お客様を巻き込みながら、「世界一面白いチョコスナック」を目指したい【後編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部

40年以上愛されるロングセラー、「きのこの山」と「たけのこの里」。お菓子好きなら、一度は食べたことがあるでしょう。トータルで売上230億円という巨大ブランドは、どのように誕生し、人気を保ち続けてきたのでしょうか。明治でマーケティングを担当する船山慶さんと、開発を担当する瀨戸正輝さんに伺いました。
コロナ禍でも、売上が好調。 ロングセラーの強さを実感しました【前編】を読む

熱戦となった、総選挙2019

――「きのこの山」と「たけのこの里」といえば、長らく「どっちが好きか?」論争があります。

船山さん:
この2つはもともと兄弟ブランドとして売り出し、育ててきました。実は社内でも、「きのこの山・たけのこの里、どっち派?」というのは、よく話題になるんですね。お客様の間でも長らく論争が起きていまして、特にインターネットの時代になってからは、ますます「どっち派?」という話題が盛り上がりました。

せっかくなので、皆様の論争に当社も乗っからせていただこうと。2001年に、ウッチャンナンチャンのお二人にそれぞれの党首になっていただき、「きのこ・たけのこ総選挙キャンペーン」を実施しました。

「どっち派?」論争について語る、マーケティング担当の船山さん

ナンチャンがきのこ党党首、ウッチャンがたけのこ党党首という、わかりやすい対立構図がウケたんでしょうね。キャンペーンは非常に盛り上がり、100万票以上の投票をいただきました。この時の勝者は、たけのこの里でした。

その後、2018年、2019年の2度にわたって、「きのこ派・たけのこ派 国民総選挙」を行いました。松本潤さんに選挙委員長になっていただき、従来の「どっち派?」という問いかけに加えて、「好きな食べ方」を話題にするなど、さらに踏み込んだ争点が争われました。

――2019年の総選挙では、きのこの山が勝利を収めました。

船山さん:
きのこの山の初勝利でした。たけのこの里も、ご病気からカムバックされた党首・美輪明宏さんの元で健闘しました。しかし最後は松本さん率いる、きのこの里が追い込みましたね。伝説に残る熱戦が繰り広げられました。

きのこ党が熱戦を制した、2019年の国民総選挙

――2020年は総選挙ではなく、「きのこの山・たけのこの里 国民大調査」と銘打って盛り上がっています。

船山さん:
ご想像の通り、2020年の国勢調査に思いきり乗っかった企画でして(笑)。今回は初めて、47都道府県ごとにきのこ派・たけのこ派、それぞれの愛の深さを調査しています。エリアごとの皆様の嗜好を探ることで、今後のマーケティングにも生きてくると期待しています。

回答すると、きのこ派・たけのこ派の愛を分析してくれる「国民大調査」

10月時点で約16万人の方にご参加いただいていますが、残念ながら、まだ1億人に達していません(笑)。2020年12月14日(月)まで調査し、1月に結果発表のイベントがあるので、それまでにもっと盛り上げていきたいですね。ぜひ皆様のきのこ愛・たけのこ愛をお聞かせください!

いかに顧客を巻き込むか

――実際の売上はどっちが勝っているんですか。

船山さん:
店頭での売れ行きは、きのこの山・たけのこの里が4:6くらいのウエートですね。きのこ派はたけのこ派より少ないですが、根強いファンが多く、むしろ愛は深いんじゃないかとも言われています。数だけでは、勝敗はなかなか決められません。

私が思うに、「きのこ派・たけのこ派どっち?」というのは、コミュニケーションの手段なんです。極論を言いますと、血液型のように自己紹介で「私はどっち派です」というのが常識になるくらい、世間に広めたいですね。いや、もうかなり近づいていると個人的には思っていますが……。

きのこの山・たけのこの里は日本人の誰もが知っているブランドですから、ネタにしやすい。その強みを生かし、いかにお客様に楽しんでいただくかを考えるのが、われわれマーケティングの仕事です。

――そのために気をつけていることはありますか。

船山さん:
当社はどちらかというと真面目で、トリッキーなことはしない会社なんですね。その中でも、きのこの山・たけのこの里というブランドは、遊びの幅が広い。お客様が一緒に盛り上がってくださるので、いろんなことに挑戦できるブランドです。

ですから伝統的なコミュニケーションだけではなく、お客様を巻き込んで元気になっていくコミュニケーション、きっかけづくりを心がけています。方法としては、テレビCMのようなマスに訴えるコミュニケーションから、SNSなどを使い、お客様個々人に気軽に語りかけるコミュニケーションにシフトしています。

次の目標は、世界一

――商品が短命化している中、発売から40年以上も愛される秘訣はなんでしょうか。

瀬戸さん:
ロングセラーであり、メガブランドなので、商品名はほとんどの方が知っています。でもそれで新鮮さがなくなるかというと、そうじゃない。

例えばきのこの山ですと、一口で食べる人、傘の部分を先に食べてクラッカーを後で味わう人など、「食べ方」を話題にするだけで、不思議なくらい盛り上がります。細かい要素を次々とお客様が発見し、楽しんでくださる。そういう懐の深さが、ブランドの特徴かなと思います。

ロングセラーの秘訣について語る、開発担当の瀬戸さん

船山さん:
本当にそうだよね。例えば、今年の期間限定商品として全国で発売した、きのこの山濃い抹茶味(6/16発売)・たけのこの里まろやか抹茶味(7/14発売)。その際、きのこの山は京都の宇治産、たけのこの里は愛知県の西尾産の抹茶と、有名な2大産地の抹茶を使用しました。

するとネット上で、「今度は抹茶で対決だ!」「宇治産と西尾産、どっち派?」と論争が巻き起こったのです。こちらからプロモーションをかけたわけではなかったので、とても驚きました。

論争の元となった「きのこの山」抹茶味

われわれが必死に育てるというよりは、ちょっとしたきっかけでお客様がどんどん話題にし、盛り上げてくださる。「自走するブランド」と言えばいいんでしょうか。これが40年間愛されてきた強さなんでしょうね。

――盤石な地位を築いたブランドですが、これからの目標はありますか。

船山さん:
きのこの山・たけのこの里のユニークな形、おいしさ、ほっこりするコンセプトは、他に類を見ないと自負しています。当面は「日本一面白いチョコスナック」を目指して頑張ってきましたが、正直、その称号は手にしつつあるのかなと。そろそろ「世界一」を狙うべきだと、個人的に志を新たにしております。

実際、米国向けには2007年からきのこの山を「CHOCOROOMS」という名前で販売し、好評です。アジア圏への輸出も増えていまして、きのこの山・たけのこの里ともに、好調に推移しています。

米国で人気を得ている「CHOCOROOMS」

マーケティングとしては、きのこの山・たけのこの里ブランドを、面白いチョコスナックとして世界にもっともっと広めていくのが目標です。開発の方からは、どう?

瀬戸さん:
そうですね。国内ではすでに多くの方が食べたことがある商品ですが、もっと上を目指せるのでないかと思います。老若男女の100%、食べたことがない人がいないくらいにまで、商品を浸透させたいですね。そのためにはどんな形状、味がいいのか。開発の現場から、もっと突き詰めてみたいです。

国内での可能性を今よりさらに広げながら、海外でも通用するような品質向上を目指す。それが今の目標です。

――ちなみにお二人は、「どっち派」ですか。

船山さん:
たけのこ派です。でも担当になってからは、きのこの山もおいしいなと思うようになったので、食べる頻度は同じくらいですね。

ファン垂涎! たけのこ党の党員証を見せてもらった

瀬戸さん:
僕もたけのこ派です。あ、でも僕も両方好きですし、食べていますよ(笑)。どっち派の方にも喜んでいただける商品を作れるよう、頑張っていきたいです。

明治HD