株式市場で「旅行業」関連銘柄が買われています。QUICKが選定する17銘柄の平均上昇率は11.8%と、上昇した東証株価指数(TOPIX、2.9%上昇)を大きく上回りました(2月4日までの5営業日の騰落)。今回は、その中でも上昇率の大きい「旅行業」関連5銘柄とその背景について解説します!
緊急事態宣言「今の時点では検討していない」
岸田政権は、新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」の感染拡大にもかかわらず、緊急事態宣言の発令には慎重です。このため、緊急事態宣言で一段と苦境に追い込まれると警戒され、売られていた「旅行業」関連銘柄は、買い戻しが優勢になっています。
2月2日の衆院予算委員会でも、岸田首相は緊急事態宣言の発令について「今の時点では検討していない」と発言。オミクロン型は感染力が高い一方で、重症化リスクは低いとされており、重症者向け病床の確保状況などを見極める方針のようです。
世界的な感染者数はピークアウト?
一方、欧州各国では行動制限の緩和が相次いでいます。スウェーデン政府は2月3日にコロナ対策の規制を9日に解除すると発表しました。デンマークでは2月に規制を全廃。イタリアは近く、規制撤廃に向けたスケジュールを発表する見通しです。ワクチンの普及に加え、オミクロン型の重症化率が低いことが背景にあります。
世界全体でみると、世界的な感染拡大局面はピークを越えたとみることもできそうです。英オックスフォード大学の研究者らで作る「アワー・ワールド・イン・データ」によると、1月24日時点で343万人だった新規感染者数(7日間の平均)は2月5日時点では282万人と18%減少しています。
オミクロン型の日本での感染拡大で、1月にかけて売り込まれた「旅行業」関連株。緊急事態宣言の発令に慎重な日本政府の姿勢に加え、「世界的な感染拡大が天井を打った」との思惑も追い風となっています。
機構改革によりコスト削減を加速!【HANATOUR】
上昇率1位のHANTOUR JAPANは韓国のHANATOUR SERVICEの子会社。韓国からの送客に対してホテルやバス、レストランなどの手配を行っています。このほか、バスの運行やホテルなどの施設の運営も手掛けています。日本政府の緊急事態宣言の延長などによる旅行需要の減少で2021年4〜12月期の売上高は前年同期比33%の大幅減、最終的なもうけを示す最終損益は14億円の赤字(前年同期は22億円の赤字)でした。厳しい環境を受けて、機構改革によりコスト削減を加速させており、旅行需要が戻れば収益の回復が見込めそうです。株価は1月7日に約1年ぶりの安値を付けており、買い戻しが優勢になっています。
コロナ禍でも大幅な増収増益!【アドベンチャー】
上昇率2位の「 アドベンチャー 」は国内外の格安航空券の比較・購入や国内ツアー、ホテル、レストランなどの予約ができるアプリ「skyticket」を運営しています。格安航空会社(LCC)のチケットなど手ごろな商品を多数品揃えしているのが強みです。感染者の減少に伴う予約の回復と広告宣伝費の減少などで、2021年11月12日に発表した21年7〜9月期決算は売上高が前年同期比24%増、営業利益が2.4倍とコロナ禍にも関わらず急回復しました。株価は1月17日に21年5月以来の安値を付けており、値ごろ感に着目した買いを誘っているようです。
「GoToトラベル」再開が焦点に
そのほかにも、国内外の航空券の比較・購入や新幹線、ホテルなどの予約ができるアプリ「エアトリ」の運営などを行う「 エアトリ 」や、インターネット経由などでオーダーメイドの旅行商品を販売する旅工房、近鉄系で国内外のパック旅行などを手掛ける「 KNT-CTホールディングス 」にも、直近に付けた安値からの戻りを期待した買いが入っているようです。
ただ、旅工房は2月4日に政府の観光需要喚起策「GoToトラベル」事業の補助金について不適切な申請をしていた可能性があるとして調査委員会を設置したと発表。週明け7、8日とストップ安を付けました。
政府は、緊急事態宣言の発令には慎重なものの、まん延防止等重点措置の延長を視野に入れています。このため、旅行業を取り巻く環境はしばらく厳しい状態が続きそうです。買い戻しなどから大幅に上昇した株価も、新型コロナの新規感染者の増加に歯止めがかからなければ、一本調子での上昇は見込みにくいかもしれません。今後の株価の焦点は、岸田政権が2021年11月の経済対策に盛り込んだ「GoToトラベル」事業の再開になりそうです。