8月28日、持病悪化を理由に辞意を発表した安倍晋三首相。発表直後は大きく円高株安が進み、投資家心理が悪化しました。そこで今回は、これまでのアベノミクスの成果を振り返るとともに、これからのマーケットの見通しを解説します。
企業利益は1.8倍、株価は2.5倍に
2012年11月16日に当時の民主党政権が衆議院を解散して以降、「アベノミクス」を期待して株価は上昇傾向を鮮明にしました。金融・経済政策をフル稼働して「脱デフレ」を目指したのが「アベノミクス」でした。
結果として、企業の利益(法人企業統計全産業ベースの経常利益)は約1.8倍に、日経平均株価は2.5倍にもなりました。
アベノミクスとはなんだったのか
アベノミクスは「3本の矢」で構成されています。その中でも特に重視され、株式市場にもインパクトを与えたのが1本目の矢である「大胆な金融政策」です。
「脱デフレ」を目指すうえで安倍首相が重視したのが、日本銀行による金融政策でした。その時に任命されたのがリフレ派(適度なインフレが経済を活性化させると考える派閥)のひとりである黒田東彦氏です。2%の物価目標を掲げ、 異次元の金融緩和策を実施することにより、経済の活性化と物価の押し上げを図りました。
それにより、円安株高が進行し、企業の利益は大きく増加。雇用市場では、完全失業率は4.1%から2.2%に、有効求人倍率は0.82倍から1.57倍へと大きく改善しました。
「完全失業率」とは、労働力人口(15歳以上の働く意欲のある人)のうち、完全失業者(職がなく、求職活動をしている人)が占める割合で、雇用情勢を示す重要指標のひとつです。また、「有効求人倍率」とは、有効求職者数に対する有効求人数の割合で、雇用動向を示す重要指標のひとつです。景気とほぼ一致して動くので、景気動向指数の一致指数となっています。
「脱デフレ」は道半ば
ただ、雇用の改善は進んだものの、目指していたインフレ率の2%達成はかなっていません。景気回復によってある程度物価を押し上げることはできたものの、2度にわたる消費増税によって個人の消費に対する気持ちが冷え込んだほか、企業による賃上げが限定的となったことが足かせとなりました。
日本経済の底上げはできたものの、完全にデフレを脱却するまでには至らなかったと言えます。
まずは「次の目玉政策」をチェック!
では、今後のマーケット動向を考える上では、なにに注目すれば良いでしょうか。
基本的には政党が変わらなければ、政策の方向性は大きく変わりません。ただ、次の総理大臣がどんな政策を目玉にするかは見極める必要があります。コロナ禍で指摘されている行政のデジタル化なのか、地球環境問題の解決なのか、少子化対策なのか、はたまた地方創生なのか、ということです。
・新しい総理大臣の目玉となる政策はなにか
・withコロナの環境に合致する政策を打ち出すかどうか
もし行政のデジタル化であれば、政府系のシステムを手掛ける 「 日立製作所 」や「 富士通 」、自治体のクラウドプラットフォームを手掛ける「 スマートバリュー 」などに追い風が吹くと考えられます。
一方、地方創生ということであれば、リノベーションをして不動産の流動化を促す「 カチタス 」や、ワーケーションに欠かせないクラウド製品を手掛ける「 NECネッツエスアイ 」などが物色される可能性があります。
9月15日(火)までの各派閥の動きに注目
ここから数週間は政治的な空白が生まれるということから、国内市場は上下にブレやすい状況になると考えられます。さらに米大統領選挙の影響もあり、米国株市場も不安定な相場になる局面もあるでしょう。一方で、新型コロナのワクチンに関しては、着実に臨床試験が実施されているとの報道があることから、悲観する必要はないのではないでしょうか。
目先は、明日・9月1日(火)の自民党総務会にて、総裁選の方式や日程などが決まります。そして9月15日(火)までに行われる投開票で新総裁が決まるため、そこまでは各派閥の動きに要注目です。