14歳の自分に伝えたい「お金の話」(藤野英人)

14歳の自分に伝えたい「お金の話」/ 藤野 英人須山 奈津希

レオス・キャピタルワークスで「ひふみ投信」などのファンドマネージャーを務める藤野英人さん。日興フロッギーでは度々、お金や投資に関する大切な言葉をみなさんに伝えてくれていました。この連載では、そんな藤野さんの著書「14歳の自分に伝えたい『お金の話』」から一部を転載してお伝えします。

「お金」を知れば、「未来」が輝き出す

こんにちは。藤野英人です。

僕はレオス・キャピタルワークスという会社を経営しています。会社では投資信託を運用するファンドマネージャーの仕事もしていて、「投資家」と呼ばれることもあります。

投資信託? 投資家って? 聞き慣れないかもしれません。もう少し詳しい説明は後でするとして、つまり僕は「お金のプロ」として日々仕事をしています。

普段は大人向けに話をすることが多いのですが、この本では14歳のみなさんに向けて、「お金の話」を語っていきたいと思います。

「14歳に向けて」と言うと、「まだ働いてもいない14歳には、お金の話なんてする必要がないんじゃないか」という声が聞こえてきそうです。

ところが、決してそうではありません。早いうちからお金について学び、考えることには大きな意味があります。

例えば、お金には「社会の未来をつくる」という役割があります。

僕たちはモノやサービスを買うことを通じて、「好き・嫌い」の意思表示ができます。多くの人から「好き」を集められた会社は、社会の中で影響力を増していく。逆に、ほとんど誰からも「好き」を集められなかった会社はやがて社会の中から姿を消していく。つまり、僕たちが「何にお金を使ったか」というのが、社会の未来を決めてしまうのです。

もし、14歳のうちからこうした視点を持って、応援したい商品や会社に対して、お金を使うことができれば、みなさんが大人になったとき、社会は今よりもっと素敵なもので溢れていくでしょう。

今、お金について知るかどうかは、みなさんの未来を大きく左右する。大げさではなく、心からそう思うのです。

また、13歳でも、15歳でもなく、「14歳」にこだわったのにも理由があります。

14歳は学年でいうと中学2年生から3年生にかけての時期。もう子どもでもなく、かといって大人にもなりきれていない、とても曖昧な年頃です。

体も心も成長してきて、なんとなく大人が近づいてきているようだけれど、具体的なイメージは湧いていない。ふわふわと地に足がつかないような、視界不良の水中でもがいているような、未経験の苦しさを感じている人は多いのではないでしょうか。

実は、僕自身が14歳のとき、本当に苦しくて打ちのめされていたという経験があります。それまでの僕は勉強が得意でスポーツも楽しんでいる、活発な中学生でした。しかし、突然のスランプに襲われたのです。

今思えば、「成長痛」の一種だったのかもしれません。14歳の時期には、毎月1センチずつ身長が伸びていたので、骨や筋肉の成長に、内臓が追いついていなかったのでしょう。

原因不明の倦怠感や落ち込みが続き、勉強やスポーツに対する気力がみるみる落ちていってしまいました。大好きだった部活も休んだり、早退したりする日がポツポツと増えていきました。

体調不良で、外出する気にもなれなかったので、家で本ばかり読んでいました。このときの読書体験は人生に生きたと思っていますが、近代文学の闘病記を読んで「自分もいつか死ぬのかもしれない」とさらに落ち込むこともありました。

当然、成績も落ちます。憧れていた志望校の前に雲がかかり、遠のいていくようでした。「僕の人生はこのままずっとどん底かもしれない」と、将来にも絶望感が募り始めました。

元気はつらつ少年だった僕が塞ぎ込む様子を見て、両親も心配していました。

幸い、体の成長が徐々に落ち着き、15歳を迎える頃には自然と心身の不調が解消し、トンネルを抜けることができたのですが、暗い道の途中ではずっとモヤモヤしていました。

僕は基本的にポジティブでアクティブな人間なのですが、14歳の時だけは暗く沈んだ記憶に覆われているのです。人生でまさに〝絶不調〟を経験した初めてのタイミングが、14歳でした。

その頃の気持ちを振り返ってみると、将来について希望を持つこともできず、「絶不調でひとりぼっちの自分」と「社会」は分断されていました。そして、自分や社会の先にある「未来」も、自力ではどうしようもない、つかみどころのないものでした。

僕ほどではないにしても、同じようなウツウツ、モヤモヤを抱えている14歳は、きっと多いのではないでしょうか。

だから、僕は語りかけたくなったのです。あの頃の自分自身に。

この本では、14歳の頃の僕を現代に呼び寄せたつもりで、〝君〟と語りかけながら、話をしていきます。「現代」を起点にしているので、「暗号通貨」や「クラウドファンディング」など、僕が14歳の頃にはまだ登場していなかったものについても触れています。仕事のことや、人生のこと、世の中との関わり方……。こういった話を「お金」を通じて伝えていきたいと思います。

なぜ「お金」なのかというと、僕自身がお金からたくさんのことを学んできたからです。

お金を扱う仕事をし始めて30年が経ちますが、お金について考えることで、仕事や社会、そして人生そのものを広く深く見渡すことができるのだと、実感しています。

お金は僕たちに「フラットであれ」という教訓を教えてくれます。

お金は一部の人の元に集まって貧富の差を生むこともありますが、本来は、水のようにしなやかに流れる特性を持っています。

社会の隅々にまで行き渡って、循環を生み、素敵な未来をつくる夢を応援する。そんなパワーも秘めているのです。

僕が長年仕事にしている「投資信託」もまさにそう。

できるだけたくさんのお客さまから「すぐに使う予定がないお金」を預かって、まとまった資金にして、株式や債券に投資して運用し、利益を出して、お金を出したお客さまに還元しています。株式や債券を発行する人たちは、「やりたいことがあるのに、実行するための資金が自分のお金だけでは足りない」という事情を抱えている人たちです。

つまり、お金には必ず「人」の存在がひもづいている。夢がある人のもとに、お金を動かすことができる。

お金を出す人は「投資家」と呼ばれますが、その投資家とお金の関係もフラットです。北海道から沖縄までいろいろな場所に住んでいる、年をとった人も若い人も、100万円を出した人も1万円を出した人も1億円を出した人も、どんな人のお金もみんな平等に大切にしながら運用していく。

こういうお金の仕組みを知るほどに、世の中の見え方も変わっていきます。

僕は、「お金」について知るほどに、社会と関わることが楽しみになりました。

それにとても大切なことに気づいたので、ぜひみなさんに伝えたいと思ったのです。

14歳も、大人も、等しく「お金」と関わっているんだと。

この意味がすぐには分からなくても、本を読み終える頃には、きっとみなさんは何かを感じ取ってくれるはずです。

さあ、さっそく14歳の僕を呼んできて、「お金の話」を始めましょう。

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