東京・芝浦ふ頭での取材の帰り、前回のケンカを引きずって気まずい雰囲気の2人。そのまま帰ろうとするユイに、タカシは「レインボーブリッジの上を歩けるって知ってた?」と話しかける。身近な風景からさまざまな株式会社を学ぶシリーズ、「インフラ編」。
タカシ
ねえ、レインボーブリッジを歩いて渡れるって知ってた?
ユイ
そうなの? 端から端まで歩くなんて大変でしょ。風も強いし。
ちゃんと遊歩道があって、1.7㎞だからゆっくり歩いてお台場まで30分くらい。一度歩いたことがあるけど、通行無料で、景色がすごくきれいなんだ。この機会を逃したら今度いつ体験できるかわからないよ!
確かに……。レインボーブリッジを歩いて渡ろうなんていうのはタカシ君くらいかもね。
そんなことないよ! 最近は外国人の観光スポットにもなっているし、面白いよ。せっかくだから行ってみよう。
そんなに言うならいいけど……。
ほら、東京タワーや晴海ふ頭が見えるでしょ? 天気がいいと本当に気持ちいいんだ。
中から見ると大きさがよくわかって、迫力ある! 海と東京の街並みがきれい!
レインボーブリッジがオープンしたのは、1993年。24年前だから、老朽化はそんなに目立たないな。実はいま日本全国で、道路や橋の多くが老朽化し、問題になっている。
ええ。高度成長期に整えられたインフラが、いっせいに修繕時期を迎えている……。人だけじゃない、「インフラの高齢化問題」が日本に訪れるのよね。高度成長期ほど自治体にお金があるわけじゃないから、壊して新しく作り直すなんて、とても無理。
その通り。大事故にもつながりかねない状況に対して、技術力で貢献しそうな会社が、「 ショーボンドホールディングス 」だ。道路や橋、鉄道、ビルなど、さまざまな構造物の劣化診断から補修・補強工事を手掛ける最大手。グループの中核である「ショーボンド建設」は、「造らない建設会社」というキャッチコピーを掲げている。建設した後の「補修」だけに特化するという意味だね。
既に自治体からのニーズが相当ありそうね。
受注は順調で、ここ数年、最終利益は最高益を更新し続けている。インフラの中でも、まず急ぐのは落下すると危険な橋の修繕。実際、同社の売り上げの約75%が橋梁関連となっている。2031年度には、建設後50年経つ橋梁数が53%と半分以上が老朽化してしまうから、まだまだ、ショーボンドホールディングスの仕事はたくさんある。この流れはしばらく続きそうだね。
専門分野を磨き、大手ゼネコンと差別化
レインボーブリッジの建設を手掛けたのは、海洋土木トップの
「
五洋建設
」。広島県呉市が創業の地で、戦時中に呉港の港湾土木工事を手掛け、技術を培った。戦後はこの強みを生かして海外にも出ていき、スエズ運河の改修工事や、シンガポールの総合芸術文化施設「エスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ」の建設なども行っている。もちろん国内でも、東京湾岸再開発、関西新空港など、近年の臨海部大型プロジェクトを手掛けてきた。海洋土木は特殊な技術が必要で、いわゆる大手ゼネコンが簡単に参入できない分野。2015年度には最高益を達成し、さらに東京オリンピック・パラリンピックに向けて、臨海部の建設を担う同社の活躍が期待されているよ。
建設っていうと大手ゼネコンを思い浮かべちゃうけど、専門分野で強みを発揮して、差別化している会社もあるのね。
「 川田テクノロジーズ 」の子会社で、鉄骨と鋼橋で業界最大手の川田工業も、レインボーブリッジの建設プロジェクトに参画している。同社が特に強みを持つのは、橋梁を作るときの設計、製作、施工、補修までの総合的な技術。吊橋として世界一の支間長をギネスで認定された明石海峡大橋をはじめ、東京ゲートブリッジなども川田工業の仕事だ。
有名な橋をたくさん手掛けているのね。
そのほか、首都圏の重要な交通網である首都高の維持にも関わっている。さっき話した「インフラ老朽化」の最前線にあるのが、首都高だ。開通から50年経って老朽化が進み、これから大規模更新事業が始まるところ。その第1弾となる高速1号羽田線の設計・建設も、川田工業は大手ゼネコンと一緒に受注しているんだ。得意技を磨いてしっかり結果を出している会社といえるね。
建設にも「環境意識」が必要な時代
ほかにも、この風景に隠れていそうな会社はあるかな。
道路といえば、コンクリートのかたまり……。「 太平洋セメント 」はどう? セメントの国内販売シェアが35%でトップ。社会インフラの基盤を作っている会社よね。
いい目のつけどころだね! 太平洋セメントは、1998年に業界大手だった「秩父小野田」と「日本セメント」が合併してできた会社だ。海外展開も早く、1980年代後半から米国、中国に進出。2000年以降はベトナム、フィリピンなど、環太平洋地域に事業の範囲を広げている。最近は環境事業に力を入れていて、廃棄物を再利用することでコストを下げ、同時に資源循環型社会を目指している。東日本大震災が発生したときは、災害廃棄物の焼却処理やセメントの資源化処理に積極的に取り組んでいて、セメントを供給する以外にも、社会貢献の意識が強い会社だと思ったよ。
環境問題は、インフラに関わる企業にとって避けて通れない課題ね。
環境問題に強いといえば、愛知県名古屋市に拠点を置く
「
ダイセキ環境ソリューション
」。土壌汚染の調査から浄化処理まで、ワンストップで行う体制に強みを持つ会社だ。いま、東京都の豊洲新市場の予定地に、土壌汚染が発見されたことが問題になっているよね。同じように、会社がビルや工場を建てるときだって、土壌汚染は大きなリスクだ。製品の安全や従業員の健康を脅かすし、最近は環境意識の高まりを受けて法令整備が進んでいるから、コンプライアンス面でのリスクにもなる。そんなときに味方となってくれるのが同社のサービスだ。汚染状況に応じたさまざまな浄化対策の技術を持っていて、近年は東海地方から関東・関西への進出に注力しているよ。
まさに、建造物を”足元から”支える会社ね。あ、お台場の出口が見えて来た。景色を見ながら歩くと、あっという間ね。
なんか僕、またしゃべり過ぎてない……?!
そうね。
ご、ごめん! そんなつもりじゃなかったんだけど……。
この間は怒ったけど、タカシ君がすごく勉強家なのは知ってるから。よく考えたら、私がもっと頑張って追いつけばいいって思ったの。
いや、ユイは大人だし、えらいよ。こんな僕の話にちゃんと付き合ってくれて。
じゃあ、帰る前にお台場でご飯でも食べようか。
やったー! おしゃれなお店、1軒も知らないけど!
大丈夫、私がわかるから。ラーメンじゃなくてもガマンしてね(笑)。
今回のテーマで取り上げた上場企業
ショーボンドホールディングス
五洋建設
川田テクノロジーズ
太平洋セメント
ダイセキ環境ソリューション