四方を海に囲まれた日本。いつの時代も、新しい文化や物資は海からやってきた。経済のグローバル化が進むいま、日本の貿易を支える海運、物流業の役割は、ますます大きくなっている。今回は、「海から見える日本経済」を、タカシとユイが解説する。
ユイ
今日は、タカシ君と大人の社会科見学に来ました。青海ふ頭に隣接する、「青海南ふ頭公園」です。この間、レインボーブリッジで私が「東京港について全然知らない」と口をすべらせたばっかりに、連れて来られたのです……。
タカシ
誰に言ってるの?
たまにはレポート風にしてみようと思って。それにしても、タカシ君が言う「経済を知るには海から」って、どういうこと?
それを知ってもらいたくて、今日はここに来たんだ。日本はアメリカ、中国、ドイツに次ぐ世界4位の貿易大国。戦後、日本が原料を輸入して高い技術力で加工し、輸出することで経済成長をしてきたことはユイも知っているよね。
いまの日本経済は、海外との貿易なしには成り立たない。
その中でも特に重要なのが、ここ、東京湾だ。日本が海外と輸出入している荷物は、年間9億トン以上。そのうち、99.7%が船で輸送されている。東京湾内で扱うコンテナ貨物は全国の約4割を占め、出入りする大型船は、1日なんと約500隻。海上交通の要所といわれるマラッカ海峡ですら、1日の航行が約320隻だから、世界でも類を見ない海上交通の過密地域なんだ。
東京湾ってそんなにすごいの!? お台場とかよく来るのに、全然知らなかった。海運業って、なんだか儲かりそう。
そう思うでしょ? ところが去年は、世界中の海運業者にとって大変な1年だったんだ。リーマン・ショック後、世界経済はなかなか回復しない。景気が悪いと荷動きが鈍るから、海運のニーズも減る。ふつうなら需要にあわせて供給を減らすけど、船を造るには時間がかかるから、ずっと前に立てた計画を変えられない……。
荷物は減るのに、予定していた新造船が続々と完成する。そうすると、供給過剰になるわ。
その通り。供給過剰な中で自社を選んでもらうには、運賃を下げるしかない。そうやって世界中の海運業者が不況に陥り、とうとう2016年の夏に韓国大手の「韓進(ハンジン)海運」が倒産した。
日本の海運業者は大丈夫なの?
もちろん、対策を打っているよ。国内3大手である「日本郵船」「商船三井」「川崎汽船」は、外資のハパック ロイド(ドイツ)、陽明海運(台湾)とともに、コンテナ船事業を統合すると発表。「ザ・アライアンス」という新組織をつくり、2017年4月から共同運航を開始している。力を合わせてこれまで以上に地域・ネットワークを広げ、競争力を高めようとしているんだ。
日本の3大海運の特徴は?
海に囲まれ、資源が乏しい日本にとって、海運業はとても大切だ。国内3大手の強みをおさらいすると、国内トップ・世界でもトップ10入りしている「 日本郵船 」は、海外売上が約7割と高い。本業の海運業に加えて、物流や航空運送、不動産業などに事業を拡げているのも特徴だ。1つの地域・1つの事業に頼らないバランスのとれたポートフォリオで、安定した経営基盤を保っている。全世界で約5万5000人もの雇用を担うガリバー企業だから、がんばってほしいなあ。
海運業以外にも、いろんなことに挑戦しているのね。
「 商船三井 」は少し違って、海運業を主軸にさまざまな船をそろえている。約900隻という世界最大規模の船腹量を誇り、コンテナ船、自動車専用船、鉄鋼原料や石炭、穀物などを輸送するばら積み船、原油や原油製品を輸送するタンカー、そしてLNG(液化天然ガス)船とあらゆる貨物の国際輸送を担っている。特に資源輸送に強く、最近はシェールガスに由来する化学品原料の大規模輸送も積極的に展開しているよ。
あくまで海運を主力に、船のバリエーションと数で勝負している。
「 川崎汽船 」は、「商船三井」と近いビジネスモデルの総合海運会社だ。ただし、日本郵船が約1.9兆円、商船三井が1.5兆円の売上高に対して、川崎汽船は約1兆円(いずれも2016年度)。規模は業界3番手だけど、チャレンジ精神旺盛なところが僕は好きだな。1970年に日本初の自動車専用船を作り、その後も日本籍初のLNG船、電力炭輸送の新しいモデルであるコロナ型石炭船竣工など、顧客の声を聞いて新しい船型、サービスを開拓してきた。自主独立・自由闊達・進取の気性を「“K”ラインスピリット」と呼んで誇りにしている会社だよ。
3社それぞれ、個性があることがよくわかったわ。
船だけじゃない! 貿易を支える会社たち
海運といえば船だけじゃなくて、荷物を安心して届ける保険も大事だ。
保険といえば、損保トップの東京海上日動火災保険を傘下に持つ
「
東京海上ホールディングス
」が有名ね。たしか、海上保険会社の始まりは明治時代とか、古かったような……。
西欧で生まれた「保険」の概念を日本に紹介したのが、福沢諭吉。そこから日本初の専業の海上保険会社として、「東京海上保険会社」が設立されたのが1879年。明治12年だね。すごいのは、東京海上は創業初年度から海外に進出し、戦前は売上の2/3を海外で生み出していたこと。その気風はいまでも受け継がれ、現在は38ヵ国でビジネスを行っているよ。
DNAに「海外への挑戦」が刷り込まれているみたい。
海外との物流を支えるといえば、日本最大級の倉庫・港湾運送会社
「
三菱倉庫
」も忘れてはいけないな。倉庫事業を核に、国際荷物の通関などの取り扱いから港湾での荷役と保管、陸上での貨物輸送などを一気通貫で行っている。
ロジスティクスのプロね。
まさにそう。最近では、高精度の輸送・保管を要求される医薬・医療品物流や、ロボットオペレーションによる自動倉庫などにも挑戦している業界のイノベーター(革新者)として、荷物を届ける「質」にこだわる会社といえるね。
物流がないと経済は動かない。そしてそれはいま、海とつながるさまざまなビジネスを生んでいる。
そう、ロマンがあるよね!
うん、まあ勉強にはなった。
え、それだけ?
うーん、相変わらずタカシ君とは「ロマン」の概念が違うみたい。
やっぱり女性の心は分かんないなあ……。
今回のテーマで取り上げた上場企業
日本郵船
商船三井
川崎汽船
東京海上ホールディングス
三菱倉庫