最も賢い億万長者(下)

今日からお金賢者になれる「1分書評」/ 日興フロッギー編集部

バフェットをしのぐ投資家シモンズとその仲間たちのノンフィクション。ウォール街でもっとも成功したヘッジファンドはいかにして生まれたのか? 人間ドラマも佳境に入る下巻はページをめくる手が止まりません。
【1分書評】「最も賢い億万長者(上)-数学者シモンズはいかにしてマーケットを解読したか」グレゴリー・ザッカーマン著(ダイヤモンド社)を読む

クオンツ投資は今の主流に? でも、シモンズ級の成功者はいません

下巻で描かれるのは「運用額が大きくなればなるほど利益が減る!」というファンドの致命的欠陥を乗り越え、大成功するプロセスから現在にいたる葛藤の数々です。シモンズ本人よりも新たに入った仲間たちの描写が多いのですが、これが赤裸々で実に面白い。

チームには「権力大好き!」とか「罵詈雑言が多い」とか周囲の評判がイマイチの人間もいますが、著者は彼らを深掘りします。たとえば、「権力好きな男」は自分の力を見せつけたいがあまり、未承認のプログラムを動かし、逆にウイルスをバラまいてしまう。入社早々、厄介者扱いされますが、そんな彼がやがて会社の窮地を救ったり。イヤだと思っていた人物が「実はいいヤツでは?」となる展開も多く、王道漫画を読んでいるかのような錯覚に陥りました。シモンズ・チームの採用条件の一つは「賢いけど(今の職場で)不幸せそうな人」というのも興味深いです。

さて、シモンズが30年前から始めていた投資法(数式を用い、市場をコンピューターで予測する)は近年、参入者が急激に増えました。従来型の投資(情報を集め、それをトレーダー自身が分析する)は情報自体を誰でも手に入れられる時代とあって、ライバルに先んじること自体が難しい。数式を打つだけで何百万もの株式予測を検証できる魅力には抗いがたいものがあるのでしょう。

が、ライバルは増えてもシモンズ級の成功者はいまだ現れません。株売買はビッグデータであるためにノイズも莫大。AIで楽曲を選んだり、人の顔を認識したり、車を運転するよりもはるかに難しいらしいのです。

シモンズ自身は「感情や直感に頼るのを避ける」ことが目的の一つだったようですが、その実、感情に揺さぶられることも実はいまだに尽きない模様。株価が落ちるたびに「腹にパンチを食らったような気分」になり、「いつになったらこの苦しみが終わるのか」と悩むのだそうです。先のチームメイトを含めズバ抜けた能力の億万長者たちもやはり人間であるという、当たり前のことを感じた読後感でもありました。