最も賢い億万長者(上)

今日からお金賢者になれる「1分書評」/ 日興フロッギー編集部

株式市場に数学を持ち込み、バフェットを凌ぐリターンをあげたトレーダー、ジム・シモンズ。本書は驚異のヘッジファンドを作った男とその仲間たちの人間ドラマです。天才的頭脳の持ち主の、これまた一筋縄ではいかない稼ぎ方が垣間見れます。

なぜ、科学者出身の素人集団がウォール街で成功を収めたのか?

ジム・シモンズとは誰なのか?

名前を聞いて「ああ、あの人ね!」とピンとくる人は少ないと思います。彼の有するヘッジファンドは32年間で年平均66%(!)と聞いたこともないようなリターンをあげ、運用収益は10兆7000億円超え。あのバフェットやジョージ・ソロス、ピーター・リンチですら及ばない、投資界の巨人です。

シモンズは40歳の時に数学者からトレーダーに転身し、投資会社のルネサンス・テクノロジーズを創業しました。その成功に際しては秘密を貫くことで知られ、本書の取材も当初はかなり難航した模様。依頼を無視されるか断られるかの連続のなか、著者の不屈の精神というのか、ついに刊行した上下巻組の内容はかなり濃いです。シモンズのみならず、会社を引っ張った人物(その多くが科学者)への周辺取材も興味深く、読み応えのあるノンフィクションに仕上がっています。

投資を始めたシモンズは一般的な経済統計をすべて無視し、仲間たちと数学的なアプローチを試みます。マクロ変数を探すことで株価を予測したり、金融をカオス系の一つとして扱ってみたり、確率微分方程式を取り入れたりと非常にチャレンジングです。ちなみに、彼がトレーダーになる以前に働いていた研究所では「悪いアイデアは良い。良いアイデアはすごく良い。アイデアがないのはとんでもない」がスローガンだったとか。偶然にもシモンズの投資ビジネスを暗示していたように思えます。

上巻で描かれるのは、シモンズが国防分析研究所でソビエト連邦の暗号解析をしていた時代に始まり、投資に魂を奪われた若き日から創業、試行錯誤しつつ業績が上がってきた頃に息子を亡くすところまで。

その人生は決して順風満帆とはいえず、「学者が金儲けに走るなんて!」と元職場の同僚からつまはじきにされてしまったり、投資の過程で大損し「とてつもなく苦しい」と愚痴をこぼしたり。人間的なエピソードも多く、感情移入もしやすいです。