日本の少子高齢化に伴う労働人口の減少は、極めて深刻な問題です。しかし、ピンチはチャンスの始まり。日本はこの問題を世界に先がけて解決できるチャンスとして、「人と共働できるロボット」の技術を蓄積してきました。日本の課題解決に一役買いそうな、「国産ロボット関連銘柄」を集めてみました。
100人以上の顔と名前を覚える介護ロボット【富士ソフト】
介護現場の人手不足にロボット技術で立ち向かうのは、「 富士ソフト 」。独立系のソフトウェアメーカーで、企業の社内インフラや機械制御システム構築などで存在感を発揮している同社は、2010年に「パルロ(PARLO)」という小型ロボットを開発しました。2012年に全国の介護施設への販売をスタートし、800ヵ所もの施設に導入されています。
パルロの特徴は、全身の関節を駆使した動きと、しゃべりや歌もこなす機能。これを使ってお年寄りとのレクリエーション活動に参加し、健康体操のコーチ役まで務めます。パルロは100人以上の顔と名前を覚えられることに加えて、AI(人工知能)を搭載することでなめらかな会話を実現。5歳児をモデルに、人間が愛らしさを感じる年齢の子供の声を発してお年寄りの心に寄り添います。
介護分野のロボット普及は、社会全体にとって避けて通れない道。いまはまだ主力事業ではないものの、来るべきその日に備えて、富士ソフトは介護現場での知見を収集しています。
AIで自発的に動くロボットアーム【ファナック】
世界の工場で「自動化ブーム」が沸騰しています。その担い手になるのは、産業用ロボット。国際ロボット連盟は、その出荷台数は今後4年間で6割伸びると予測を立てています。そんな期待の分野で、世界シェアトップをうかがう国産メーカーが、「 ファナック 」です。同社は1956年に、民間で日本初の「NC」(工作機械の制御技術)開発に成功。創業以来一貫して「機械を制御するための技術」を磨いてきました。その技術を生かし、1990年代後半からは産業用ロボットの生産台数を伸ばしてきました。主力の多関節ロボットアーム、コーポレートカラーの黄色で塗装された「機械の腕」は自動車製造を中心に活躍を続けています。
ファナックは、近未来もしっかりと見据えています。国内外のAI(人工知能)ベンチャーと事業提携し、「ロボットアーム×AI」の開発に取り組んでいるのです。目指すのは、「自分で考え、学習するロボット」。これまでのロボットアームでは、ネジを1つつかむにしても、人間がイチから指示する必要がありました。しかしAIの強化学習を組みこめば、話は変わってきます。無造作に置かれたネジ山にアームを伸ばし、どこからつかんでどこに移動すればいいのかを反復練習で学び、自分で動くことができるようになるのです。AIを搭載したロボットアームは、近い将来、工場への導入が進むのではと目されています。
ロボットも「派遣」の時代がやって来る【川崎重工】
「
川崎重工業
」といえば、鉄道車両や船舶、航空機製造で知られる、日本を代表する重工業のリーディングメーカーです。実は同社は、産業用ロボットの分野でも世界的な競争力を維持しています。半導体ウエハーを運ぶロボットでは、世界シェアトップを誇るのです。
川崎重工の産業用ロボットとの関係は、1969年にまでさかのぼることができます。このころ、アメリカのロボットベンチャーと技術導入契約を結んで、国産産業用ロボットを発売しました。この製品は、国産ロボット第1号の快挙でもありました。
近年発表したのが、衝突防止機能を搭載し、人の隣でも安全に働ける「双腕スカラロボット」。規模の小さい工場などで稼働させることを視野に入れています。確かに、これからの社会で産業用ロボットが活躍するのは、大きな工場ばかりではないでしょう。さらに川崎重工は、この機体を使って産業用ロボットの新たな付加価値を作り出そうとしています。付加価値のひとつは、ロボットを生産現場に届ける「派遣業」。もうひとつは、ソフトバンクの感情認識ヒューマノイドロボット「Pepper」と連携した生産現場への導入サポートです。経験の浅い作業者の教育アシスタントを務め、遠隔操作のデバイスとしても機能するといいます。
上半身が人型の画期的な「双腕ロボ」【THK】
「 THK 」の技術は、普段は見ることのない場所に実装されています。たとえば、製造業に欠かせない機械や部品を加工する「工作機械」。技術の鍵を握るのが、金属ボールからなる機械をなめらかに動かすための機構です。THKはこの「LMガイド」で日本7割、世界5割にもおよぶ圧倒的なシェアを誇っています。
THKが成長戦略のひとつに据えるのがロボット関連事業。ロボットに最適な部品を開発しています。THKが周辺装置を提供したカワダロボティクス製「NEXTAGE(ネクステージ)」は、上半身がヒト型の双腕ロボット。そのビジュアルは他メーカーのものと一線を画していて、頭部と腕部についたカメラの画像認識機能で精密な作業ができます。求められる作業に応じて、「つかむ」「押す」など機能の異なる「手」も装着できることから、幅広い現場で活躍できるのではないかと期待されています。
総合ロボット会社のZMPと共同開発したのが、物流支援ロボットの「CarriRo(キャリロ)」。見た目は単なる台車ですが、作業員が押した経路を記憶し、あとは自走してくれます。
多彩なラインナップで多様化するニーズに応える【不二越】
戦前、富山県で機械工具メーカーとして操業を開始したのが「 不二越 」です。実は、同社は川崎重工と同時期に産業用ロボットの世界に飛びこんでいる国産ロボットメーカーの老舗で、国内大手です。工具メーカーから総合機械メーカーへ、さらに多様な技術を統合したメカトロニクスメーカーへ脱皮するも、1990年代頭に深刻な経営危機を迎えてしまいます。経営再建を果し、2000年代に入ると、主力のベアリングや油圧関連の事業でグローバル展開を図っていきます。小型の工作機械に入っている油圧モーターの世界シェアは5割です。
業績の回復とともに、産業用ロボットへの開発も加速させていきます。主力はロボットアームで、多彩なラインナップで自動車、エネルギー分野で多様化したニーズをとらえてきました。ロボット事業の収益は成長を遂げていて、いまでは業績全体の1割にも及びます。世界的な「自動化」の流れを受け、開発への投資でアクセルをさらに踏んでいます。2020年にロボット事業を業績の4割を担う事業に育てるという目標を立て、200億円の投資を行い、国内外での工場建設計画を進めています。老舗ロボットメーカーの躍進に、期待が高まりますね。
ロボット技術が人と共働する動きは、もう始まっています。実装がもっとも長い期間行われてきた製造業に加え、これからは介護や運送業でも導入が進むことでしょう。人の知恵で生み出された機械が、人間社会の課題を解決する――。そんな社会がやって来る日のために、国産メーカーの実力が試されています。さあ、投資家として、あなたはどこを応援しますか?
今回のテーマで取り上げた上場企業
富士ソフト
ファナック
川崎重工業
THK
不二越