「地表と地下数メートル」は、GAFAでなくクボタが制する【後編】

上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ クボタ・北尾裕一社長/ 北尾 裕一

トラクタなどの農業機械で国内トップシェア、世界でも3位を誇るクボタ。時代の要請に応じて、「食料、水、環境」の分野で様々な社会課題に貢献してきた。

クボタの北尾裕一社長は、自社の将来について、「これからは機械だけでなく、システムを含めたトータルソリューションで社会課題を解決する」と語る。GAFAに負けない「泥臭いプラットフォーム」の真髄とは。
クボタの強みは、技術者も泥にまみれる現場主義だ【前編】 を読む

「命を支えるプラットフォーム」をつくり、守る

――前回は、御社が創業から130年間貫いてきた「現場主義、現地主義」について伺いました。そのときどきの社会課題を、現場・現地で顧客と汗をかきながら解決するが事業の本質だというお話でしたね。そうした社風のもと、これからどんな課題を解決していきますか。

当社はこれまで、「製品とサービス」を通して、社会課題を解決してきました。明治時代のコレラ流行に対しては、鉄の水道管を量産化して衛生的な水を供給できるようにしましたし、戦後の食糧不足には、農業機械の普及で収量の向上に貢献しました(※前編参照)。

しかし、現代に生きるわれわれの社会課題はより複雑で、予測が難しくなっています。例えば、年々、水害が深刻さを増していますよね。

川上から川下まで様々な水環境分野の製品群をもつ当社が取り組まねばならないテーマですが、その被害が過去の事例を大きく超えることもあり、機械を単品売りするだけでは、解決が追いつかない。

本社にて、インタビューに応える北尾社長

そこで当社が開発したのが、「クボタ スマートシステム(KSIS)」です。各地のマンホールにセンサーをつけて下水の流れをデータ化し、「どの川でどれだけ増水しているか」を把握することができます。

こうしたデータを使い、豪雨の際にはバルブを自動的に開閉するとか、水を一部農地に流すといった対策を取ることができます。

KSISを使用し、ポンプをチェックする様子

国内農業に関していうと、大きな課題は「農業人口の減少」です。高度成長期以降、日本の農業を支えてきた兼業農家がどんどんリタイアし、耕作放棄地が増えている。

残った担い手さんがあちこちに散らばった農地を買い取って経営なさっていますが、管理が大変で、「間違えて他の人の田んぼで収穫してしまった」というお話を聞くほどです。

こうした状況に対し、われわれは「クボタ スマートアグリシステム(KSAS)」を開発しました。KSASを使えば、資材の調達、肥料や水やりといった農作業をデータ化し、簡単に管理できるほか、将来的には気象情報などのビッグデータを活用した生育予測も可能になる。

KSASを使用し、農作業する様子

データをしっかり把握することで農作業が「見える化」されれば、若い人が就農するハードルが下がりますし、パートさんに任せられる仕事も増える。農家が自ら作ったものを加工・販売し、消費者とつながる6次産業化を後押しすることもできると期待しています。

このように、今われわれは、ものづくりとDX(デジタルトランスフォーメーション)を融合させてシステムとして販売することで、新しい社会課題を解決しようとしています。

その際、現場で得たデータは絶対にGAFAなどに渡さず、自分たちでプラットフォームをつくっていく。これらのデータは、当社の社員が上下水道などインフラの運営や農業の現場の方々と一緒に、土や田んぼにはいつくばって得たものですから。

KSISやKSASを活用しながら、AIなどの分野でどんどん他社とタイアップし、より多くのお客様に使っていただけるようなプラットフォームを目指しています。空中を支配するGAFAに対して、地表と地中のDXは、意地でも当社が守ります。

「兼業企業」として農家を支える

このようにビジネスの手法は変わっていますが、基本はやはり「現場主義、現地主義」です。DXを活用するにしても、「何のためにやるのか」をはっきりさせて、お客様に響くシステムを構築しなければなりません。そのためには、お客様の立場になって考えることが欠かせません。

――「現場主義、現地主義」に関して、御社は「クボタファーム」という農場を自ら運営し、DXをはじめさまざまな先進事例を実験していると聞いています。

クボタファームの考え方は、私が農機事業部長だった2013年に提案しました。当社は全国700ヵ所以上に農機の営業所をもっていて、それぞれの地域で農家の方々とつながっている。

現地にいるクボタの社員が農家さんと人手をシェアしたり、研究本部とつながって知見を交換したりすれば、地場の農業をもう一度活性化できるのではないか。また、われわれ自身も、農業を経験することが事業に活かせるだろうと考えました。

例えば、兵庫県養父市にある「クボタeファームやぶ」では、休耕地を利用した米作りのほか、もともとは医療用に使用されていた特殊なフィルムを使った「アイメック農法」によるトマト栽培に力を入れています。

このトマトは、野菜ソムリエサミットで金賞を受賞するほどの味で、とてもおいしい。こうした新しい農法にクボタの研究所も参加して、一緒にチャレンジしています。

アイメック農法でトマトを栽培する様子

また、農業技術を開発するスタートアップ企業など5社が参画し、循環型の有機肥料や、アスパラの収穫ロボットといった先進的な実験をしながら、いかに販売につなげるかを試行錯誤しています。

地域の企業が農業に入っていって、一緒に農家のみなさんを支える。それを私は「兼業企業」と呼んでいて、将来は地域ごとにこういう取り組みが欠かせなくなると考えています。

クボタファームは、すぐに利益につながる事業ではありません。全国に13ヵ所とまだまだ小さい規模ですし、課題も多い。しかし、将来のために必要な事業だと、一生懸命取り組んでいるところです。

地域の未来に「食料、水、環境」でできること

今後ますます人口減少が進む中、さまざまなインフラ機能を集約し、地域ごとに完結するシステムをつくらないと、各自治体はもたないでしょう。

当社がかかわる事業でいうと、農業、上下水道、そしてエネルギーやゴミ処理は、それぞれの自治体である程度まかなえるようにする。それが、将来の分散型社会の持続可能性につながっていくと思います。

例えば農業ひとつとっても、地域で大量生産をして、消費地である東京に送るというのは、非常にムダが多い。日本では年間約600万トンの食品ロスが出ているそうですが、地域ごとに生産したものをその場で加工、消費する6次産業化が進めば、食品ロスの問題にも貢献できるのではないでしょうか。

また、資源に関しても、地域で循環させるための技術を当社は開発してきました。きっかけとなったのは、1980年代に瀬戸内海の豊島(てしま)で、10年もの間、産業廃棄物が不法投棄されて社会問題になったこと。

何十万トンという膨大な、何が出てくるかわからない産業廃棄物が含まれた土壌の処理を当社が請け負い、「不法投棄された廃棄物等を単に無害化するだけでなく、これまで埋め立てられていた副産物も可能な限り有効活用するなど、循環型社会のモデルを目指す」という香川県の要望に応えました。

ここでは、クボタが開発してきた「溶融炉」の技術が試されました。溶融とは、廃棄物を約1200度以上の高温で処理して無害化することです。そこで出た「溶融スラグ」を選別し、銅やアルミなどの金属を回収した後、コンクリート骨材などの土木材料として資源化します。

当社は豊島の廃棄物処理を約14年かけてやり終え、今は豊島完全修復に向けて、地下水浄化を続けているところです。

廃棄物処理を担当した技術者は、大阪から処理場のある直島に派遣され12年常駐し、任務に当たりました。ここで培われた知見は大きく、福島県双葉町で東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い発生した放射性物質汚染廃棄物処理にも採用されました。

ゴミ処理だけでなく、農地の上に太陽光パネルを敷設する、下水汚泥を含むバイオマスからメタンガスを回収するといった、エネルギー資源に関する開発も手がけています。

こうした技術を活かして、持続的な循環型社会という課題にどう貢献できるのか。具体的な道筋を描いているところです。

――SDGsが世界的に盛り上がるなか、非常に今日的なトピックですね。

そうですね。「食料、水、環境」の幅広い分野で技術をもつ当社が、総合力を発揮して立ち向かうべきテーマであり、また、事業そのものを通して持続可能な社会の発展に貢献できると考えています。

一方で、インド、さらにその先にあるアフリカといった、ニーズの異なる市場のことも忘れてはなりません。そうした地域にも、それぞれの社会に入り込んで汗をかいていく。

現代における社会課題は複雑で、解決は容易ではありません。それでも、現場主義、現地主義で泥まみれになってやっていく。その精神こそが、われわれの強みですから。

クボタ