「顧客の喜び」がビジネスを永続させる大前提【後編】

上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ ユーシン精機 小谷眞由美名誉会長・小谷高代社長対談/ 小谷 眞由美 、 小谷 高代

FA(工場の自動化)業界のニッチトップであり、設立以来、48期連続黒字経営を続ける、ユーシン精機。「できない、無理だ、は出発点」を掲げる同社は小谷進氏が1973年に京都で設立。

以来、プラスチックの成形に欠かせない「射出成形品取出ロボット」で業界初の商品を次々と世に出し、小谷氏の急逝後は副社長であった妻の小谷眞由美氏が社長となり、黒字経営を続けてきた。

そして2021年6月、次女の小谷高代氏が社長に就任。メディア初となる親子対談で、想いを語っていただいた。
48期黒字経営の基本は「顧客に応え続ける」こと【前編】を読む

仕事を通して豊かな人生を

――御社は、社員が働きやすい環境づくりに早くから力を入れ、育休取得率の向上や時間外労働の削減などに取り組んでいます。

小谷眞由美 名誉会長(以下、会長):
色々なところで評価していただいてありがたいですが、当社では社員が働く環境を整えるのは当然のことと考えています。あまり、変わったことをしているつもりはないんですね。

出産・育児のための休業や時短勤務を、男性も含めて、必要な人にはしっかり取ってもらう。また、事務所や工場、食堂や洗面所といった場所も、機能性だけでなく居心地の良さに配慮して設計しています。産業医と連携した、社員の健康づくりにも気を配っています。

小谷高代 社長(以下、社長):
当社では、男性も女性も、育休や時短といった制度を利用しにくい雰囲気はないのではないかと思いますね。

対談中の小谷眞由美 名誉会長(左)と小谷高代 社長(右)

会長:
日本では、男性の育休は取りにくい会社が多いみたいですね。でも、妻が身体が弱いとどうしても夫が休まなきゃいけないし。

特に夫婦だけのご家庭では、出産後は大変ですよね。うちはお子さんの誕生から1ヵ月以上、休む男性社員もいます。

子どもにつきっきりの時期は、長くても5年とかからないでしょう。だいたい2、3年くらいでしょうか。そこでどう心を切り替えて、戻ってきてもらうか。

皆さん仕事を続ける中でできることが増え、能力が上がっていきますから、そのキャリアを途絶えさせるのはもったいない。

社長:
社員には、それぞれのご家庭があり、人生があります。当社の経営理念の最後に、「我々仲間は一致協力して社業の発展に尽くし、もって物心共に豊かな生活を得ることを目指します」とありますが、本当にその通りだと思います。

皆さん、何かのご縁があってここで一緒に働いている仲間ですから、せっかくなら仕事を通して豊かな人生を送ってほしい。

会長:
ときどき、転職してきた男性に驚かれるんですよ。この会社は女性が強くて、皆さんはっきり意見を言うって。それも私は、普通のことだと思っていますけどね。

二重政権はいけない

――まだ就任からわずかではありますが、小谷社長が経営者として心がけていることはありますか。

社長:
私が重要だと考えていることの一つは「正しい情報の共有」だとお話ししましたが、次に大切なのは「仕事のしやすさ」だと考えています。

それぞれの人が正しい情報を得て良いアイデアが出せても、それを周りの人に率直に話をして建設的な議論ができるという安心感がなければ、提案するといった行動には移せないと思うからです。

私自身は、「議論のしやすさ」ということで言えば、まずは仕事の「目的を共有」して、関係者が同じ方向を見て話をできる土台をつくることが基本だと思っています。

そのためには、私自身も何を考えてどの方向に前進しようとしているのかを、言葉を尽くして説明することが大切だと思っています。

しかし、「目的の共有」だけでは「仕事がしやすい」状態は実現されないと思います。

ですから、どの社員にも建設的な議論ができるという安心感を持ってもらえるよう、各職場でどんなコミュニケーションが行われているのかを日々役員や幹部社員と一緒にアンテナを高く持っておきたいと考えています。

こういった日々の取り組みで、仕事のしやすい風通しの良い組織作りを目指したいと思っています。それでも「どの社員にとっても」と考えると容易とは言えないかもしれませんが、風土づくりには地道な努力が必要だと思って頑張りたいです。

社長:
会長は「二重政権はいけない」という強い意志で、退任と同時に取締役を抜けました。

会長:
私は創業から50年近く経営を見てきましたから、知っていることが多いわけですよね。だからこそ、譲るときは譲り切らないと、会社にとって良くないと思います。

今も毎日出社していますが、アポイントがあるとき以外は、昼食が終わったらさっと帰りますよ。

小谷社長は入社からしばらく、開発に長い時間を割き、結果を出してくれました。彼女が開発の中心になったハイエンドの取出ロボット「FRA」は、「日本機械学会賞」をはじめ、数多くの技術表彰を受賞しています。

そうしたエンジニアとしての活躍から、徐々に経営側に移行してもらい、なるべく早く社長としても経験を積んでほしいと思っていました。

経営をしていると、当然、良いことにも悪いことにもぶつかります。その経験が多いほど、リーダーとして磨かれていきますから、社長になるのは早い方がいい。その上で、困難があっても、一人で頑張る必要はありません。

24時間寝ないで働いたところで、人間が一人でできることなんて、たかが知れています。協力者を増やし、助けてもらいながらでないと、大きな仕事は達成できません。

組織が同じ方向を見て力を合わせたときと、バラバラな方向を見ているときでは、発揮できる力が全然違います。

自動化のニーズにどう応えるか

――会長のお手元にある手帳と計算機は、いつも持ち歩いているんですか。

会長:
数字を確認するのが好きなので、計算機がないと落ち着かなくて。手帳は、予定を書きつけておくのはもちろん、創業からの業績を全部書き写してあるので、肌身離さず持っています。

毎年新しい手帳を買うと、出張先のホテルなどで時間を見つけては、1期からの売上高や利益を書き写すんですよ。

そうすると、この期に売上高200億円を達成したなとか、新しい営業所ができたときだとか、これまでのストーリーが蘇ってきます。全部覚えてはいるんですけどね、改めて意識するといいますか。

会長がいつも携帯している手帳と計算機

――その中で、「正念場」という局面はありましたか。

会長:
それが、あまり無いんですよ。赤字になったことも無かったし……。基本的に楽天的なのね。そうはいっても、創業者が亡くなったときは、すごく悲しかった。

でも、1日休んで呆然として家にいたら、当社にご主人が勤めている友人が連絡してきて、「早く会社に行って働いて。みんな困っているわよ」と言われました。

そのまま出社して社長になって、今日まで変わらずに仕事をしてきました。

とにかく誠実に、お客様のご意見を聞くことが、絶対に大切です。私も社長時代は毎年のようにユーザー訪問をして、年間14回くらいは海外に出張してユーザーや子会社を回りました。

新型コロナウイルスが流行する前は、年の3分の1くらいを海外で過ごしていましたね。

お客様に直にお目にかかって機械が使われている現場を見ると、映像のように頭に焼き付けます。それがすごくプラスになります。

後で電話やメールで何か聞かれても、パッと様子が頭に浮かびますから。それくらい私は、現場重視でやってきました。

あとは全部、社員が頑張ってくれたおかげです。お客様が当社の機械を買ってくださるとき、決して安い買い物ではないので迷われることもありますが、最後は必ず「おたくの社員は本当に良くしてくれるから」と言って、決めてくださいます。

これが何より嬉しいですよね。お客様に喜んでいただければ、ビジネスは長続きします。

――いいお話ですね。今後のトピックスについても聞かせてください。御社の売上高構成別では、数年前からトップだった自動車に代わり、2021年3月期上期は医療分野がトップになっています。新型コロナウイルスの流行によって医療分野のニーズが増えた影響だと思いますが、今後にもつながりますか。

社長:
当社の主力商品である「射出成形品取出ロボット」は、高温のプラスチック製品を金型から取り出します。特に、当社のロボットは、その動作の高速性に特徴があります。

医療分野は安全・衛生面から「使い切り」を必要としますので、大量生産が必要な分野であり、当社の高速なロボットが適していることから、今後も伸びていくと考えています。

また、物流をはじめ、自動化全般のニーズが高まっています。この流れは国内だけでなく、海外でも起きています。

当社は既に海外の売上比率が6割を占めますが、こうしたニーズに対しても、当社の技術を活かしてどういう対応ができるのか。国内外のお客様の声を聞きながら模索していきたいですね。

――これからが楽しみですね。

会長:
これからが楽しみですけど、私はこれまでも十分に楽しかった。創業者と一緒にゼロから出発して、会社が大きくなって、社長になってからは色んな国を訪問して現場を見せていただいて。

忙しくて自分の時間が全然なくても、嫌だと思ったことは一度もありません。何でそんなに楽天的なんだと聞かれることがありますが、自分でもわかりませんね。

社長:
私が目指すのは、やはりみなさんがやりがいを持って働ける会社にすることです。私自身、働くのは楽しい。開発していても、みんなで一緒に作ったものが売れたら嬉しいじゃないですか。

仕事をしていると大変なことも多いですが、中長期的には働く仲間みんなで楽しくやりがいをもって働きたい。結果として、それが会社のパフォーマンスに繋がると思います。

そのためには、ただ「楽しく働きましょう」と言うのではダメで、適切な仕組みや制度を1つ1つ丁寧につくって積み上げていく必要があると思っています。

先日も役員で話し合って、創造性と主体性を持った人財の育成を目的とする「イノベーションプロジェクト活動提案制度」という新しい制度をスタートしました。

色んな施策を試し、中には失敗もあるでしょうが、その積み重ねが結果として会社のカラーになっていくと思います。ですから丁寧に、より良い方向に進めるよう、努力を重ねていきたいです。

ユーシン精機