仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者の皆さんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。
今回登場していただくのは、アサヒ、ロフト、松屋フーズ、エースコックなど、大手企業のSNSコンサルティングを行ってきたgrass株式会社の齊藤澪菜(さいとう・れな)さん。
彼女のディレクションするSNSは、超攻めてます。
grass株式会社はコーポレートサイトも存在せず、メンバーは代表と社員の齊藤さんの2名、あとはフリーランサーで構成されている小さな会社。一体どうやって数々の大手企業を相手に無茶な企画を通してきたのでしょうか?
齊藤さんに、その「口説き力」についてお話をうかがいました。
〈聞き手=ほしゆき〉
記事提供:新R25
「私も松屋行きません」人の気持ちを動かしたいときほど“媚びない”
「
松屋
」さんのインスタ、公式とは思えないほどぶっ飛んでいて目を疑いました。
松屋柄のハイヒール欲しい。
ありがとうございます!(笑)
四六時中SNSをチェックしていて「こういう見せ方なら話題になるんじゃないか」と見込んでいたので、多くの方に見ていただけてうれしいです。
ちなみに普段は、どれぐらいSNSをチェックしてるんでしょうか?
死ぬほど見てますね。
PCでYouTubeをチェック、iPadで気になってる方のインスタライブをチェック、スマホでTikTokやInstagramをチェック……みたいな(笑)。
お昼前にはスマホの充電が一回切れてます。
想像を超えていた……
かなりシュールな投稿ばかりですが、松屋さんは最初から「どんな企画でも大丈夫」と一任してくださってたんですか?
いやいや! 最初はかなり苦笑いされてましたよ(笑)。
ですよね!? そこから、どうやって“大企業”の担当者を口説いたんでしょうか?
私、人の心を動かすには「媚びないこと」がすごく大事だと思ってるんです。
「媚びない」?
たとえば松屋さんには、「女性のお客さんが増えない」という課題があったんです。
「齊藤さんもあまり行かないんじゃないですか?」と聞かれて。そういうときに、社交辞令で「え~、そんなことないですよ」とかフォローしない。
私は、「ですね! 全然行きません」って答えました。
媚びないというのは、「小手先の点数稼ぎをしない覚悟」「相手に向き合う覚悟」を持つってこと。
相手の期待通りにそつのない回答をしておけば、最低ラインの点数稼ぎはできます。
でも私たちみたいな小さい会社だからこそ言えることって、そこを突破したところにあるんですよね。
そうだとしても、「正直者」と思ってもらえるか、「失礼だな」と思われるかは賭けじゃないですか?
うーん、そうですね……。ただ、大切なのは「媚びない=空気を読めない」じゃないってこと。
空気を読んだうえで、壊しにいく。「本気だからこそ言っている」と相手に伝われば、失礼だとは思われないはずなんですよ。
相手と対等かつ正直にコミュニケーションをしたほうが、“良い仕事”につながる。
それに……、媚びてるギャルって胡散臭すぎるでしょ!? 一番ダメ!(笑)
なるほど(笑)。
ちなみに、正直に言いすぎて失敗したことはないんですか?
……あっ、1回だけ他社で出禁になったことあります(笑)。
提案に乗ってもらうには、「放っておいても努力してくれる人」と思われることが大事
他にも、徹底しているポイントってありますか?
自分の企画に“乗ってもらう”には、「相手をいかに安心させられるか」がとても大事だと思います。
大手に限らず、新しいことを始めるときに保守的になってしまうのは当たり前。ずっと担当してくれている販売企画グループの田中英介さんも、最初は相当不安がってて……
そりゃ、「この投稿が本当に課題解決につながるのか?」って思いますよね(笑)。
なので私は、投稿するたびにユーザーの反応を共有しまくりました。
ユーザーボイスをかき集めて、ネガティブな声も包み隠さず報告する。
松屋さんの場合はウィークリーで報告書をつくっていたし、担当者さんが自分でもエゴサーチできるようエゴサの方法もレクチャーしました。
どうしてネガティブな声まで報告するんですか……?
仕事において誰かを“安心させる”ためには、ポジティブなことを共有するのと同じくらい、ネガティブなことを自ら報告するのが大事だと思うんです。
むしろ何の指摘も受けていなくても、振るわなかった点を正直に話すようにしてます。
企画がスベったときこそ、その分析とあわせて、新しい企画も持っていく。
大事だとは思いつつも、結果が悪いとつい隠したくなっちゃうな……
信頼関係って、「放っておいても努力してくれる」と思われるのが大事なんですよ。
「そこまでしてくれるんだ」「この人、なんでこんなにやる気あるんだ?」って気持ちが安心につながる。
だから、「放っておいたら手を抜く人」と思われたら終わりなの。
そうやって少しずつ、“攻めてる松屋”のインスタが開花してきたんですね…
そうそう。私の企画を通して、一緒につり橋を渡ってくださった担当の田中さんには、本当に感謝しています。
「うちの会社でこれは……」と言ってた田中さんが、今じゃ「もっと尖れ齊藤!! どんどんやれ~!!」って言ってくださってますからね!(笑)
「自分だけのKPI」を持つことが、高いモチベーションにつながる
お話を聞いていて思ったんですけど、齊藤さんは仕事に対する熱量がかなり高いですよね。
どうしてそんなに頑張れるんですか?
会社とか関係なく、常に「自分だけのKPI」を持っているからかも。
松屋さんの仕事でいうと、「私の仕事で担当・田中さんのボーナスを上げたい」って本気で思ってる。
もちろん、会社的に追わなきゃいけない目標数字はあるし、「松屋の女性顧客率を上げること」がミッションであることに違いないんだけど。
1%上げるだけでも数万人単位の話だし……その数字だけで熱量をずっと保つのは正直むずかしい。
それよりも、目の前の田中さんへの気持ちのほうがずっと”リアルな原動力”になる。
なるほど。
その「自分だけのKPI」を追いかけることが、結果的に松屋の女性ファンを増やすことにもつながっていくと。
そう!
一番身近なKPIは田中さんのボーナスだけど、近い将来、松屋に入店してカウンター席に同世代の女性しかいなかったら、私は膝から崩れ落ちて泣くと思います。
今日は、正直で人間味あふれるお話をありがとうございました……!
ものすごいパワーをいただきました。
ほんとですか? よかった!(笑)
人の心を動かすのは結局、テクニックより人間味だと思うんです。
どんな仕事も、人間味ファーストで向き合っていきたいですね。
今回はインタビューカットが「ほぼ爆笑しているものしかない」という、異例の取材。
どんな問いにもエネルギッシュで核心をつくパワーワードばかりが飛び交うので、社会でバリバリ活躍するギャルの凄さを痛感しました。
その場にいる人のテンションを上げ、好奇心をくすぐる“人間味ファースト”な対話は、最もシンプルでありながら、大人になるほどむずかしくなること。
見栄を張らない、媚を売らない、隠し事をしない。そして誰よりも努力をする。
肝に銘じようと思います。そして今日のランチは、松屋の牛めしをテイクアウトしよっと。
〈取材・文=星佑貴(@yknk_st)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉