君の選択が「人生」を彩っていく

14歳の自分に伝えたい「お金の話」/ 藤野 英人須山 奈津希

レオス・キャピタルワークスで「ひふみ投信」などのファンドマネージャーを務める藤野英人さん。日興フロッギーでは度々、お金や投資に関する大切な言葉をみなさんに伝えてくれていました。この連載では、そんな藤野さんの著書「14歳の自分に伝えたい『お金の話』」から一部を転載してお伝えします。

「お金」とは何か、お金を「使う」とは何か、「仕事」とは何かについて話をしてきました。

最後に、君と話をしたいのは「人生」についてです。

 

14歳の君は今、体も心も苦しい状態にあって、「スランプ」の真っただ中にいますね。なんとなく体調がよくなくて、部活を途中で帰ってしまったり、勉強に集中できずに成績を落としてしまったり。親も君の様子を見て、とても心配している。

結果的に体調は15歳になったぐらいから少しずつ上向いていくのだけれど、それを知らない君は今、大きな不安に襲われている。
そんな君がこの章を読んで、少しでも前向きな気持ちを取り戻してくれたら。そんな思いで話をしていきます。

 

君はやがて大人になって、社会へと飛び出していく。

想像もできないような、たくさんの出会いが君を待っています。楽しい場面ばかりではなくて、今の君みたいに、迷ったり歯を食いしばったりする場面にもたくさん遭遇します。

でも、どんな場面でも忘れないでほしいのが、人生の主人公はたった一人、〝君〟しかいないということです。

親や、先生、上司、会社、世間……、いろんな人が君に言葉をかけ、その言葉が君の背中を押してくれたり、逆に君の足をすくませることもあると思う。

でもいつだって、君の人生の行き先を決められるのは君しかいないのだと、覚えていてほしいのです。

 

何年か前に『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)という本を出しました。この「投資家みたいに」という言葉に込めたのは〝自分が主人公になって〟という意味。

大切にしたい世界、価値観に対して噓をつかずに、自分の心が「そうだ、こっちだ」と躍る方向へと突き進んでいこう、というメッセージを伝えたかったのです。

何も、「リスクが高い、劇的な挑戦をしよう」と言っているわけではありません。僕は起業家という生き方が好きだけれど、万人に薦めているわけでもありません。

会社員として50年生きる人生でも「自分を主人公にして生きる」ことは可能です。組織の一員であるという強みを存分に活かして、夢中になってチャレンジするハイパーサラリーマンを、僕はたくさん知っています(僕は彼らを〝サラリーマンの虎〟と位置付け、「トラリーマン」と呼んでいます)。

 

一方で、会社に入った途端、まるで首輪をつけられた飼い犬のようになって、「どこかに所属する人生」に全身を委ねてしまう人も、残念ながら少なくありません。

所属する会社が元気で明るいうちはハッピーに過ごせるけれど、僕たちは今、変化が激しく、未来が不確定な時代に生きています。「絶対に風雨をしのげる完璧な屋根」なんて、どこにも見つからないのです。

 

超有名な大企業に入ったとしても、3年後にも同じ環境が維持されているかはわかりません。

成功が約束されている場所は存在せず、正解のないゲームが続く。「はい、正解です!」と教えてくれる人はいないのです。

こんな不確定な社会の中に飛び込むのは怖いかもしれないけれど、君は人生の主人公なのだから、どんなふうにだって物語を変えられます。

面白い漫画や小説には必ず魅力的な主人公がいるように、君の考え方や選択次第で、人生はいくらでも面白くできることを、どうか忘れないでほしいと思います。

僕の尊敬する人生の先輩である成毛眞さんは、マイクロソフト日本法人の社長を務めた後、たくさんの企業の経営にアドバイザーとして関わっています。

その成毛さんが、2020年10月25日にフェイスブックに投稿した「学生の諸君へ、(なにかがおかしいと感じているサラリーマンの諸君へ)」という文章に、僕は深く共感してSNSでシェアしたところ、多くの人から反響がありました。

ちょっと刺激的な内容かもしれませんが、ここに引用しますので、ぜひ読んでみてください。

いまボクが付き合っている連中の60%は社長たちだ。残りの40%は編集者、研究者、医者、芸者、勇者など、怪しい者業の面々だ。

その社長たちとは熱海の畳屋、江別の製麺屋、伊勢のクラフトビール屋、高山の瓦屋、気仙沼のセーター屋、赤坂の高級割烹屋、本郷の人間ドローン屋、番町のAI屋などなど、規模も業種もバラバラで、もちろん学歴もバラバラだが、いわゆる大企業サラリーマン社長はいない。

話をしていて、その社長たちはいつもクソ忙しく、体温が高く、多動性で、話題がとっちらかり、新しもの好きで、ケチくさく、いささか攻撃的で、ともかくバラッバラの個性で、生きていることを死ぬまで楽しむであろうと、感じるのだ。経験上、そのような属性の人が社長になったのではないと思う。社長という職種が人を変えるのだとつくづく思うのだ。

これからの学生は社長を目指すべきだと思う。40年も勤め上げて2年で交代する大企業の社長だけは論外だ。テクノロジースタートアップだけが有望な社長でない。家業があれば引き継いでガンガンやるべきだ。町中華の主人だって立派な社長だ。古い業種と思われているところにも面白い社長がたくさんいる。

中小企業といわれようが、輝くベンチャーと言われようが、たかがラーメン屋といわれようが、オタク農家といわれようが、不思議なことに社長たちはほぼ同じ属性であり、意外にも仲間意識があるということを学生は理解したほうがいい。大成功したベンチャー企業の社長は居酒屋の主人をリスペクトしているものだ。社長業という同じ職業の仲間だからだろう。それでもまだ、定年後にはつましく静かな余生の中で、過去のわずかな武勇伝にまどろむ高級サラリーマンを目指しますか。

(出典:https://www.facebook.com/makoto.naruke/posts/3380632291973863)

ユーモアも交えながら、成毛さんが伝えようとしているのは、やはり〝主人公として生きろ〟というメッセージではないかと思います。

「生きていることを死ぬまで楽しむ」主人公になろう、と。人生を楽しむためには「お金」がたくさんあることが条件だと思われがちだけれど、そうとも限りません。

僕が出会ってきた起業家たちの中にも、一夜にして財産を失ったり、お金の面で悲惨な目に遭った経験を語る人は少なくありません。

でも、お金がなくなったからといって人生は終わらない。夢を語り、仲間を思い、前を向くことはできます。

彼・彼女たちは、どんなときでも、思い切り〝主人公〟を楽しんでいます。そして、〝主人公になる権利〟は、誰でも等しく、生まれたときから持っているのです。

お金があるから、人生を楽しめるのではない。

人生を楽しむことが先で、お金は後からついてくる。

これからも、君は君の人生の堂々たる主人公として、歩んでいってください。

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