがたくさん出ました。それを歴代の事業本部長がリーダーシップをもって商品化してくれて、この分野で「1→10」の型がかなり確立できたと思っています。

たとえば、「味の素」を製造する際の副産物を活かして誕生した電子材料事業における、半導体の絶縁材「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」。これは高性能パソコン向けのニーズを取り込むことができ、現在、世界で圧倒的なシェアです。次の成長ドライバーとして期待している医薬品の受託開発・製造サービスなども、ここで培った「1→10」の型を応用し、きっと成功できると確信しています。

一方で食品事業は、従来強かったマス・マーケティングが時代とともに通用しづらくなったこともあり、このところあまり伸びていません。ここにアミノサイエンス事業で培った「1→10」の型を活かせないだろうかと考え、新体制では、アミノサイエンス事業と食品事業の人事を入れ替えました。情報交換や協働をやりやすくしたので、今後はさらに相乗効果が出てくるでしょう。

2つの事業に共通して大事なのは、追い風が吹く領域を見極めること。私たちはいま、「ヘルスケア」「フード&ウェルネス」「ICT」「グリーン」の4つを成長領域に定めています。ここは、ASVが発揮できるところでもあります。この4つにヒト・モノ・カネを投入して成長させ、アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell―beingに貢献したい。

非常に大きな目標ですが、ここまでやるからこそ人々に共感していただけるし、私自身もやりがいをもてる。従業員も、自分たちの仕事が社会を良くすると信じられれば、生き生きと働けますよね。本気でASVをやり抜き、社会に「幸せの素」を循環させていく――。社長として、この仕事をトコトン追いかけたいですね。

味の素
次回は4/11(火)配信予定です。