時代に合わせて化けていく! 「再創業」銘柄に注目

株はテーマで斬れ!/ 日興フロッギー編集部山口 洋佑

炭鉱用の電機品メーカーから、産業ロボット日本一になった安川電機。写真フィルムで一時代を築いた富士フイルムがいかに事業転換を図ったか……などなど、老舗企業の歴史を紐解くと、「へえ~」と驚かされることが多くあります。長い歴史の中で時代に合わせて業態を変え、今なお成長し続ける「再創業」銘柄に注目してみました!

同じ紙でも、機能があれば生き残れる 【阿波製紙】

1916年、徳島県で初めて紙すきの技術を機械化した「 阿波製紙 」は、書道用半紙やチリ紙などを生産し、ニーズに応えて成長しました。
しかし戦後、日本人のライフスタイルが西洋化し、和紙産業は衰退。多くの会社が倒産していく中、阿波製紙はそれまでの紙づくりのノウハウを生かし、紙に「いろいろな機能を持たせる」ことで生き残りを図りました。

「電気を通す紙」「においを分解する紙」「ガラスでできた紙」――。阿波製紙の挑戦と技術進化には、目を見張るものがあります。今では自動車のエンジン用フィルターや水処理で使う膜など、建材・食品・電材用のあらゆる産業で阿波製紙の機能紙が使われるようになり、海外展開も順調です。
さらに、プラスチックの中に炭素繊維を入れて強度を上げた「CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」の用途開発を主に自動車用に進めるなど、近年は機能材の開発も盛んに行っています。和紙から独自の機能をもたせた紙、さらに新たな機能材にまで、事業の対象を変化させてきた阿波製紙。今後、どのようなジャンルであっといわせてくれるのか、楽しみです。

写真フィルムから医療分野への華麗な転身 【富士フイルムホールディングス】

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写真フィルムの国産化を目指し、「 富士フイルムホールディングス 」の前身である「富士写真フイルム」が設立されたのは、1934年。以来、国内のトップ・メーカーとなりますが、1990年代にデジタルカメラが普及すると、市場は急速に縮小します。
本業の市場がなくなるなんて、超ピンチ! と思うことでしょう。しかし同社は1980年代から、新しい“事業の種”を育てていました。写真フィルムの技術を応用し、新しいX線画像診断システム「FCR」を開発したのです。実は、レントゲン用のフィルム自体は、同社が戦後間もないころから量産をしていました。早いうちから、医療現場とのつながりがあったのです。

「FCR」を皮切りに、同社は内視鏡やDNA解析装置、血液検査システムなど、診断機器の分野で躍進を始めます。現在は「診断」から「予防・治療」にまで領域を広げ、一気通貫で人々の健康を守る事業に取り組んでいます。
2007年、写真フィルムに用いるコラーゲンの性質を用いた化粧品「アスタリフトシリーズ」が発売されたとき、人々は「富士フイルムが化粧品?!」とこぞって驚きました。しかしこれは一朝一夕の出来事ではなく、脈々と培ってきた技術の集大成だったのですね。

中興の祖が「大変身」させ、ポケモンの今がある 【任天堂】

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任天堂 」は1889年、花札の製造会社としてスタートしました。
1949年、祖父の急死を受けて22歳の若さで社長となった山内溥さん(前々社長で故人)は、花札とトランプの会社を“大変身”させた中興の祖。玩具・ゲームの開発に乗り出し、「レーザークレー射撃システム」や、携帯型液晶ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」でヒットを飛ばします。
その後、1983年に発売された「ファミリーコンピュータ」が大ヒットし、社会現象になったゲームソフト『スーパーマリオブラザーズ』で世界のNintendoとなったことは、周知の通りです。

山内さんは大人も子供も楽しめる娯楽を数多く世に送り出し、任天堂を魅力ある会社に生まれ変わらせました。後継者たちはその個性に磨きをかけています。現在、世界的大ブームを起こしている『ポケモン GO』は、任天堂と関連会社㈱ポケモン、Nianticのコラボレーションによって生まれました。
スマホ用ゲームへの参入が遅く、ファンをヤキモキさせていた最近の任天堂。ポケモン人気によってスマホ参入が軌道に乗り、ヒット作が後に続いていくだろうと、市場の期待は高まっています。

石炭を掘る技術をロボット技術に応用 【安川電機】

明治以降、日本の近代化に多大な貢献を果たしてきた炭鉱。1950年代に石油エネルギーが登場するまで、国内の産業は炭鉱から発掘される石炭によって支えられていました。中でも代表的なのが、福岡県の中央から北部にかけて広がる筑豊炭田です。
安川電機 」は、筑豊炭田にあった炭坑用電機品の受注生産を目的に、1915年に設立されました。発電機や電動機からヒューズなどの小物まで、注文があればなんでも設計・製造する技術集団だったようです。

石炭の時代が終わり、次々と炭鉱が閉鎖していく中、安川電機は生き残りの道を探りました。そして、産業用ロボットに活路を見出していくのです。
安川電機は、炭鉱採掘のために大型モーターを開発していました。その技術を使って、物体の位置、方位、姿勢を制御する「サーボモーター」の開発・製造にいち早く成功。サーボモーターは、ロボットを動かすのに必要な部品でした。最初は下請けでしたが、徐々に産業用のロボット開発に自ら乗り出し、シェアを広げていきます。
現在、産業用ロボットの生産台数では世界一。自動車・半導体・食品などの工場や医療現場で人の代わりに危険な作業をする安川電機の産業用ロボットは、今後の需要も手堅いことでしょう。

フラガールを生んだ「一山一家」の団結力 【常磐興産】

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次に紹介する「 常磐興産 」も、炭鉱から始まった会社です。1884年に創業し、福島県から茨城県に広がる常磐炭田を採掘して栄えていた同社も、石炭の斜陽化によって閉山を余儀なくされます。
追い詰められた当時の経営陣が思いついたのが、豊富な温泉を利用すること。石炭採掘にとって、熱い湯が噴き出すことは危険で、それまで温泉は「天敵」でした。それをも利用しようというのですから、必死の思いが伝わってきます。
「ただの温泉施設では人は来ない」と構想を練り、炭鉱の娘たちがフラダンスを練習してショーを行った経緯は、映画『フラガール』を見た方はご存知でしょう。そのほか、設計、土木、建築、あらゆる事業を炭鉱の社員と家族で賄い、開業した「常磐ハワイアンセンター」(現在の「スパリゾートハワイアンズ」)は、日本最初のテーマパークとして大人気を博します。

常磐興産には、炭鉱時代から掲げる「一山一家」という言葉があります。危険な炭鉱での仕事は、生きるも死ぬも一緒。その言葉通り、炭鉱閉鎖時は全員に仕事を与え、東日本大震災後に福島第一原発事故の影響で観光客が減り、100億の赤字を出した際にも、1人も解雇しませんでした。
震災からの復興も早く、スパリゾートハワイアンズの集客は2015年度には150万人を突破。同年3月に単月で過去最高客数を達成しました。これからも「一山一家」の想いとホスピタリティが、都会から来る観光客を癒し、楽しませてくれることでしょう。

いかがでしたか? 再創業というのは、「ピンチをチャンスに変えた」企業の歴史だということがおわかりになったと思います。現代においても、斜陽といわれる業界の中から、とんでもない企業が飛び出すかもしれない……。そんな目で銘柄を見てみるのも、面白いかもしれません。

今回のテーマで取り上げた上場企業

阿波製紙
富士フイルムホールディングス
任天堂
安川電機
常磐興産

【お詫びと訂正】 (2016.11.18)
初出時に、阿波製紙の炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)がF1の車体に採用されたように記載しておりましたが、こちらはFROGGY編集部による誤りでした。お詫びして訂正させていただきました。
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