マーケットの「温度感」がわかる連載「カエル先生のマーケットハイライト」。今年も残すところあと1ヵ月ということで、2021年の日本株マーケットを振り返ります。2022年においても波乱の芽となりそうな、株式市場に吹く「3つの風」を解説します!
新型コロナウイルスの流行は2021年の株式市場に大きな影響を及ぼしました。しかし、すべてが逆風というわけではありません。どんな風がどの業種に追い風・逆風となるのかをしっかりと捉えて、2022年の投資のヒントにしていきましょう!
一時は約30年半ぶりに3万円を回復
2021年11月30日の日経平均株価は2万7821円と、昨年末に比べて377円上昇しました。
一時は約30年半ぶりに3万円を突破しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大やインフレ懸念の高まりなどによって、株価は上値を抑えられる局面がありました。
そんな2021年の相場を大きく動かしたのは、「ワクチン」「インフレ」「首相交代」という3つの風でした。
①ワクチン接種の進展
②インフレ加速と米金融政策の転換
③首相交代の期待と現実
①ワクチン接種の進展
1つ目の株式市場に吹いた風は「ワクチン」です。
医療従事者や高齢者から始まったワクチン接種。6月ごろから2回目の接種を受ける人も徐々に増え始め、足元では7割を超える人が2回目の接種を終えています。
こうしたワクチン接種率の上昇は、感染者増加の抑制につながり、医療現場のひっ迫解消などに大きく貢献しました。
また、感染者の減少に伴い、10月以降は徐々に経済再開の動きも見られました。まだ海外旅行者を受け入れるまでには至っていませんが、国内旅行者の増加や飲食店の酒類提供再開などにより、企業の業績に追い風が吹きつつあります。
②インフレ加速と米金融政策の転換
2つ目の風は「インフレ」です。
2020年以降、新型コロナウイルスの流行により、世界中で観光業を中心に経済がストップし、景気が大きく減速しました。米国では失業率が14.7%と戦後最悪の水準にまで悪化するほどでした。
そうした中で、各国が金融緩和策の強化や大規模な経済対策を発表。株式市場でもそうした政府の政策による効果が期待され、株価は大きく回復しました。
ただ、いざ経済が回り出すと、急速に「需要」が増え、様々なモノの値段が上がり始めました。
一度止めてしまった「供給」を元に戻すのは時間がかかるため、「需要」の増加に応じて、原油や天然ガスといった一次エネルギー・資源の価格が急上昇したのです。
世界経済の中心である米国ではこうしたエネルギー価格だけでなく、住宅価格等も上昇しており、インフレが「一時的」ではない状況になってきました。
そうした背景から、米国では早くも「緩和」から「引き締め」へと金融政策が転換しつつあります。
「インフレ」とはモノやサービスの値段が上がることを言います。
物価の上昇に応じて賃金も上昇すれば「良いインフレ」と言えます。しかし、企業業績や賃金があまり上がらないままインフレが加速してしまうと、「悪いインフレ」となり、人々の貯蓄が減ったり、借金が増えるなど悪循環に陥ります。その悪いインフレを抑える役割を担うのが、各国の中央銀行です。金融政策を調整することで、お金が流通する量を調節し、適度な景気が持続するようにしています。
景気が良好なまま金融政策が引き締まるのは、過度なインフレを抑えてくれるという意味で株式市場の追い風です。
しかし、景気や雇用・賃金などの足元がおぼつかないまま、一部のインフレを抑えるために実施する金融引き締め策は、株式市場にとってはあまり歓迎されるものではありません。
いままさにインフレと金融引き締め政策のバランスが問われています。一歩でも政策運営を誤れば、株式マーケットが冷え込む「向い風」になってしまうことになるため、物価と米国の金融政策に注目が集まっています。
③首相交代の期待と現実
3つ目の風は「首相交代」です。
9月3日に菅義偉首相が次期自民党総裁選への不出馬を発表しました。それを受けて株式市場では「次の首相」に対する期待が高まりました。
特にSNSなどを駆使し、幅広い層から支持を集めていた河野太郎氏が有力視される報道があるなど、規制改革や財政支出拡大の期待が高まる場面では、日経平均が年初来高値を更新したほどです。
しかし、決選投票を経て自民党総裁に選出されたのは岸田文雄氏でした。
財政支出の規模が55兆円となる経済対策を打ち出すなど、積極的な財政政策は「追い風」になりそうですが、金融所得課税の強化など株式マーケットにとって「逆風」となる政策も進めようとしています。
「人の話をしっかりと聞く」ことが岸田首相のモットーだと言いますが、株式市場の声がどこまで届くのか、2022年は試される年になるのではないでしょうか。
業種別では海運業がトップ!
2021年はどんな株が上昇したのでしょうか。
業種別で見ると、海運業が+146.3%(前年末比、11月26日時点)とトップとなりました。背景にあるのはコンテナ船の用船料(チャーター料)の高止まりです。
コロナ禍でしぼんだ経済のあとに、巣ごもり消費などで急速にネット取引が増加しました。その影響で港湾が混雑し、運搬する船も不足したことで、コンテナ船の運賃が急上昇。
海運業である「 日本郵船 」や「 商船三井 」「 川崎汽船 」などの業績は、船の運賃に連動する傾向があります。そのため、業績が急回復しており、それを見越して株価も急上昇したのです。
2位の鉱業は、原油価格など資源価格の上昇により、収益が改善しており、指数としては60%もの上昇になりました。
一方で、資源価格の上昇がコスト圧迫要因となる電気・ガス業は苦しい状況です。2021年に吹いた風のうち、「インフレ」という風が業種別の株価騰落率に大きな影響を与えたことがわかります。
個別ではグローバルウェイが+2282%
1位はITコンサルティングや日本最大級の企業の口コミサイト「キャリコネ」などを展開する「 グローバルウェイ 」でした。
2位は出版社やテレビ局などのWebメディア支援を行う「 INCLUSIVE 」、3位は米国の訴訟証拠開示支援を行う「 FRONTEO 」でした。
5位にはコロナ禍を追い風とした「 スノーピーク 」もランクインしました。
従来からキャンプをする層には人気のブランドでしたが、コロナ禍において「密を避けて楽しめるレジャー」としてソロキャンプなどが流行し、同社には追い風になった模様です。
フォースタートアップス
シンバイオ製薬
ジェイリース
ケイアイスター不動産
大きな3つの風が吹いた2021年の日本株市場。
足元では、オミクロン株という新たな変異種が発見され、世界経済の不透明要因の1つになりつつあります。
新型コロナウイルスとの戦いが新たなステージに入る今、2022年にはどんな風が吹くのか見極めて、うまく投資の追い風にしていきたいですね。