今回は特別編です。6月4日に「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」をミッションとする株式会社エクサウィザーズが個人投資家向け説明会を開催。同社石山 洸(こう)社長と、シリコンバレーからオンラインで公開対談に臨んだシバタさんによる、”決算読み解き”スペシャル対談をお送りします。
シバタさん(以下、敬称略):実は石山社長とは、石山社長がリクルートにいらっしゃった10年ほど前から、すごくお世話になっていました。今回懐かしいというか、気楽でもあり逆に緊張もします。
AI時代のコンサルティング企業
シバタ:エクサウィザーズさんは、とても伸びている会社です。3点に要約すると、1つ目は四半期の売上が15億円、前年同期比が四半期ベースで45.6%で伸びている。非常に成長性が高いAI企業だという点です。
2つ目のポイントは、AIプラットフォーム事業はすでに黒字化していて、完全にキャッシュカウになっているビジネスです。その余剰資金や、学習したAIモジュールなどをもう1つの事業であるAIプロダクトに投資している、という点です。
3つ目は、DX as Codeなど、顧客毎に得られた知識を汎用サービスに展開する取り組みをしっかりやっている点です。これからAIプロダクト事業がスケールしていくのではないか、というのが3つ目の大きな特徴と思います。
・スケール(する):規模を拡大する
石山社長から戦略コンサルティング出身の方がたくさんいるというお話がありました。マッキンゼーやボストンコンサルティングは経営戦略の会社として有名ですよね。
ただ、今の時代、経営コンサルティングをするだけではなく、エクサウィザーズさんのようにAIにしっかり取り組む。ソフトウェア、デザインも含めて全部提供していくのが次の世代の経営コンサルティング会社になるだろうと私は思っています。
コンサルティング事業だけでは非常に労働集約的でスケールしにくいのです。このAI時代、コンサルティングのプロジェクトで得られた知見をソフトウェアに知識を注入して学習していくのが、エクサウィザーズさんの強みとなる大きなポイントだと思います。
2022年3月期決算ハイライト
シバタ:先ほども触れましたが、四半期で約15億円の売上があり、約+46%で伸びています。通期で見るとすでに50億円近い売上があり約+85%で伸びているのがポイントです。
先ほど2点目に挙げた、2つの事業について見ていきます。1つ目がAIプラットフォーム事業。こちらに関しては四半期で13億円売上があって、3億円の黒字が出ています。
AIプロダクト事業は売上が2億円で、こちらも約+50%で伸びています。皆さんに「マザーズに上場して+50%で伸びている会社はかなりすごい」と覚えておいてほしいのですが、エクサウィザーズさんもいわゆる「すごいカテゴリー」に入る会社だと思います。
AIプラットフォーム事業で稼ぐ
シバタ:まず1つ目の事業であるAIプラットフォーム事業について、詳しく見ていきましょう。グラフの通り、規模感も伸び率も素晴らしいと思います。
いわゆるSaaSプロダクトの会社を見るときは、「大口顧客からの売上がどのぐらいあるか、どのぐらい速く伸びているか」というのが重要になります。直近で前年同期比でほぼ倍近い伸びになっていますので、大きなお財布を押さえているというのは強いという印象です。
既存顧客からの継続率についてですが、SaaSっぽい見方をすると既存顧客の定義を厳しく定義している(4四半期連続で売上を計上)にも関わらずこれだけ伸びているのが素晴らしいと思います。
上場わずかで出願特許152件
シバタ:やはり一番気になるのは特許がすごく多いという点になると思います。特許出願数152件ということで、上場したばかりの会社とは思えない規模の数です。
石山社長はリクルート在籍時もAI 研究所を設立したりで、R&Dが得意というのは私も存じています。これら152件の特許について、どのような特許を出願・取得しているのか、差し支えない範囲でお話いただけると嬉しいです。
石山社長(以下、石山):本当にさまざまです。中でも、われわれが得意としているのは業種セクターとAIの掛け合わせで特許を取っているケースです。
例えば製造業ですと、従来であれば工場の現場で人による検品が必要であったものでも、われわれのAIアルゴリズムを使うと、AIロボットベースで検査ができてしまう。工場のオートメーションを行う際には、そうした現場でのモノの掴み方などに関して特許を取っています。
日本の製造業の皆様は特許のクリアランスを行っています。ですから、自分たちがやってみようと確認したら、すでにエクサウィザーズが特許を取っていたということで、そこから当社とその企業との案件になっていくケースもあったりします。
シバタ:それは面白いですね!
石山:はい。特許自体がマーケティングにも繋がっているようなところもあります。
シバタ:すごいですね。実際に特許を書くのは弁理士さんだとしても、御社側でも特許に関わる人材にはそれなりのスキルというか、熟練度が欠かせないと思います。特許はコンサルティング系の人が書くのですか、それともエンジニア系の人が書くのですか。
石山:もちろんコンサルティングとエンジニアの協力がありながらですが、社内に弁理士が社員として複数名おりまして、特許出願業務をある程度内製化している状態になっています。
知財チームのトップは、前職はメガベンチャーで特許を沢山書いていた経歴の持ち主です。次は非構造化データ、AI分野でたくさん特許を出したいということでエクサウィザーズにジョインいただいた形です。
最近、さらに社外取締役に元特許庁の長官だった宗像(直子)さんもご参画いただいています。特許の体制に関しては、社員も執行メンバーも経営メンバーも含めてかなり強力なメンバーになっています。
シバタ:すごいですね! 今のお話は、御社HPのIR資料のどこかに入れたほうがいいかもしれないですね! 私も特許を書いたことがあるので分かるのですが、新規性がないと書けるものではありませんよね。
ですから、特許にするのはカバレッジ(範囲)を広くしようとすればするほど難しい場面があると思います。これだけの特許の数を今おっしゃった体制で取り組まれているというのは本当にすごいと思います。
AIにより新卒採用コスト大幅減
シバタ:決算説明資料の18ページに各産業毎に代表的な重要課題例を出していただいています。可能な範囲で1つか2つ特徴的なケースを選んで、面白いお話を深掘りして教えていただけると嬉しいです。
石山:かしこまりました。われわれはマルチモーダルを得意としていますが、ソフトバンク様のユースケースを例に少しご説明をさせていただきます。
コロナ禍で採用面接がリアルでできなくなり、動画を利用し面接を行うということで、「5分間のフリーフォーマットの動画を送ってください」という形で採用を始められました。
そうすると、今度は大量に動画が集まり過ぎてしまって、全部を人間がチェックすることができないという課題が生まれました。そこをAIでサポートすることができないかということがスタートです。
対象となるデータがフリーフォーマットで5分間の動画ですので、結構難しいかなと思いました。しかし、もともと人間が判定していたデータに対する精度でかなり高い精度が出まして、本番でご導入いただいています。
AI判定が「OK」と言ったものはフリーパスで一次面接合格と、「NG」と言ったものだけ人間がしっかり見るという形で、倫理的にも配慮された問題のない使い方をしていただいています。これによって人事の方の生産性が85%短縮することができたという形になっています。
マルチモーダルがいかに関わっているか説明しますと、5分間のフリーフォーマットの動画が来ます。すると、最初に動画の中から画像を抽出して、その画像に対して例えば表情などを解析します。さらに候補者の方が話している音声の解析をします。
そうすると、音声からテキストのデータに変換されます。さらにそのテキストデータに関しても、自然言語処理やテキスト解析をしていきます。加えて、例えばアンケートのようなデータがあった場合は、これは構造化データ(Excelに入るようなタイプのデータ)になっていますので、こちらも解析します。
これだけでも画像、音声、テキスト、それから構造化データ、4つ掛け合わせて合格の予測精度を高めるという形になっています。これが全部できる会社は少なくて、われわれはそれを組み合わせることができるマルチモーダルなサービスが強みになっています。
シバタ:これはすごく面白いですね。面接の代わりに動画を5分送るというのはなかなか面白い採用の仕方だなとも思いますが、それをAIで解析するというのも面白いですね。
会社毎におそらく好みのタイプの人というのが異なると思います。ソフトバンク様の過去の採用の様子を全部学習データとして使って、例えば、笑顔が多い人を採りたいとか、真面目な顔をしている人を採りたいとか。
また、テキストなら、例えば「えー」「あー」をたくさん言う人は落とすとか、いろいろあると思いますが、こうしたことを自動的に学習するということですよね。
石山:はい、現実はもっと複雑ですが、イメージとしては近いと思います。
シバタ:すごく面白いですね。皆さん、AIのマルチモーダルのイメージがつきましたか。この例で言えば画像や、音声、さらにテキスト、それら全部を組み合わせていろいろなAIアプリケーションをつくっているのがエクサウィザーズさんの特徴だと思います。
DX人材を発掘するツールを開発
シバタ:では、2つ目の事業のAIプロダクトについて質問したいと思います。決算説明資料30ページにあるように、現状は投資のフェーズだと思います。
まだ赤字が少し出ている状態ですが、AIプラットフォームで得られた知見をこちらに移していくというのは正しいと思い、興味深く拝見していました。
決算説明資料29ページからは、ソーシャルAIプロダクトと、DX AIプロダクトの2つが伸びているように見えます。eラーニングの話についてももう少し深堀りして教えていただくことは可能ですか?
石山:はい、かしこまりました。まず、このeラーニングのツール、exaBase DXアセスメント&ラーニングをつくったきっかけですが、私自身、政府が取り組んでいる「人工知能技術戦略会議」にて「AI人材育成タスクフォース」の副主査をしていました。
そのときに、どういうスキルを持ったAIやDXの人材が大企業に何人ずついるのかリサーチしたかったのですが、全然データがありませんでした。
企業の中のDXの戦略に対して、どういう人材が何人必要になるのかという組織戦略と整合性が取れていなければ、DXが失敗してしまいます。そこで、サポートするアセスメント(評価を行うこと)を自分たちでつくってしまおうと思ってつくったものがこちらのサービスです。
以前は、例えばDX部門の一部の人たちだけが適性検査をして、eラーニングを受けていました。最近流行っているのは、全社受検です。
この背景には、日本の労働人口減少があります。実際に採用計画をつくっても、採用の母集団自体のパイが小さくなっています。かつその中でDX人材は少ないので採用計画に間に合いません。
そうすると、必然的に社内の中からDX人材を育成していかなければ自社のDXができないということが明確になってきています。
全社の中からポテンシャルのある人材を探してDX人材に育てていこうという形になっています。全社受検いただけると、われわれとしてもDX AIプロダクト自体の顧客あたり単価が大きくなっていきます。
それから、もう1つ、全社受検をする中でDXを進めるときに大企業の中で抵抗勢力が生まれないように啓蒙していく、という観点でも意味があります。こうした中で規模感が大きくなっています。
サッポロ様の事例ですが、全社、全員に受検していただいて、全員育成しているとのこと。このような時代になって、exaBase DXアセスメント&ラーニングが非常に伸びる形になっています。
シバタ:ありがとうございます。面白いです。いろいろな会社さんに全社受検していただく、あるいは大規模に受検していただいたときに、同じような大きい会社さんでも、この会社さんは例えばAI、DX、ITのレベルが高いとお感じになったこと、あるいはこの会社さんは低いと受け止められたことはありますか?
石山:意外に、どの会社でも平均してみると、5人に1人はAIやDXのポテンシャル人材がいるということが分かってきました。
シバタ:それは面白いですね!
石山:はい。企画系の部署だけではなくて、例えば営業部署の中でも5人に1人ぐらいDX人材のポテンシャルがある人がいるということが分かってきました。日本の教育の平均的なレベルの高さによるものだと思います。
このように、社内の中で埋もれていた人を発見する発見装置にもなっています。全社受検によって金の卵が見つかったので、ローテーションでDX部門にいってみようとか、現場でDXを行う担当になっていこうといったことが進んでいます。
シバタ:すごいですね。今の話、すごく面白いなと思いました。日本ではエンジニア不足やIT人材の不足が言われていますよね。
でも、今おっしゃったように、基礎教育のレベルが非常に高いので、営業をしている人にDXのセンスがあったり、適性が高いことがあるというのは、日本の社会全体としてポジティブな話に聞こえました。
石山:おっしゃる通りです。
シバタ:すごく面白いですね。
DX人材育成、介護負担減に注力
シバタ:決算説明資料の28ページにAIプロダクトの話として、左側にDXのアセスメントやラーニング、右側にソーシャルAIとして介護の話が出てきています。
今後この2つ以外のカテゴリーを新しく出す予定はありますか。それとも、しばらくはこの2つに集中する感じですか。
石山:中期的にはまずこの2つの事業領域をしっかり仕上げたいと思っていて、ここにフォーカスしていきます。そのため、この2つの事業の売上高が成長するに従ってAIプロダクト事業の赤字幅もどんどん縮小していくと思います。
実はどちらも、パートナーシップを組んで販売しています。例えば、先ほどのアセスメント&ラーニングですと、AIプラットフォームの事業に例えばパーソル様がお客様です。
パーソル様は自社の顧客アセットを持っていますので、パーソル様がexaBase DXアセスメント&ラーニングを売ってくれているという形で、AIプラットフォームの顧客が販売代理店の様にサポートして頂けるというメカニズムが1つあります。
それから、ソーシャルAIプロダクトも福祉用具のシェアNo.1のヤマシタ様とJV(ジョイントベンチャー)をつくってます。他にも、すでに1万2000以上の施設に介護カルテを導入しているケアコネクトジャパン様とパートナーシップを結んでいます。
普通はSaaSのプロダクトを展開すると、販売管理費、なかでも特に広告宣伝費が出ていく形が一般的かと思いますが、われわれはパートナーに販売頂くのであまり広告宣伝費を使わないモデルになっています。
今、実際に投資している先はほとんどが開発費です。そのため、売上高成長に伴ってこちらの赤字幅も縮小していくことが見えております。まずはこの2つの事業領域にフォーカスして、しっかりAIプロダクト事業についても黒字化していきたいと思っています。
2023年業績予想と展望
シバタ:最後に1つだけお聞きしたいことがあります。決算説明資料42ページで来期の売上高の業績予想が35~45%まで伸びるということですごいと思います。すごいなしか言えませんが(笑)。
業績の数字の話もそうですが、決算説明資料37~38ページのお話、AIやDXのところの経営課題の解決をノーコードでできるようにする、あるいはローコードでできるようにするという話、これは非常に重要だと思います。
AIのプログラミングができる人は当然限られていますし、社内にそんな人材はいないという会社はたくさんあると思います。
世の中的にAIだけでなく、ノーコードやローコード、いわゆるソースコードが書けない人でもこのようなプログラミングっぽいことができるようにするツールが流行って、それのAI版というのは本当に野心的な取り組みだと思います。こちらはすでにプロダクトとしてリリースしているのですか。
石山:今はα版を社内中心に活用している段階です。徐々に顧客側への紹介が始まっていっています。ここから上期の終わりぐらいまでにβ版がリリースされて、顧客内での活用が始まり、下期から普及フェーズになっていくという形です。
現段階でもα版の状態で顧客ともコミュニケーションを始めていますが、かなり引き合いが強く、期待値は高いと思っています。
シバタ:引き合いは強いと思います。だって、御社がつくったAIのモジュールを、ソースコードを書かずに社内でカスタマイズして使えるわけですよね。すごいですね。
石山:ありがとうございます。
シバタ:では、時間が来てしまいました。今日聞いていただいている方に少しでもエクサウィザーズさんの強みをお伝えしてきたつもりです。
取り上げました決算説明資料は分かりやすいので、みなさん、ぜひエクサウィザーズさんのHPから決算資料も見ていただけるといいと思います。石山社長、そしてご視聴いただいた皆さん、ありがとうございました。
石山:ありがとうございました。
エクサウィザーズ