父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。

今日からお金賢者になれる「1分書評」/ 日興フロッギー編集部

「経済を学者任せにしてはいけない」と語る学者自らが書いた世界経済の入門書。文明の黎明期からAIや仮想通貨の話までざっと1万年。「経済学=複雑で退屈」と思っていた人にこそ新鮮な驚きがあるはずです。

資本主義という言葉を使わずに愛と資本主義を語る本

経済学者であるヤニス・バルファキスは「ギリシャで経済危機が起こった時、財務大臣だった人物」でもあります。トレードマークはスキンヘッドにオートバイ。ギリシャは支払い不能だとし、「債務帳消し」を主張した姿を覚えている人もいるかもしれません。
そんな彼がわずか9日間で書き上げたのが本書。

「なぜ、世の中には格差があるの?」

始まりは娘の問いかけでした。その疑問に答える形式で1万年前の文明からさかのぼって経済、金融、政治、宗教を縦断しつつ、一気に歴史を振り返っていきます。

一気にと書きましたが、読む方もまた一気に読めます。著者は優秀な語り部で、エンターテイナーの才もあるよう。本書に難しい経済用語は出てきません。資本主義を語る時も資本主義という言葉は使いません。ギリシア神話や古今の文学であったり、『ブレードランナー』や『マトリックス』などのSF映画を挙げつつ、経済や社会の本質を切り取っていきます。

なぜ、一部の人たちだけに「富」が集中するのか?

なぜ、アフリカから強国が出てこなかったのか?

なぜ、産業革命はイギリスで起こったのか?

一つの問いが次の問いを生み出し、知的探求心が広がっていく。問い続けることの大切さがよくわかる本でもあります。

父はまた、娘にこう語り掛けます。「君には今の怒りを持ち続けてほしい。でも、賢く戦略的に怒り続けてほしい。機が熟したら必要な行動を取ってほしい。この世界をあるべき姿にするために。」

支配者優位の残酷な史実は多々あり、怒りを感じるエピソードも多いのですが、読後感は「美しい」の一言。これだけは娘に伝えたいという強い想いが行間から立ち上ってくるからでしょうか。経済の本であると同時に、親から子への愛の本であるともいえる、不思議な立ち位置の1冊です。