2020年に株価が6倍になったアメリカのEVメーカー・テスラ。約46万円という破格のEVで世界を驚かせた中国のEVメーカー・ウーリン。海外の自動車業界の動きに注目が集まりますが、実は日本にも、モータや電池など次世代の車に必要な部材で、世界をリードする企業があります! そこで今回は、世界に誇る技術力で次世代自動車を支える企業をご紹介します。
そもそも、次世代自動車とは?
ガソリン車に代わる次世代自動車は、二酸化炭素の排出が少ないことが特徴のひとつ。「ハイブリッド車(HV)」「プラグインハイブリッド車(PHV)」「電気自動車(EV)」「燃料電池車(FCV)」の4種類があります。
なかでもエンジンが不要なEVは、ガソリン車の7割程度の部品数で作ることができることから、よりスピーディーな供給網の構築が求められています。また家電業界など異業種企業の参入が考えられ、競争環境は厳しくなりつつあります。
高品質のモータで世界シェアトップを目指す【日本電産】
どんな自動車にも「走る・曲がる・止まる」の機能は欠かせません。総合モータメーカーの「 日本電産 」は、「曲がる・止まる」ためのモータで世界シェア1位を誇ります。今後は「走る」を担うトラクションモータで世界トップを目指すとしています。
積極的なM&Aと経営力で成長してきた同社は、トラクションモータ、インバータ、ギアを一体化し、小型化・軽量化に成功。このトラクションモータシステムは、小型車から大型SUVまで、世界の車両セグメントを98%カバーできると同社は見込んでいます。
中国の自動車メーカーが手がけるEVの受注も獲得し、2021年1月の時点で累計販売台数は10万台を達成。今後のシェア拡大に期待がかかります。
自動車に限らず、スマートフォンや家電、工場にいたるまで、様々なモノを動かすモータは、まさに社会を支える縁の下の力持ち。それだけに、世界の電力の約50%をモータが消費していると推計されています。電力消費量の削減が世界的に求められるなか、少ない電力で大きなパワーを生み出す高品質・高効率な同社のモータは、省エネ化の牽引役としても要注目です。
車の頭脳をつかさどる半導体のトップメーカー【ルネサスエレクトロニクス】
モータを動かすには、半導体も重要です。半導体は、電気を通したり止めたりするスイッチの役割を担います。自動車に搭載される半導体は主に3つあり、このうち、「 ルネサスエレクトロニクス 」は車載用マイコンで世界シェア首位。EV1台あたりの半導体使用量はガソリン車の2倍で、今後自動運転などの技術が進むにつれて、車に搭載される半導体もさらに増えるでしょう。
新型コロナウイルスの影響による自動車メーカーの減産を受け、ルネサスエレクトロニクスを含む半導体メーカーも自動車向けの製品を絞りました。ところが、中国を中心に自動車市場が急回復したことで、車載用半導体の需給はひっ迫した状態が続いています。
足元では、同社の茨城県の工場で火災が発生し、半導体不足に追い打ちがかかる状況ですが、早期再開に向けて復旧作業が進められています。
1回の充電で1000km走れる!? 全固体電池【三井金属鉱業】
モータや半導体に使う電気を蓄える電池も、電動車を作るうえで重要な部品です。現在の主流は、リチウムイオン電池(LiB)という繰り返し充電ができる電池です。しかし、LiBは充電に時間がかかり、ガソリンを動力源とするHVやPHVに比べて走行距離が短いことが課題でもあります。この弱点を克服する次世代の電池として注目されているのが、「全固体電池」です。
HV用電池材料(水素吸蔵合金)や車のドアロックで世界シェアトップクラスの「 三井金属鉱業 」は、2016年に全固体電池向け「固体電解質」の開発に成功。全固体電池は、現在主流のLiBよりも熱に強く、10分程度で急速充電が可能になると言われています。
またエネルギー密度が高く、現行EVの航続可能距離(1回の充電で走れる距離)が300km程度であるのに対し、全固体電池を使用した場合は1000kmに伸びるとも期待されています。同社は、2019年に「固体電解質」の量産試験用設備の導入を決定し、本格量産時を見据えた準備も進めています。
全固体電池は、三井金属鉱業のほか、大手自動車メーカーや電池や素材などにトップクラスの技術を持つ企業、大学や研究機関が協力して研究を進めています。日本の新たな成長産業になる可能性もあり、実用化に向けた動きに注目したいですね。
トップクラスのセパレータで電池の発火を防ぐ【旭化成】
全固体電池に期待しつつも、現在主流のLiBで着実にシェアを伸ばしている企業もあります。LiBは、主に4つの部材(正極材、負極材、電解液、セパレータ)から構成されますが、「 旭化成 」は、セパレータという部材で世界トップクラスのシェアを誇ります。
セパレータは、電池が過熱して発火しないように制御する絶縁体の役割を担います。安全性を左右する重要な部材で、高い技術力が必要です。同社のセパレータの出荷数量は2020年10−12月期に前年同期比50%強と大きく伸長しました。今後は約300億円を投じて生産工場を増設し、セパレータの生産能力を増強させるとしており、さらなるシェア拡大に期待がかかります。
同社は総合化学メーカーでありながらも、競合他社と比べて石油化学への依存度が低いことも特徴のひとつ。全国で9ヵ所もの水力発電所を所有していたり、石炭火力発電所を天然ガス火力発電所に切り替えるなど、環境負荷を抑制する取り組みにも力を入れています。
走る空気清浄機!? 究極のエコカーを手がける【トヨタ自動車】
環境に優しい次世代自動車として注目を集めるEV。ただ、充電のための電気を火力発電などでまかなう場合は、間接的に二酸化炭素を排出していると言えます。その点で「究極のエコカー」と注目されるのが、燃料電池自動車(FCV)です。
「 トヨタ自動車 」は、酸素と水素で発電し、EVよりも短い充填時間で長距離走行が可能なFCVの特徴に注目しました。研究開発を進め、2014年には、世界に先駆けて量産型FCV「MIRAI」を展開。
さらに、昨年12月に発売した新型「MIRAI」は、FCVならではの特徴を活かし、発電のために取り入れた空気をきれいにして排出する空気清浄システムも導入しました。走行中に二酸化炭素を排出しないばかりか、走れば走るほど空気をきれいにするという、環境のために一歩踏み込んだ機能も提供しています。
また、同社は「 いすゞ自動車 」と資本提携し、トヨタグループの「 日野自動車 」も合わせた3社で、トラックなど商用車に対する、次世代技術やサービスに対応するための技術開発を進めています。水素社会の実現へ向けた今後の活躍にも期待したいですね。
次世代自動車は、単なる移動手段にとどまらず、私たちの生活をより便利で豊かにしてくれる可能性を秘めています。大きな変革期を迎えている自動車業界に、注目してみてはいかがでしょうか。