「コーヒー経験値の高まりから『マウントレーニア』の役割も変化してきた」【後編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部

いまやスーパーやコンビニで日常的に目にするチルドカップコーヒー。市場を築いたのが森永乳業の『マウントレーニア』であることはご存じだろうか。カフェブームの何年も前にカフェラテを持ち込み、チルドカップコーヒーという市場を開拓した。93年の発売以来、首位を走り続けるブランドについてマーケティング開発部の田中さんに伺った。
「はじまりは『日本に新しいコーヒー文化を持ち込むこと』でした」【前編】を読む

日本のコーヒー文化の潮流に応じて

――チルドカップコーヒー市場は現在1000億円規模。うち1/3近くを『マウントレーニア』が占めています。トップブランドであり続けるためにどういった取り組みをされてきたのでしょうか。

成長のフェーズを考えると、大きくわけて3つあります。

最初は93年の発売当時。前編でも触れましたが、チルドカップコーヒーの市場も、エスプレッソとミルクの「カフェラテ」という飲み物すらなかった時代です。市場を開拓するためにジョディ・フォスターさんを起用し、海外のスタイリッシュなイメージとともに新しいコーヒー文化の到来を感じさせるマーケティングを行いました。

『マウントレーニア』のマーケティング担当・田中さん

第二のフェーズは、カフェラテ自体のユーザー認知も確立してきた頃合いです。

それまでハリウッド女優をCMに起用することで新しい文化の到来を強調してきましたが、09年からは日本の俳優さんにご出演頂き、『マウントレーニア』というブランド定着に移行させていきました。市場背景としても海外のカフェチェーンが上陸し、カフェ文化が日本でも成熟しつつあった時代。”海外への憧れ”から”日常のパートナー”へ『マウントレーニア』のポジショニングを変えていったんですね。

パッケージデザインを大きくリニューアルしたのもこの頃です。当初はカフェラテという飲み物としての浸透をはかるために『カフェラッテ』のロゴを目立たせるようなデザインでしたが、以降は『マウントレーニア』というブランド名を押し出すようになりました。

左が初代、右が現行。パッケージデザインも成長フェーズで変更。

第三のフェーズは、お客さまのコーヒー経験値の高まりと嗜好の多様化というムーブメントの到来です。

15年頃より、サードウェーブ・コーヒー(注:豆の素材・焙煎・淹れ方などにこだわったコーヒー文化)という本格志向のスペシャリティコーヒーが賑わい始め、多様化が進みました。また、この5年ほどでコンビニのカウンターコーヒー市場が形成されたことにより、コーヒーはより身近な存在となりました。

このようにお客様のコーヒー経験値が高まってきたことから『マウントレーニア』でもより製法や原料にこだわった『スペシャリティ』シリーズを打ち出しています。

RA(※レインフォレストアライアンス)認証豆を100%使用し、コーヒー規格の2倍量の豆を使用した『ディープエスプレッソ』や低温抽出製法で雑味のないすっきりとした飲み心地の『コールドブリュー』等々。ちなみに、『コールドブリュー』は個人的にもオススメです! これらのシリーズは“自分好み”と表現いただくなど、本格感を求めるお客様にもご好評いただいています。

通好みのユーザーにも評価の高い『ディープエスプレッソ』と『コールドブリュー』

――『スペシャリティ』と合わせ、現在、『スタンダード』『シーズナリティ』の3つのシリーズがありますが、購買層は少しずつ違うそうですね。

はい、シリーズや商品によってターゲット・購買層は異なりますね。

ブランド全体としては30代が中心で男女はほぼ半々、RTD(レディー・トゥ・ドリンク)コーヒーの中では女性層が多い点が特色です。

『カフェラッテ』など定番商品の『スタンダード』シリーズ、本格派向けの『スペシャリティ』シリーズに対し、『シーズナリティ』はコーヒーのエントリー層向けの商品になります。こちらは季節限定の商品でコンセプトは「遊び心とときめき」。コーヒーの苦みが苦手な方や若年層に向けて苦みを抑えた商品を展開しており10代の方の購入も多いです。

いずれのシリーズもコーヒー鑑定士の資格を持った社員がコーヒー豆を選定し、焙煎まで考えて味をしっかり作り込んでいます。

新しい市場の開拓に向けて

――ユーザーの声が商品開発に反映されることも多いのでしょうか?

そうですね、常に参考にしています。コーヒーの動向だけでなく、お客様の生活全般のトレンド・嗜好の変化もヒントにしています。今秋発売した『ソイラテ』は昨今のヘルシーなライフスタイルを好む方に向けて開発したものですし、『デカフェ』もお茶を含めたカフェインレスのニーズの高まりを受けて発売に至りました(※いずれも『スペシャリティ』シリーズ)。『デカフェ』では「コーヒーは好きだけど妊娠を機にカフェインが取れなくなりました」という声や「コーヒー好きで1日に何杯も飲むけど体が心配」というお声もヒントに、本格的なコーヒー感がありながらも97%のカフェインカットを実現した商品です。

ユーザーのニーズ・トレンドを反映した『ソイラテ』と『デカフェ』

――今後のブランディングについてお聞かせください。

今後も、時代に合わせた商品を提案していく予定です。

そのためにも、市場トレンドやお客様の変化には常に敏感でありたいですね。新商品だけでなく、定番商品も定点で調査を実施し、リニューアルポイントがないかを常に探り進化を続けていきます。

また、サステナビリティへの取組みも社会的な使命として取り組んでいきたいと考えています。マウントレーニアでは15年以上に渡りRA認証豆を一部使用しておりますが、今後は容器やブランド全体の取組みなど活動の幅を広げていきたいですね。

リモートワークに適した商品開発もテーマの一つです。

『マウントレーニア』はオフィスで飲むスタイルが主流だったこともあり、コロナ禍の影響を少なからず受けました。長引くおうち時間への対応として、今年はそのまま凍らせて食べられる「フローズンマウントレーニア」をご紹介しましたが、ちょっとした工夫で新たな飲用シーンにつなげることができ、多くのご好評の声をいただけたことは新しい発見でもありました。

『マウントレーニア』をフローズンで!!

『マウントレーニア』の発売から約27年。お客様に支持されてきた一番の理由は、エスプレッソとミルクのバランス感、濃厚な味わいだと考えています。

一方で日本人にとってのコーヒーはこの間で大きく様変わりしました。ユーザーのコーヒー経験値が上がるにつれてコーヒーの役割も変わる。単に「飲む」だけではなく「コーヒー体験」そのものが重要視されてきたように思います。キャンプの時に『マウントレーニア』を飲む方がいらっしゃったり、クリエイティブなお仕事のちょっとした発想の切り替え時にと、今後もさまざまなシチュエーションに寄り添えるブランドであり続けたいですね。

森永乳業