第4回「『103万の壁』が気になる扶養控除や副業にかかる税について聞いてみた」を読む
前回、専業主婦(夫)に対する扶養控除や副業での儲けにかかる税についての話を聞いて、働く気まんまんになったC江。でも個人事業主としてバリバリ働くと、税負担が増えてしまうのが気になるし、なんだか新しい制度も始まるようで……?
そこで今回は、個人事業主4期目のS子とともに、個人事業主が気をつけなければならない税制ポイントについて聞いていきます!
・経費にできるのは「仕事に関係するモノ」かどうか
・損益通算できる所得は不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得
・株の損は、株の儲けと損益通算できる
・青色申告は必須。2020年分から控除額に変更あり
・2023年から始まるインボイス制度に対応せよ
<登場人物>
さんきゅう倉田さん
よしもと所属の芸人。元国税局職員。
S子
フロッギー編集部員。フリーランスで青色申告4期目。節税に情熱を注ぐ。
C江
元経理。配偶者の扶養範囲内で働く、ちゃっかり屋。
「仕事に関するモノ」が経費になる
C江
前回教えてもらった配偶者(特別)控除の考え方、非常に参考になりました。それで、これからは扶養控除の範囲内にこだわらずに、がっつり働きたくなってます。パートも増やしたいし、取材・ライター仕事も増やしていこうかと。
S子
お! ライター業を増やすなら、個人事業主として開業しちゃう?
C江
そこまでは考えてなかった。でも継続的にやっていくなら、「事業所得」になるってことよね。
先生、個人事業主になったら気を付けないといけないことってありますか? 教えてください。
倉田さん
では、今回は個人事業主に関係する税金についてお話ししますね。
倉田さん
まず、個人事業主の所得税について。
個人事業主の所得税はこんな感じで計算されます。
課税所得×税率=個人事業主の所得税
S子
ライター業でいうと経費になるのは、書籍など資料代や交通費、通信費やオフィス賃料などですよね?
倉田さん
そうですね。経費になるかどうかの基準はズバリひとつ。「仕事に関するモノ」かどうか。以上です。
倉田さん
なので、家族や友達との食事はもちろんNG。恋人へのプレゼントなんかも当然NGです。
C江
じゃあ、たとえば取材の後にランチするのは……?
倉田さん
一人で食べるなら、認められません。なぜならば、仕事をしてもしなくても食事はしますから。ただ、業務を遂行する上で必要な場合や売上に直接結びつくようは場合は、経費として認められます。
iPhone 11を経費にするには?
S子
私、自宅のリビングをオフィスとして仕事をしてます。この場合、どこまで経費として認められますか。
倉田さん
自宅兼事務所の人が家賃をすべて経費にするのは難しいです。使用している面積や時間など、正しい事実に基づいて、按分しましょう。
按分(あんぶん)とは、基準となる量に対し比例して割り振ること。
つまり、「業務で使った量:私用で使った量の割合」で、経費になる/ならないを算出できます。
C江
誰が聞いても納得がいくような説明がつく割合を、ってことですね。
S子
あの……そろそろ新しいスマホに変えたいんですが、事業経費で買う方法ってありますか。
倉田さん
なるほど。新しいスマホ、気になりますよね。そのスマホを家族との電話でも使うならば、按分が必要になりますね。
C江
!! 2台持ちにして、新しく買った1台は「仕事だけ」で使えば、経費になるんじゃない?
S子
私用と仕事用ってことか! 携帯2台持ちの人がいる理由が、ようやくわかったわ。
損したものとガッチャンコで、所得税が減る?!
C江
前回、芸人さんは個人事業主で、本業の赤字をアルバイトの給与収入から差し引いて、所得税を安くできるとお聞きしました。これを「損益通算」とおっしゃってましたが、もう少し詳しく教えてください。
倉田さん
「損益通算」は以下の4つの所得がマイナスになったときに、他のプラスの所得から差し引いて、課税所得(税金の計算をする元の金額)を少なくすることができる、というものです。
事業所得・・・事業をして得た収入
山林所得・・・山関係の収入
譲渡所得・・・株・不動産以外の資産(モノ)の譲渡】
倉田さん
「不(フ)・事(ジ)・山(サン)・譲(ジョウ)」と覚えてください。
S子
フ・ジ・サン・ジョウ、フジサンジョウ……。
倉田さん
どういうことかというと、例えばサラリーマンが不動産投資をしていて、不動産所得で赤字があれば、給与所得から相殺できる、というような感じです。
C江
「譲渡所得」ってどんなものが対象なんですか?
倉田さん
モノの譲渡なので、美術品や骨董品などの高価なもの。あとは著作権や特許なども対象となります。
株で出たマイナスも損益通算できる!
C江
損益通算の対象である譲渡所得に株が入っていませんが、株の売買でマイナスが出た時はどうすればいいんですか?
倉田さん
所得税には「総合課税」と「申告分離課税」という、2種類の計算方法があります。さきほどの4つの所得の損益通算は総合課税の場合です。
倉田さん
株の売買益は申告分離課税なので、別の計算になって、株同士の損益通算ができます。
「上場株式等の譲渡損失」は「上場株式等の配当等(公募株式投資信託の収益分配金、2016年以後の公社債等の利子・分配金を含みます)」との通算が可能です。通算するためには、申告分離課税を選択して確定申告することが必要です。
また 、「源泉徴収ありの特定口座」に配当等を受け入れて、当該口座内で生じた譲渡損失と、確定申告をせずに通算することもできます。
なお、2016年以後、「上場株式等の譲渡損失・公社債等の譲渡(償還)損失」と「上場株式等の配当等・公社債の利子等(公募公社債投資信託の分配金を含みます)」を通算することができます。
S子
ちなみに、倉田さんのように芸人さんが本を書いた時って、文筆業ではなく芸人がメイン業務なので、原稿料や印税収入は「一時所得」になるんですか?
倉田さん
僕は、事業所得として申告しています。サラリーマンの方であれば、雑所得になるのではないでしょうか。
倉田さん
一時所得というのはラッキーで手に入った所得です。モノをもらったとか、懸賞に当たったとか。何かをして対価を得たものは「雑所得」になります。ちなみに、宝くじとサッカーくじの当選金は、非課税なんですよ。
個人事業主マストの節税策TOP3
C江
新しく個人事業主になって、税金面で不利にならないようにするには、まず何をどうすればいいんですか?
倉田さん
まず、青色申告事業者としての届け出(青色申告承認申請書)を税務署に提出しましょう。
S子
私、開業届と一緒に提出したよ。青色申告を選ぶと65万円の控除が使えるんですよね! 白色申告でも手間はさほど変わらないから、「絶対青色にしろ!」と教えてもらった記憶がある。
倉田さん
青色申告特別控除で65万円を控除するには、①正規の簿記(複式簿記)での記帳、②損益計算書と貸借対照表を作成する、③決められた期限内に確定申告をする、この3点の条件を満たしていないといけませんが、やっておいたほうがよいと思います。
難しそうに感じますが、会計ソフトに入力すれば、難なくできますよ。
青色申告特別控除は2020年分(2021年に確定申告する分)から変更があります。
従来の条件プラス「e-taxでの電子申告」か「電子帳簿保存」を行うと、65万円の控除を受けることができます。
基礎控除も同時に38万から48万円に引き上げになるので、最大で113万円の控除を使えることに!
S子
青色申告の65万円控除は正直大きいよ。その他にも個人事業主が合法的にできる控除をガッツリ受けようと思ってて、小規模企業共済等掛金控除と、ふるさと納税で寄附金控除を使ってます。
倉田さん
バッチリです。
C江
1に青色申告特別控除、2に小規模企業共済等掛金控除(iDeCO)、3に寄附金控除ね。
意外といっぱい控除できるんだね。私もがんばる!
話題のインボイス制度ってなんなの?
S子
さて。今、フリーランス仲間で話題にあがるのが「インボイス制度」ってやつなのですが、これって、要するに……何なんですか?
倉田さん
「適格請求書等保存方式」というのが正式名称です。漢字ばかりでわかりづらいかもしれませんね。
倉田さん
簡単に言ってしまうと、「適格請求書」という従来よりも消費税について詳しく書いた請求書がないと、請求書を受け取った側が消費税の申告の時に不利になってしまう、という制度なんです。
みなさん、お店で商品を買うときなどに消費税を払っていますよね。でも、実は事業者が代理で集めているんです。そして、お客さんであるみなさんから商品代と合わせて受け取った消費税を、事業者が国に納めています。
納税者本人が税金を支払うのは「直接税」ですが、負担する人と支払う人が異なる消費税は「間接税」で、消費税は間接税にあたります。
倉田さん
消費税の計算方法は、ざっくりでいうと下記の通り。
倉田さん
消費税は、仕入れた税額を控除して、納税することになります。
課税売上高が1000万円以下の個人事業主の方は、現状、消費税の「免税事業者」になっているので、実感がないかもしれませんね。
S子
ハイ……恥ずかしながら免税事業者をやらせてもらってます。
それで、インボイス制度が始まると、どう変わるんですか?
倉田さん
現状では、55円(本体50円+消費税5円)で仕入れたものを110円(本体100円+消費税10円)で売った場合、消費税として差額の5円分を納税することになります。
倉田さん
インボイス制度が始まると、適格請求書発行事業者の登録番号を受けた事業者が登録番号や消費税を記載した請求書や納品書を発行する義務が生じます。
S子
エエッ! ややこしい。
……いままで通りの請求書を出していたら、どうなるんでしょうか?
免税事業者は、取引がDOWN?!
倉田さん
さきほどの例ですと、仕入れの5円分の消費税を認めてもらえなくなるので、商品を売った会社が消費税を10円払うことに。こんなふうに適格請求書をもらえない会社は、消費税で損をします。なので発行してくれない個人事業者との取引を減らす会社も出てくると思います。
S子
ひゃー、大変っ!
で・では、どうすればよろしいのでしょうか?(涙目)
倉田さん
このインボイス制度は令和5年10月からの制度になります。消費税の課税事業者でないと申請が出せないので、まずは、課税事業者を選択しておく。
そして令和3年10月以降、原則として令和5年3月31日までに適格請求書発行事業者としての登録の申請を税務署にすればいいです。段階的措置もあるので、まだまだ焦らなくて大丈夫ですが……。
倉田さん
これまで免税事業者だった個人事業主の方は、課税事業者選択届出書を出すと、消費税を納めることになります。消費税を乗せて請求していた方は、これまで合法的に得していた消費税分を納めることになります。
C江
「益税」って言われるヤツですね。
倉田さん
免税事業者のままいくか、課税事業者になるかは選べますが、仕事が減ったら元も子もないですよね。僕のオススメは、今からしっかり売上を増やして、課税事業者になって準備する、です。
税務調査が入る可能性ってどれぐらい?
S子
ところで、個人事業を営む身としては「税務調査」という響きに心臓がギューッと痛くなるのですが、ぶっちゃけどんな人に入るんですか?
倉田さん
どんな人に……というのは一概に言えませんが……ニュースなどで見かけるのは、脱税額が大きいケースが目立ちますよね。
とはいえ、売上が小さい個人事業主にも税務調査は入りますよ。アルバイトをしている芸人でも入る時はあります。だから、みんなに可能性がある! と思って、しっかり申告するのが一番です。
C江
按分すべきものは按分して経費を計上して、マイナスがあれば損益通算。使える控除を使ってしっかり申請すれば、恐るるに足らず! ですね。
個人事業主もしっかり稼いで、制度を利用しましょう!