『ピノ』最大のピンチ! 若年層離れに取った対策は?【後編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部CHINATSU

1976年に森永乳業が発売したひと口アイスの『ピノ』。アソートパック発売後は右肩上がりの成長が加速し、アイスでは珍しい売上100億円越えのメガブランドとなった。

「アイスとチョコ8:2の黄金比はそのまま、変えるところは変える。攻めと守りの二軸両輪でやってきました」。同社にて『ピノ』を担当する馬渕景士さん、佐藤恵梨華さんに開発秘話やブランド戦略を伺った。
年100億円超え! 変えすぎないで変えてきた『ピノ』の味【前編】を読む

独自の『ピノサイクル』がブランドを回していく

――発売以来、ほぼ右肩上がりで推移してきた『ピノ』ですが、ブランドとしてのピンチはありましたか。

馬渕さん:
2011年から2014年頃にかけ、売上が伸び悩んだ時期がありました。一番の要因は10代から20代前半のお客様の喫食率(編集部註:摂取量を示す割合のこと)が落ちていたこと。

『ピノ』にはブランド自体にライフサイクルがあると考えています。初めて『ピノ』を食べる年代といえば、小さなお子さんがほとんど。親が購入し、その子どもが食べるという原体験ですね。

次に、大きくなった子どもたちが自分のお小遣いで食べる時期があり、やがて、その層が親になり、自分の子どもに買ってくるというサイクルがある。

社内では「ピノサイクル」と呼んでいますけど「自分で買って食べる」若年層の喫食頻度が減っていた。これは大きな問題ですよね。若い層を引き上げていかないと、将来的にブランドのパイ自体が縮小する可能性もあるわけですから。

営業本部マーケティング統括部の馬渕景士さん

『ピノ』は現在、全国ほとんどのコンビニエンスストアさまでお取り扱い頂いています。ただ、2014年頃はこの取扱店率が下がってしまっていた。

ロングセラーであるがゆえに古くささが先行してしまい、若い世代にとって、手を伸ばしづらい存在になっていたのかなと。

――その頃からプロモーションにも変化があります。『ピノ』のTVCM放映は2014年でいったん終わり、期間限定のカフェやイベント開催など若い世代向けのアピール戦略も増えました。

馬渕さん:
『ピノ』はすでに高い認知度があったため、CMを流しても「もう知ってるよ」といった反応に留まってしまうんです。それよりも新しい楽しみ方を若年層に提案したかった。

自分でチョコをコーティングする『ピノフォンデュカフェ』やアートと融合させた『ピノファンタジア』など、体験型ポップアップストアを期間限定で出店しました。狙いはあたり、10代後半~20代を中心とした多くの方にご来場頂けました。SNSでも拡散されましたね。

昨今はコロナの影響下、リアルイベントは行っていませんが、SNSなどと連動しやすいキャンペーンは続けていますね。昨年は全50種の『ピノ』が考えるいろいろな“かわいい”を表したパッケージを限定販売しましたし、今年はV6さんとタイアップしWebムービーなどを展開しています。

「アート×食×空間」をかけ合わせた体験型イベント『ピノファンタジア』

アイス市場がこの15年で1.5倍に広がった理由

――前編でお話がありましたが、市場が落ち込んだ2004年ごろと比較すると現在のアイス市場は約1.5倍、5200億円規模になっています。この15年ほどで拡大した背景を。

馬渕さん:
市場が広がってきた理由はいくつかありまして、まず「お客様の層が広がったこと」。アイスといえば、かつては「子どもが食べる」という位置づけでしたが、大人の購入も増えてきました。

高価格帯のアイスが登場するなど、満足感の高い商品が多くなったことも背景にあります。また、「冬アイス」という言葉が生まれたように、寒い時期に濃厚なアイスを食べるシーンが珍しくなくなりました。

もう一つ、大きな理由は「ロングセラー商品のがんばり」もあるのかなと。これは『ピノ』に限りませんよ(笑)。アイス売り場を覗くと40年、50年と長く続く商品が目立ちます。

それぞれのブランドが時代に合わせつつ、味やデザインを変えながら成長してきた。ロングセラーが市場全体を支える中で、新しいブランドやヒット商品が登場し、パイを上乗せしていく。その繰り返しで市場が広がってきたのではないでしょうか。

「アイスは『子どもが食べるもの』から『大人も食べるもの』へ」

――『ピノ』はアイス市場では稀有な年間売上が100億円を超えるブランドです。45年愛されるロングセラーでありえた理由をどう捉えていますか。

馬渕さん:
やはり、「攻め」と「守り」の二軸両輪あってこそだと思います。「攻め」とは新しいフレーバーであったり、ポップアップストアの展開であったり、SNS連動型のプロモーションなどです。

その一方で、守るべきところは守ってきました。アイスとチョコ「8:2」の黄金比であったり、『ピノ』シェイプと呼ばれる円錐台であったり、一粒10mlのサイズ感であったり。この二つがロングセラーの支柱になったと考えていますね。

『ピノ』が幸せの最小単位でありたい

――『ピノ』として、今後、拡充したい分野やターゲットはありますか?

馬渕さん:
注目しているのはシニア層の掘り起こしですね。ピノはアイスをチョコレートコーティングしており一口サイズなので、高齢者にも食べやすい設計となっています。

今後高たんぱくにするなど、さらに栄養価の高い商品として提案できる可能性もあると考えています。実現できれば、新しい「ピノサイクル」をつくることもできるかなと。

「嚥下しやすいサイズである『ピノ』はシニア層にも最適」と馬渕さん

――日本のアイスの代表的なブランドを担当していることについて、どのような想いでお仕事をされているのかお二人にお尋ねしたいです。

佐藤さん:
『ピノ』は入社する以前から大好きだったブランドです。馬渕の話にありましたように、これだけのロングセラーであっても、徹底的にこだわってさまざまな面でブラッシュアップしてきています。

自分の仕事は「お客様においしいものをお届けしたい」という社員の熱意の窓口になること。その点にやりがいを感じていますし、『ピノ』の魅力をもっともっと知っていただけるよう、発信してきたいですね。

「社員の熱意の窓口になりたい」と広報IR部の佐藤恵梨華さん

馬渕さん:
『ピノ』は私より年上のブランドです。常に感じているのは「ブランドは担当者よりも長生きさせるものだ」ということ。

ピノサイクルじゃないですけど私自身も『ピノ』の未来を作っていくという気持ちです。いつかは次の世代にバトンを渡す日もくるでしょうが、その時に最良の形で渡せるようになれれば、と思っています。

『ピノ』のブランドコンセプトは「一粒の幸せ」です。一粒10mlのほんの小さな存在ですが、幸せの最小単位でありたいなと思っています。

『ピノ』を食べることで、お客様の日常がほんの少しでも良いものになってほしい。未来展望の大前提として、一粒に幸せをつめ込む気持ちで今後も開発していきたいですね。

森永乳業