「お金」とは何か、お金を「使う」とは何か、「仕事」とは何かについて話をしてきました。
最後に、君と話をしたいのは「人生」についてです。
14歳の君は今、体も心も苦しい状態にあって、「スランプ」の真っただ中にいますね。なんとなく体調がよくなくて、部活を途中で帰ってしまったり、勉強に集中できずに成績を落としてしまったり。親も君の様子を見て、とても心配している。
結果的に体調は15歳になったぐらいから少しずつ上向いていくのだけれど、それを知らない君は今、大きな不安に襲われている。
そんな君がこの章を読んで、少しでも前向きな気持ちを取り戻してくれたら。そんな思いで話をしていきます。
君はやがて大人になって、社会へと飛び出していく。
想像もできないような、たくさんの出会いが君を待っています。楽しい場面ばかりではなくて、今の君みたいに、迷ったり歯を食いしばったりする場面にもたくさん遭遇します。
でも、どんな場面でも忘れないでほしいのが、人生の主人公はたった一人、〝君〟しかいないということです。
親や、先生、上司、会社、世間……、いろんな人が君に言葉をかけ、その言葉が君の背中を押してくれたり、逆に君の足をすくませることもあると思う。
でもいつだって、君の人生の行き先を決められるのは君しかいないのだと、覚えていてほしいのです。
何年か前に『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)という本を出しました。この「投資家みたいに」という言葉に込めたのは〝自分が主人公になって〟という意味。
大切にしたい世界、価値観に対して噓をつかずに、自分の心が「そうだ、こっちだ」と躍る方向へと突き進んでいこう、というメッセージを伝えたかったのです。
何も、「リスクが高い、劇的な挑戦をしよう」と言っているわけではありません。僕は起業家という生き方が好きだけれど、万人に薦めているわけでもありません。
会社員として50年生きる人生でも「自分を主人公にして生きる」ことは可能です。組織の一員であるという強みを存分に活かして、夢中になってチャレンジするハイパーサラリーマンを、僕はたくさん知っています(僕は彼らを〝サラリーマンの虎〟と位置付け、「トラリーマン」と呼んでいます)。
一方で、会社に入った途端、まるで首輪をつけられた飼い犬のようになって、「どこかに所属する人生」に全身を委ねてしまう人も、残念ながら少なくありません。
所属する会社が元気で明るいうちはハッピーに過ごせるけれど、僕たちは今、変化が激しく、未来が不確定な時代に生きています。「絶対に風雨をしのげる完璧な屋根」なんて、どこにも見つからないのです。
超有名な大企業に入ったとしても、3年後にも同じ環境が維持されているかはわかりません。
成功が約束されている場所は存在せず、正解のないゲームが続く。「はい、正解です!」と教えてくれる人はいないのです。
こんな不確定な社会の中に飛び込むのは怖いかもしれないけれど、君は人生の主人公なのだから、どんなふうにだって物語を変えられます。
面白い漫画や小説には必ず魅力的な主人公がいるように、君の考え方や選択次第で、人生はいくらでも面白くできることを、どうか忘れないでほしいと思います。
僕の尊敬する人生の先輩である成毛眞さんは、マイクロソフト日本法人の社長を務めた後、たくさんの企業の経営にアドバイザーとして関わっています。
その成毛さんが、2020年10月25日にフェイスブックに投稿した「学生の諸君へ、(なにかがおかしいと感じているサラリーマンの諸君へ)」という文章に、僕は深く共感してSNSでシェアしたところ、多くの人から反響がありました。
ちょっと刺激的な内容かもしれませんが、ここに引用しますので、ぜひ読んでみてください。
いまボクが付き合っている連中の60%は社長たちだ。残りの40%は編集者、研究者、医者、芸者、勇者など、怪しい者業の面々だ。
その社長たちとは熱海の畳屋、江別の製麺屋、伊勢のクラフトビール屋、高山の瓦屋、気仙沼のセーター屋、赤坂の高級割烹屋、本郷の人間ドローン屋、番町のAI屋などなど、規模も業種もバラバラで、もちろん学歴もバラバラだが、いわゆる大企業サラリーマン社長はいない。
話をしていて、その社長たちはいつもクソ忙しく、体温が高く、多動性で、話題がとっちらかり、新しもの好きで、ケチくさく、いささか攻撃的で、ともかくバラッバラの個性で、生きていることを死ぬまで楽しむであろうと、感じるのだ。経験上、そのような属性の人が社長になったのではないと思う。社長という職種が人を変えるのだとつくづく思うのだ。
これからの学生は社長を目指すべきだと思う。40年も勤め上げて2年で交代する大企業の社長だけは論外だ。テクノロジースタートアップだけが有望な社長でない。家業があれば引き継いでガンガンやるべきだ。町中華の主人だって立派な社長だ。古い業種と思われているところにも面白い社長がたくさんいる。
中小企業といわれようが、輝くベンチャーと言われようが、たかがラーメン屋といわれようが、オタク農家といわれようが、不思議なことに社長たちはほぼ同じ属性であり、意外にも仲間意識があるということを学生は理解したほうがいい。大成功したベンチャー企業の社長は居酒屋の主人をリスペクトしているものだ。社長業という同じ職業の仲間だからだろう。それでもまだ、定年後にはつましく静かな余生の中で、過去のわずかな武勇伝にまどろむ高級サラリーマンを目指しますか。
(出典:https://www.facebook.com/makoto.naruke/posts/3380632291973863)
ユーモアも交えながら、成毛さんが伝えようとしているのは、やはり〝主人公として生きろ〟というメッセージではないかと思います。
「生きていることを死ぬまで楽しむ」主人公になろう、と。人生を楽しむためには「お金」がたくさんあることが条件だと思われがちだけれど、そうとも限りません。
僕が出会ってきた起業家たちの中にも、一夜にして財産を失ったり、お金の面で悲惨な目に遭った経験を語る人は少なくありません。
でも、お金がなくなったからといって人生は終わらない。夢を語り、仲間を思い、前を向くことはできます。
彼・彼女たちは、どんなときでも、思い切り〝主人公〟を楽しんでいます。そして、〝主人公になる権利〟は、誰でも等しく、生まれたときから持っているのです。
お金があるから、人生を楽しめるのではない。
人生を楽しむことが先で、お金は後からついてくる。
これからも、君は君の人生の堂々たる主人公として、歩んでいってください。