シバタナオキさんによる「決算が読めるようになるノート」のフロッギー版第4回。今回取り上げるのは、2020年成長率1位に選ばれた新規上場企業スタメンです。スタメンの展開する従業員エンゲージメント事業とはどんなものなのでしょうか?
株式会社スタメン 2020年度12月期 通期決算説明資料(2021年2月)
成長可能性に関する説明資料 株式会社スタメン(2020年12月)
今回は、2020年12月に東証マザーズに上場した、株式会社スタメンの2020年度通期決算を読んでいきたいと思います。
この企業は、デロイトトーマツグループ主催の「2020年日本テクノロジー Fast 50」という企業成長率ランキングで1位を受賞しました。
スタメンは、「一人でも多くの人に、感動を届け、幸せを広める」と経営理念を掲げています。
そして、従業員エンゲージメント事業「TUNAG(ツナグ)」、コミュニティエンゲージメント事業「FANTS(ファンツ)」を展開しているのが特徴です。
従業員エンゲージメントとは、会社と従業員の「タテ」、および従業員同士の「ヨコ」の相互信頼関係が確立されている状況、と定義付けられています。
これは、待遇や環境など、「与えられるモノの上に成り立つ従業員満足度」とは異なる概念です。
欧米の大手企業では経営指標として取り入れられていることも多い?
コンサルティング会社の研究においても、「信頼関係の上に成り立つ従業員満足度」が企業の業績向上に大きな影響を与える、と明らかにされています。
欧米では広く浸透している概念であり、欧米の大手企業では経営指標として取り入れられています。スタートアップでも従業員エンゲージメントは以前より重要視されてきています。
従業員エンゲージメントは、「それぞれの従業員が安心して気持ちよく働けるようにすることで、パフォーマンスが上がれば、会社にも従業員にも得になる」という考え方です。
つまり、いかに従業員が安心して、高いパフォーマンスで働ける環境を提供できるかが問われているのです。
そのため、職場環境はもちろん、上司のマネジメントやコーチングのスキルなど、色々なことが評価されます。
従業員エンゲージメントは、欧米において大企業だけではなく、中小企業においても、非常に大事な考え方と言えるでしょう。
今回の決算の印象は?
スタメンが提供しているサービスは、大きく3つのソリューションに分かれています。
1つ目は、「現在の組織状態が分からない」という課題に対し、「組織状態の可視化」を提供するエンゲージメントサーベイ。
2つ目は、「何をすれば良いかが分からない」という課題に対し、「打ち手(社内制度)の企画・設計」を提供する組織改善コンサルティング。
3つ目は、「なかなか成果が上がらない」という課題に対し、「施策の自走化と継続的な運用改善」を提供する社内制度運用クラウド。
実際の細かい機能としては、「クローズドSNS」や「社内制度一覧」、「組織サーベイ」などがあります。
一方、コミュニティエンゲージメント事業「FANTS」は、2020年5月にローンチしたオンラインサロンプラットフォームです。これは、コミュニティ上に必要な機能をワンストップで提供するサービスとなっています。
それでは、業績を見ていきましょう。2020年通期の売上が6億2000万円と、前年同期比+56.6%で伸びており、営業利益が2100万円です。
SaaSの40%ルールはクリア、営業利益も黒字転換しています。
SaaS(Software as a Service)とは、ソフトウェアをパッケージで販売するのではなく、インターネットを経由して「月額いくら」など利用期間に応じて使用料金を徴収し、定額のサブスクリプション型により売上をあげるビジネスモデルのひとつ。
シリコンバレーの投資家の間で一般的とされている赤字についての考え方。企業の決算において、「売上高の前年比(YoY)成長率」と「営業利益率」の2つの合計が40%を超えていれば許容範囲とする。
SaaSビジネスとして見ると非常に良い決算でした。今後はこの成長率をどこまでキープできるかがポイントになります。
コロナの影響について
続いて、セグメント毎の主要KPIを見ていきましょう。
従業員エンゲージメント事業「TUNAG」は、2020年の4クールの時点で、利用企業数が323社、平均MRRが16万円となっています。
2019年までは、クール毎に約10%以上伸びていたものの、2020年は2クール辺りから5%前後に落ち込んでしまいました。
この会社に関しては、コロナの影響がプラスとマイナスの両方あるようです。プラスの面は、リモートで働く人が増えたので従業員のメンタルケアの必要性が高まったことでしょう。
一方で、営業は厳しくなったのも事実です。恐らく多くの日本企業は、リモートでいきなり新しいツールを導入することはできません。
そういった意味で、商談はできたとしても「今はリモートで色々大変なので、コロナ禍が終わってからもう一度お話できませんか」といったものになっているはずです。
コロナによるプラスとマイナスの影響が、両方反映されたのがこの結果なのではないでしょうか。
また、MRRが16万円なので、恐らく中堅企業が中心になっているのだと思います。
平均すると、1顧客あたり1ヵ月16万円払っている、ということになります。
売上ストック比率から読み解けることとは?
売上ストック比率の推移を見ていきましょう。
水色の部分がストック収益、黄色の部分がフロー収益です。折れ線グラフがストック比率を示しています。
このグラフからは、ストック比率が90%と非常に高くなってきたことが分かります。
また、フロー収益の割合が減っているので、新規の獲得がスローダウンしているとも言えるでしょう。
最も大事なのは、水色の部分が増えているかどうかです。水色の部分が右肩上がりであれば、黄色の部分に多少ばらつきがあっても、あまり気にしなくて良いと思います。
今後の成長戦略でキーとなりそうなポイントは?
今後の成長戦略に関して、導入実績の成長に伴う問い合わせ案件の増加や、大企業からの受注のさらなる拡大などが挙げられています。
コロナ禍で一番ヒントになりそうなポイントとしては2つあります。1つ目は、大企業をどれだけ取れるかです。
現在MRRが16万円と少し低い印象ですが、大企業が増えれば当然MRRも上がってきます。これがどのくらい上がるかがキーになるでしょう。
もう1つは、新規顧客の獲得スピードを落とさずに維持できるかだと思います。
コロナ禍においては、営業面はマイナスになるので、コロナが終わった後グロースがどのくらい伸びるのか見ていきたいです。
今後FANTSが成功するためのポイントは?
次に、コミュニティエンゲージメント事業「FANTS」について見ていきましょう。
2020年5月にリリースされ、まだ1年経っていないので、まだまだこれからといったところでしょうか。12月の時点での運用サロン数が15件、平均MRRが6万4000円でした。
オンラインサロン事業の領域では、運用サロン数が700を超えるようです。DMM オンラインサロンや、CAMPFIREコミュニティなど、既にレッドオーシャン化しつつある領域に思えます。
今後、後発とも言えるFANTSが成功するためのキーポイントは、クリエイターの獲得戦略が全てでしょう。サロンのオーナーから見た場合の売上が、数十万円くらいになるときつくなるはずです。
しかし、コミュニティやファンベースで、月数十万円の売上を出す人はそういません。なかなか簡単なことではないので、そういったクリエイターをどうやって獲得していくのかがポイントになります。
カスタマーサクセスは具体的に何にあたる?
カスタマーサクセスは、営業のプロセスの1つです。アメリカでは、営業のプロセスが大体3つくらいに分かれています。
まず最初の人がリードを獲得し、2番目の人がひたすら案件をクローズします。案件がクローズされ、実際に契約が始まると、お客さんがカスタマーサクセスの人の担当になります。
カスタマーサクセスの基本的な仕事は、既存顧客へのサポートです。ビジネス的なゴールとしては、解約防止とアップセルをしていくことの2つになります。
大体カスタマーサクセスのKPIはこの2つです。仕事としては、営業のプロセスの中の一番後ろの部分、と覚えて下さい。
チャーンレートは決算書から分かる?
チャーンレートは解約率を指しますが、今回の決算書には開示されていません。ただ、サービスとしては一旦導入されると解約されにくいのではないでしょうか。
このようなサービスを入れ替えたり、途中で辞めたりするのはなかなか大変です。1回入ってしまえば解約されにくいサービスだと思います。
その他、注目すべき数字やポイントは?
上の画像にあるように、4つのKPIを月次で開示していくのが非常に面白いです。これはかなり自信のある、大胆なIR戦略だと思います。
この会社は、IRを前のめりに行なっていて、とても積極的な印象です。
しかしこれは1回やってしまうと、悪い時も開示しなければならないので、本当に勇気の要ることです。
そういう意味では、かなり業績に対してのコミットが強い会社と言えますね。
まとめ
以下、重要なポイントをまとめていますので、振り返りにご活用ください。