実用化が見えてきた“量子コンピュータ”に注目

データから見つかる! 困ったときの投資アイデア/ 日興フロッギー編集部岡田 丈

1分でも早く目的地につくための渋滞回避ルートの探索や、複雑で大量の遺伝情報を処理する必要のあるゲノム解析。そんな膨大なデータを計算・処理できるのが「量子コンピュータ(Quantum Computer)」です。未来の技術と言われてきましたが、近年では徐々に実現化への道が見えてきました。そこで今回はそんな「量子コンピュータ」とその関連銘柄についてご紹介します。

量子コンピュータってなに?

そもそも量子コンピュータとはどんなものでしょうか。
従来のコンピュータでは、あらゆる情報が「0」か「1」のどちらかで表現される「ビット」という基本単位の集合体から成っています。そしてビットの組み合わせを計算することで、情報を処理します。3ビットであれば、組み合わせは8通り(2の3乗)で、計8回計算することで情報を処理します。

一方、量子コンピュータは、「0であり、かつ1でもある(量子力学における“重ね合わせ”)」で表現される「量子ビット」という基本単位で計算し、情報を処理します。従来のコンピュータが端から順番に計算するのに対し、量子コンピュータは重ね合わせを用いることで、同時に計算して情報を処理するというイメージです。

例えば、従来のコンピュータで50ビットから成る情報を処理しようとすると、約1126兆回(2の50乗は1,125,899,906,842,620)の計算が行われます。膨大な数の組み合わせを順番に計算するため、多大な時間を要します。一方、量子コンピュータに50量子ビットから成る情報を処理させる場合、理論的には同時に計算を行います。このため、従来のコンピュータと比べて大幅に短い時間で情報を処理できるのです。

「量子技術イノベーション戦略」決定

そんな中、2020年1月21日に政府が量子コンピュータや量子暗号通信の早期の導入に向けて「量子技術イノベーション戦略」を決定しました。量子技術の研究開発に関する予算を積み増し、産官学(産業界、国や地方自治体、大学や研究機関)が一体となって、実用化へ取り組んでいく方針が示されたのです。

量子技術を応用した量子コンピュータは、従来のコンピュータより圧倒的に速く計算でき、その技術を持つ国や企業は産業競争力で優位に立てると考えられています。ただ、現時点では決定的な優位性を手にしている国や企業はなく、本格的な実用化は20年程度先と見られています。

米国や欧州、中国などは将来を見据えて、国・地域を挙げて量子技術の研究開発に取り組んでいます。日本は、もともと量子技術の基礎的な研究で世界をリードしてきた実績があり、技術水準は高い状況です。しかし、これまでは企業や大学が個別に研究開発を進めてきたというのが実情です。「量子技術イノベーション戦略」は国を挙げて巻き返しを図るべくまとめられたものと言えそうです。

“組み合わせ最適化計算”が得意

量子コンピュータが特に得意とする分野は、膨大な組み合わせの中から最適な答えを見つける計算(組み合わせ最適化計算)です。高性能な従来のコンピュータ(スーパーコンピュータ)をもってしても何年も要する計算が、量子コンピュータであれば大幅に時間を短縮できます。この特性を活かし、例えば、創薬や新素材開発、交通渋滞緩和などへの応用が期待されています。

量子コンピュータには複数の方式がある

量子コンピュータにはいくつかの方式があり、主に4つの方式に分かれています(疑似的に再現したものも含む)。

1.量子アニーリング
2.量子ゲート
3.光ネットワーク(仮称)
4.アニーリング

最終的には、汎用的な計算に使える「量子ゲート」の実用化が目指されているようですが、現状は試作機の段階にすぎません(本格的な実用化には、量子ビットの数が少なくとも100万以上は必要と言われている)。
「量子アニーリング」は商用化されていますが、現段階では課題も多く、限られた分野での試行にとどまっています。
量子ゲートや量子アニーリングの実用化は当分先になると見られる中、現状、従来のコンピュータと専用ソフトを組み合わせて量子コンピュータを疑似的に再現する「アニーリング」などが商用化されています。

量子アニーリング

2011年にカナダのDウエーブ・システムズが商用化に成功した方式です。組み合わせ最適化計算で優れた性能を発揮しますが、組み合わせ最適化計算にしか使えないという制約があります。日本勢では、「 NEC 」が2023年の実用化を目指しています。

量子ゲート

組み合わせ最適化計算だけでなく、より汎用的な計算に使えると期待されている方式です。ただ、実用化に向けた課題は多く、本格活用には20年以上かかるとみられています。米国のグーグル、IBM、インテルや中国のアリババなどが同方式の研究開発を進めている模様です。2019年10月、グーグルは53量子ビットを利用した同方式の試作機にて、スーパーコンピュータで1万年かかる計算を3分20秒で解いたとの論文を発表して話題となりました。

光ネットワーク(仮称)

NTT 」は量子アニーリングや量子ゲートとは異なる光通信技術を応用した新しい方式の量子コンピュータの開発を目指しています。NTTが開発に成功した「量子ニューラルネットワーク(QNN)」というタイプのコンピュータを基盤に、10年後の実用化を目標としています。

アニーリング

従来のコンピュータと専用ソフトを組み合わせて量子コンピュータを疑似的に再現するものです。量子アニーリング方式や量子ゲート方式ほど高速な情報処理はできませんが、従来のコンピュータと比べて格段の速さで処理できるとのこと。「 日立製作所 」や「 富士通 」などは同方式を用いたコンピュータを商用化しています。NECも同方式の商用サービスを2020年に開始する計画です。

少しずつ実用化の道が見えてきた量子コンピュータ。その実現による効果は大きく、各国・各企業が”先手”を取ろうとしのぎを削っています。周辺ビジネスも含めた「量子コンピュータ関連企業」に、これから注目が集まりそうですね。

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