コロナ禍でも、売上が好調。 ロングセラーの強さを実感しました【前編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部

40年以上愛されるロングセラー、「きのこの山」と「たけのこの里」。お菓子好きなら、一度は食べたことがあるでしょう。トータルでの売上230億円という巨大ブランドは、どのように誕生し、人気を保ち続けてきたのでしょうか。明治でマーケティングを担当する船山慶さんと、開発を担当する瀨戸正輝さんに伺いました。

「きのこの山」誕生トリビア

――「きのこの山」と「たけのこの里」といえば、誰もが知っているロングセラーのお菓子です。今回は、そのマーケティングと開発を担当するお二人にお話を伺います。

船山さん:
1999年の入社以来、営業とマーケティングひとすじです。現在はカカオマーケティング部で、きのこの山・たけのこの里と、ナッツ系チョコレートを担当しています。

マーケティング担当の船山さん

瀬戸さん:
私は2013年に入社しまして、ずっと営業だったのですが、この4月にカカオ開発部に異動となりました。まだ日が浅いのでうまくお答えできるか心配ですが……よろしくお願いします。

開発担当の瀬戸さん

――早速ですが、きのこの山・たけのこの里にはいろんなトリビアがあるそうですね。まずは、きのこの山の誕生エピソードから教えてもらえますか。

瀬戸さん:
きのこの山が作られたきっかけは、1969年に発売された「アポロ」の製造ラインの活用でした。機械が空いている間に他の商品を作れないかと考え、「アポロにクラッカーをつける」というアイディアが出たのです。試行錯誤の末、1975年にきのこの山が完成しました。

――そう言われてみると、きのこはアポロの形に似ていますよね……! こういう発想は、よくあるんですか?

瀬戸さん:
いえ、非常に珍しいです。たいていは開発部かマーケティング部から「こんな商品があったらいいんじゃないか」とアイディアが発信されて、商品化に至ることが多いです。かなり古い商品なので、当時の詳しい背景はわかりませんが、工場からアイディアが上がってくるパターンはあまり見たことがありません。

開発期間の長さも、きのこの山は異例です。きのこの山は5年かかったと聞いています。味や形の設計に苦労しながらも、あきらめなかったんですね。

その結果、今も愛されるロングセラー商品が生まれたのですから、当時開発に関わった方々には感謝しかありません。

実はライバルがいた!

――きのこの山は、「のどかな里山」というコンセプトがヒットの要因だったとか。

船山さん:
のどかな田園風景は、多くの人が「いいな」と感じますよね。発売当時、日本は高度成長のまっただ中。その反動で、人々が自然や田舎に郷愁を感じていました。そんな時代背景もあり、「のどかな里山」というコンセプトが好感をもって受け入れられたのだと思います。

発売された当時の「きのこの山」パッケージ

マーケティング的には、名前も良かった。チョコレートと、サクサクした食感が楽しめるクッキーを組み合わせるのは王道で、誰からも愛される味なんですね。ですから他社含め似た商品がたくさんありますが、そのほとんどがカタカナの商品名です。「きのこの山」のような、わかりやすい日本語の商品名は珍しく、インパクトがありました。

――きのこの山のヒットから4年後、1979年に第2弾として「たけのこの里」が生まれました。両者はいまも良きライバルですよね。そして実は、第3弾として「すぎのこ村」というお菓子があったとか。

船山さん:
「すぎのこ村」は1987年に発売され、1991年ごろまで店頭に並んでいました。最初は少し売れたようなんですが、きのこの山・たけのこの里に比べると、ちょっと未熟だったというか……。販売を続けるには、売上が足りなかったんですね。

かつてのライバル「すぎのこ村」

――すぎのこ村も、のどかな田舎のイメージで、チョコとクッキーの組み合わせです。きのこの山・たけのこの里と同じ戦略に見えますが、何がいけなかったんでしょうか。

船山さん:
商品の構造が、若干……某超有名チョコスナックを彷彿とさせますよね。

――なるほど(笑)。

船山さん:
なので、既視感があったのだと思います。逆に言うと、きのこの山・たけのこの里はどちらも見た目が非常に独特です。特にきのこの山は、立体商標を取っているほど。

それぞれのお菓子のユニークな形と、パッケージングをひっくるめた世界観によって、ブランドが成り立っているんですね。今は両方を合わせて、230億円というメガブランドにまで育っています。そういう意味では、すぎのこの村は少しオリジナリティが弱かったのかなと思います。

危機に強い、定番商品

――昨年、11年ぶりにきのこの山・たけのこの里のリニューアルが行われたそうですね。

瀬戸さん:
ロングセラーとはいえ、人々の嗜好性は変わるので、時代に合わせたリニューアルをその都度行っています。今回は、クラッカーやクッキー部分の塩の量を増やし、チョコレートとの味のバランスを調整しました。以前よりさらに後を引く、どんどん食べ進めたくなる味わいになっています。

――反響はどうですか。

船山さん:
おかげさまで昨年のリニューアル以来、売上はずっと好調です。この機会に久しぶりに食べた方が「なんとなく止まらない」おいしさを実感し、リピートしていただいているのではないかと推測しています。

さらに今年の4月・5月は、新型コロナウイルスの流行でステイホームとなり、家庭内でのお菓子の消費が増えました。それが追い風になり、2020年4−9月は前年比110%超と、非常に好調です。

――コロナ禍では、定番商品が強かった?

船山さん:
そうですね。逆にいうと就業中に食べるようなオンタイムの商品が悪かったですね。オフィスに行かなくなる方が増えたので、仕事中にちょこちょこ食べるようなグミやガムの売上が急減し、厳しい状況でした。

一方で好調だったのが、ロングセラーブランドや、大袋のファミリータイプの商品です。テレワークしていると、よくわからないけどお菓子、食べちゃいますよね。朝ごはんを食べたはずなのに、10時くらいには小腹が空く。そういう時、人は奇をてらったものより、安心感のあるものを選ぶ傾向があります。

また、ステイホーム中は家族が一緒にいたので、特定の誰かが好きなものというよりは、みんなでおいしく食べられるものが選ばれました。こうした時代背景に、きのこの山・たけのこの里は非常に合っていました。この流れは、緊急事態宣言が解除された後も続いています。

――お客様に選ばれる定番があって、良かったですね。

船山さん:
本当にそうですね。いざというときにお客様のニーズに応え、寄り添うことができたのは、定番商品のおかげです。

私は入社以来、営業・マーケティングとしていろんな商品を担当してきました。その中できのこの山・たけのこの里を担当するようになり、「皆様から愛されているブランド」だなあと感じる場面が多々ありました。コロナ禍で、そんなブランドの強さを再認識しましたね。

――長く愛されるブランドの秘訣、まだまだありそうです。次回は「きのこの山・たけのこの里、どっちが好き?」という、ロングセラー始まって以来の論争に切り込みます!

明治HD