※この連載は、ひふみ投信のファンドマネージャー藤野英人さんによる投資入門です。投資ファンドの運用担当をしている「叔父」が、姪の「ユリコ」に、投資について、物語形式で教えていきます。
証券口座は「近い」ところで作ろう
ユリコ 叔父さん、今日もよろしくお願いします。
叔父 はい、よろしく。
ユリコ この間話を聞いて、「さあ株を買おう!」と思ったんですけど、重大な問題に気づきました。証券会社に口座を開設すると株が買えるというところはわかるんですが、証券会社っていっぱいありすぎてどれを選んだらいいかわからなくて。
叔父 ぼくはいつも、「近い」ところで作りましょうとすすめてるね。
ユリコ 家の近くにある店舗ってことですか?
叔父 「近さ」には物理的な距離と心理的な距離の両方があるんだ。だから、ユリコちゃんが70歳のおじいさんとかだったら駅前の証券会社が「近い」と感じるかもしれないけど、ユリコちゃんにとっては足を踏み入れにくいんじゃない?
ユリコ それはたしかに……。
叔父 投資は人と対話しながらやりたい! ということなら証券会社の窓口がベストだけど、ユリコちゃんは毎日ネットに慣れ親しんでるだろうし、インターネットで取引できる証券会社のほうが「近い」んじゃないかな。
スマホやパソコンを使って、自分のペースで取引できる「オンライン取引」。実は、SMBC日興証券などの全国に支店がある証券会社でもネットで取引できるコースがある。いざというときはコンタクトセンターや支店も利用できるので初心者には安心かも。
ユリコ わかりました! じゃあ手数料やサービスを比較してインターネットで取引できる証券会社で口座を開設してみるか……手数料が安いところがいいなあ……。(スマホをいじりながら)えーと、なんか、口座にもいろんな種類があるんですよね。特定口座? 一般口座? それに……NISA?
叔父 ああ。そこが、投資初心者のつまずきやすいところだよね。いろいろあるんだけど、基本的に、年間の取引金額が120万円以下だったら、NISAがおすすめかな。
ユリコ で、このNISAっていうのは……? 「少額投資非課税制度」の略らしいですけど。
叔父 それは、年間の取引金額120万円までの投資で得た利益にかかる税金がゼロになる仕組みなんだ。この前も話したけれど、今の日本政府は国民にタンス預金を放出してほしいので、投資を促す政策をいろいろやっていて、NISAもその一つ。通常は、株の利益に対してかかる税金は20%だから、NISAを利用しない手はないと思うよ。
ユリコ なるほど! じゃあ私の場合は、特定口座(源泉徴収あり)でNISAを利用したいという申し込みの仕方をすればいいわけですね。しっかし、株ってそんなに税金とられるんだ……。
叔父 一応注意しておくと、NISAの限度額っていうのは「1年の取引金額の合計」を意味している。なので、ユリコちゃんが50万円だけ口座に入れているからといって、NISAの限度額を超えてしまうことはある。どういうときだと思う?
ユリコ えーと、その50万円で1度株を買って、売って、もう1回買って……というを1年に3回繰り返すと、取引金額の合計は150万円になる?
叔父 そのとおり!
ユリコ つまりデイトレやスイングだと、NISAの利用はむずかしいんですね。
叔父 そう。NISAの得を活用できるという意味でも、初心者には長期投資がおすすめなんだ。
株は「習うより学べ」の精神でOK
ユリコ さて、証券口座の申し込みはするとして……。初心者が投資を始めるときは、「小さくゆっくり長く」がいいというのは聞いたけれど、他に株を買う前に知っておいたほうがいいことってありますか? 調べると「時価総額」とか「PER」とか、いろいろ細かい用語があるらしくて、不安になってきたんですが……。「これだけは勉強してから始めるように」ってことがあったら教えてください。
叔父 「時価総額」はその企業の規模を見る指標で、「PER」は、現時点での株価が割安なのか割高なのかを判断するためのものだけど、ぶっちゃけて言えば、「何も勉強しないで今すぐ買っていい」です。
ユリコ えー!? 本当ですか? 「今は割安」とか「このチャートは危険」とかあるんじゃないですか。株価チャートのかたちから株価を推測するテクニカル分析の勉強も必要なのかと思ってたんですけど。日経平均株価を見たりとか……。
叔父 そういう用語を知ってるということは、この前よりも勉強したんだね。もちろん、ユリコちゃんがテクニカル分析に興味があるなら勉強してもいいけど、そんなことをしているといつまでたっても投資できないよ。すべてを完璧に理解してから投資するっていうのは不可能だから。
ユリコ うーん。
叔父 株価も市場の地合いも永遠に変化しつづけているわけだから、「勉強してから……」「確信が持てるようになってから……」と思っていたら、長縄跳びをずっと見ていていつまでも入れない人になってしまうよ。そうだな、水泳にたとえてもいいかもしれない。ユリコちゃん、たしか子供のころにスイミング教室に通っていたよね。水泳をするときに、「3年間勉強してからプールに入りましょう」とはならなかったでしょ? まずはプールに入るところから。そういうことなんです。
ユリコ でも、失敗したくないので、勉強しておいたほうがリスクを減らせるんじゃないかと思って。
叔父 もちろん勉強は大切。ただ、株式投資における一番の勉強は「実際に投資する」ことなんだ。株式投資というのは「勝つか学ぶか」の世界なんだよ。
ユリコ 勝つか学ぶか?
叔父 つまり、どう株価が動いても、それはすべてユリコちゃんの学びにつながるんだよ。「あ、業績が良くなったから株価も上がるのか」とか「株価が下がったけど、もしかして……社長の不祥事がニュースになったせい?」とか。もちろん、株式を持っていない状態で、ある銘柄を追っておくというのも勉強にはなるだろうけど、その銘柄を持ってるか持ってないかで、自分の身にしみる度合いが全然違う。
ユリコ そう言われると、そんな気もしますね。自分の勤めている会社がつぶれるって話はすごい心配になるけど、そうでなければ「心配だなあ」くらいになっちゃうのはあると思うし。株を持つというだけでも、その会社のことを「自分ごと」に感じられるようになるということか。
叔父 そう。最初はちょっと溺れちゃうのも前提で、マーケットという「プール」に入ってみるのが一番大事なんだ。そもそも、だからこそ「手に汗をかかない金額」でやろうと言ってるわけだし。もし株価が下がるにしても、会社が倒産しない限り価値がゼロになるということはないからね。よく調べて1000万円分の株を買うよりは、調べずに1万円分買うほうが安全だと思うよ。
無名企業よりは有名企業に投資するべき?
ユリコ 「小さくゆっくり長く」を守りさえすれば、最初はすぐ買っていいし、自分の考えで何を買ってもいいってことなんですね。でも、なんでも買っていいなら、余計にどの株を買っていいのかわからないですよ。チャートを見て上がりそうだとか業績がいいとか、とにかく「いい会社」を探すための指標が知りたいです。たとえば「大企業」のほうがいいとか。
叔父 ちょっと気になったけど、ユリコちゃんの思う大企業って?
ユリコ たとえば……、みんなに名前が知られていて、時価総額が大きいところ?
叔父 でも、東芝【銘柄コード:6502】はよく名前が知られていて時価総額も大きい会社だけど、今上場廃止の瀬戸際で大変なことになってるよね?
ユリコ たしかに……。(スマホを見ながら)じゃあ 三菱東京UFJファイナンシャル・グループ は?
叔父 ユリコちゃんは、三菱UFJは何で稼いでるかわかる?
ユリコ 預金を預けてもらった手数料とか、その運用益?
叔父 そうだね。つまり三菱UFJにとって大事なのは、資金量だよね。そうしたら、仮に三菱UFJの株価が2倍になるためには、日本にまだまだ預金するお金があって、三菱UFJの店舗が倍になって、三菱UFJを使う量が倍になって……ということが起きる必要があるよね。
ユリコ ああ。
叔父 ユリコちゃんがそういう想像をできるなら、三菱UFJに投資するのはいいと思います。つまり株式市場では、今その会社が大きいかどうかよりも、「この会社がこの先大きくなるかならないか」のほうが大切なんだよ。なぜならば、今の価値は基本的に株価に反映されていて、さらに先の未来のことを考えているのがマーケットだから。マーケットは夢見がちなんだよ。そして、夢を見られる人が勝つ。
ユリコ すでに成長しきった桐の木を買ってもしかたがなくて、この木がもっと育つと思うなら投資の価値があるってことか。
叔父 そうそう。ちなみにさっき「三菱UFJが日本で2倍に伸びる想像ができる?」という質問をしたけど、実は三菱UFJ自身がそれを一番わかっていて、今アジア各国へ進出しているんだよね。だから、ユリコちゃんが三菱UFJのそういった施策に夢を見れるなら、大企業に投資するのも全然問題ない。
JR東日本
のお客さんがこれから増えると思うならJR東日本の株を買えばいいし、たばこを吸う人がこれから増えると思うなら
JT
の株を買えばいい。でも、成長という観点からみると、実は大きな会社のほうが不利なんだよね。安全に見えるけれど、本当に安全かどうかはわからないことは最近のいくつかの不祥事にも表れているよね。リスクはたくさんあるわりに、上に伸びる可能性がない。もちろん人によって考え方は違うけれど、僕は大きい会社には夢を見れないので、あまり投資していないんだ。
ユリコ ……ということは、小さい会社のほうが成長しているんですか?
叔父 そう。たとえば僕がよくわかりやすい比較として挙げるのが、千代田区・中央区に本社がある「帝都銘柄」と、それ以外の「非帝都銘柄」の株価の伸び率。
ユリコ 「帝都銘柄」っていうのは、都心に本社がある昔ながらの大企業ということですよね。地方の企業も多く入っている「非帝都銘柄」のほうが成長率が下がるのかと思ったら、帝都銘柄よりも株価の伸びがいいんですね。
叔父 さらにいうと、東証一部にはTOPIX Core 30と呼ばれる、国内における時価総額ベスト30企業の株価をもとにした指標があるんだけど、そのCore 30に選ばれている企業の株価の伸び率は、3年間でマイナス16%、10年間でマイナス32%なんだ。
ユリコ ええ! 私でも名前を知っている企業ばかりなのに。
叔父 でしょう? なので、会社の選び方はユリコちゃんの自由だけど、決して大企業に投資すれば安全というわけではないのはわかってほしいな。
ユリコ はい……。
藤野さんはセミナー・イベント「FROGGY LIVE」でも、「投資とは知的でオシャレな社会貢献」というテーマで講演してくださっている。実際に、藤野さんの講演を聞いてみたい人はこちら。講演の様子を公開中。