友人:『さわだくん物理の研究してて賢いし、株とか始めたらめっちゃできそうじゃね?』
今回の連載を書くキッカケは、この唐突なお誘いからでした。
僕はふだん、大学で宇宙についてあれこれ研究するお仕事をしております。いわゆる職業「物理学者」と呼ばれる、29歳の若手研究者です。我ながら、肩書はカッコよさそうですよね。
ただ、宇宙の研究をしているといっても、望遠鏡を覗いたこともなければ星座も何ひとつ分かりません。研究道具は、紙とペンとパソコンと。皆さんが高校以来見なくもなった”微分積分”を、毎日もっぱら計算している「理論物理学者」というものです。
その一方で恥ずかしながら、僕はお金に関する計算がとてもとても苦手でありまして。つけ始めて数日で放置された家計簿アプリは数知れず、僕の得意な微分積分もお金の計算にはなにも役立つことなく。大学での会計処理もできるかぎり後回しにしてしまい、期限ぎりぎりになった書類のあれこれを、大学事務の経理課の皆様に助けていただきながらなんとかやりすごす毎日で、ほんとうに事務の皆様には頭が上がりません。。。
そんなお金に疎い物理学者が、株を始めてみたらどうなるのか?
将来に備えて資産形成の準備を始めたい若手研究者による、ちょっと変わった株投資の記録を、この連載に残せたらいいなと思っています。
物理学者と株
ところで、ここまで読んで「そもそも株をするのに物理学者であることが関係あるの?」とお思いの方も多いかも?しれないですよね。きっと株式投資の分析家の方々などはお詳しいと思いますが、実は実はとても繋がりのある世界なのです。
株式市場の世界には、過去の一般的な経済統計を無視した数理モデル的アプローチによって世界トップクラスの投資家となった人物がいます。「ジム・シモンズ」という学者です。
(日興フロッギー記事:https://froggy.smbcnikko.co.jp/31539/)
そして今では、クオンツと呼ばれる、「金融商品についての数理分析専門職」が存在するほど、物理と株の世界は密接です。実際、僕の周りでも、理論物理学の研究者から金融業界へクオンツとして転身した同期はたくさんいて、まったく珍しくない職業です。むしろ僕にとっては馴染みがある仕事なくらいです。
そういった背景から、「物理と株投資の相性は悪くないんだろうなあ」というぼんやりとしたイメージを持っていたことも、今回の投資を始めてみようというキッカケのひとつではありました。
株初心者の物理学者による “株価予測の自由研究” の始まり
というわけで、せっかく自分が株を始めるならば、物理学者らしく物理や数学を駆使して株価予測をしてみたい!
資産形成というより“株価予測の自由研究”をするんだと思うと、断然ワクワクしてきました。僕の得意な微分積分がお金の計算に役立つ日が来たのかもしれない……! そんな思いを抱きながら、まずは株を始めるため、そそくさと日興フロッギーで証券口座の開設をしました(余談ですが、マイナンバーカードがあれば、数分で開設申請ができて、本当にびっくりするほどカンタンでした)。さて準備も整ったところで、いざ“株価の自由研究”を始めよう。
……と、ここで思い出すことがひとつ、僕はただの「お金に疎い物理学者」だったことです。あくまでも物理が分かるだけで、僕自身はそういった投資戦略の素養はほとんどゼロ。そうです、株価の予測をしようにも、どの会社をどう調べたらよいのやら。。。
色々悩んだ結果、とりあえず手当たり次第に調べていこうと思い、まずは「 サイゼリヤ 」の株価を調べてみることにしました(理由:お家の近くにあるから)。
手探り数理モデルで株価予測??
ただとりあえず会社を決めてみたものの、「株価の推移」をにらめっこしても何もわからない。そこで、まずは「前日から株価が何パーセント変化したか?(株価の変化率)」に注目してみることにしました。分かりやすくするために、サイゼリヤの過去90日程度の株価変化率についてグラフにしてみたのが下の図です。
(※グラフは2021/1/6~2021/5/14のサイゼリヤの株価データを基にしたもの)
するとすると、どうも株価の変化率は、山型に近い分布をしている様子が見えてきました。これはどうやらモデル化の糸口が掴めそうです。俄然テンションが上がってきますね。そこで、『山型の分布(正規分布)モデルで上手く予測が立ちそうだ』と、えいやっとモデル化して進めてみることにしましょう。
ここで余談ですが、ここで大切なのは思い切りです。「なんで上手く予測が立ちそうだと思うの?」という思いを捨てて、「なんとなく合いそう!」という思い切りに身を任せることです。研究も実は同じで、“誰ひとり答えを知らない世界は、手探りでも進めてみることが大切”だったりします。
というわけで、次にこの山型の分布から乱数で(未来の変化率)を予測してみました。要するに、(未来の変化率)=(過去の変化率を真似た山型分布からのランダム値)で計算してみます。
おお! なんとなく“株価の推移”を予測できてそうですね! さて、本当はこのランダムが何パーセントくらいの信頼性があるのかなど、統計学的には調べることが山積みですが、まずはこれでひとまず満足しましょう。笑
補充ノート:このモデルの数学/物理的なやさしい解釈
あらためて、今回のモデルはあくまでも株初心者による “株価予測の自由研究” で、オモチャのような分析です。あまり過度な信用は厳禁です。ただ最後に、折角なら物理学者らしく「どんな意味のあるモデルなのか」を解釈していったん終わりにしておきます。
今回の使った“正規分布”は、(乱数値)=(中央値)±(振り幅)×(ランダム)で値を出してくれます。過去の株価の変化率を、正規分布でフィットした結果、
という計算をしていることになっていました。そして調べたところによると偶然にも、このモデルは金融工学の世界では「幾何ブラウン運動モデル」と呼ばれる、最も基礎的モデルだったようです。株価の数理分析の入り口に立った気分で、ちょっぴりワクワクしますね。
この手探りな自由研究を僕と共に楽しんでくださり、そして皆さんにとって、株価のデータ分析に興味を持つキッカケになると、僕はとっても嬉しかったりします。とりあえず、自分の計算した株価の予測への答え合わせの気持ちも込めて、サイゼリヤの株をまずは1万円分、ポチッと買ってみました。さて正解は1ヵ月後。つぎはどんな分析をしてみようかな。