ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)
「オリジナル」のROE目標を掲げるケース
ROEは資本効率の目安として、世界でも共通の指標として知られています。ただ、中には時代の変化に合わせて、そのROEに新たな要素を加えて、独自の経営戦略を立てている企業もあります。そこで今回は、そうしたオリジナルのROE目標を立てているケースをご紹介します。
case18:明治HD
今回は、チョコレートやアイスといった食品から、「ザバス」「アミノコラーゲン」といった栄養食品まで幅広く健康をサポートする商品を提供する「 明治HD 」を見ていきます。
同社の2020年度のROEは11.1%、今期の予想ROE(QUICKコンセンサス予想)も11.6%と安定して2ケタを維持しています。「2026ビジョン」という中長期目標で、ROEを10%以上を維持することを掲げており、その目標を継続して達成している様子がうかがえます。ただ、ROEの推移を見ると、2015年以降はやや低下傾向にあるようです。
ROEを3つに分解すると……?
営業利益は継続的に増えており、当期利益も安定的に推移していることから、業績そのものに不安はありません。ではなにがROEを押し下げているのでしょうか。ROEの増減要因を考えるときによく使われるのが、ROEを3つの要素に分解する「デュポン分析」です。
デュポン分析とは、ROEを「売上高純利益率」「財務レバレッジ」「総資本回転率」の3つに分解して、それぞれどの要素がROEを高めたり、低くしているのかを調べるものです。
さらなる成長への布石に期待
明治HDのROEを分解して、その過去の推移を見ると、「財務レバレッジ」と「総資本回転率」が下がっていることがわかります。また、会社が公表している財務諸表などを見ると、自己資本が大きく増えていることから、内部留保が積み上がっている可能性があります。安定的に利益を稼いで、それを積み上げているとも言えますが、新たな投資先が見つかっていなかったり、株主への還元余地がまだ大きいとも考えられます。
借金はROEを押し上げる?
一方、「財務レバレッジ」は借金などを抑えて、手元にあるお金で事業を運営しようとすると、下がりやすい傾向があります。借金をしないことは一見、健全な企業の運営にも見えますが、継続的な成長のためにある程度は銀行などからお金を借りて、その資金を成長分野に投じることも必要です。また、それが利益につながれば、結果的に株主に利益を還元することにもつながるので、ROEを押し上げる効果があります。
株主還元強化などにも期待
こうしたことから、同社は安定的に利益を稼いではいるものの、まだまだ成長余力を残していて、投資機会をうかがっている状態とも言えます。足元ではコロナ禍によって苦戦を強いられている分野もありますが、不透明感が払しょくされれば、株主還元の強化などによって、ROEを押し上げるような施策を打ち出す可能性もあるかもしれませんね。
時代に合わせた「オリジナル指標」
また、同社は2022年3月期より「明治ROESG」という独自の目標も掲げました。資本効率を表すROEに加えて、ESG(環境・社会・企業統治)の評価と、健康価値を提供するという「明治らしさ」の評価を加えた指標とのこと。単に効率的に利益を稼ぐ企業ではなく、社会への貢献を様々な面から追い求める企業を目指しているようです。今後の同社の取り組みにさらに注目が集まりそうですね。
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える
今回は、①②から明治HDを見てきました。中長期的なROEの目標は達成している同社。ただ、やや低下傾向にあることを考慮すると、今後成長への投資や株主還元策の強化などの可能性も考えられます。独自の指標「明治ROESG」なども掲げており、これからますます投資家の注目を集めそうです。